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最終話 観測者の選択

最終話 観測者の選択



 白い空間に、音はなかった。




 ただ、静かだった。




 あまりにも静かで――




 先ほど見た“真実”が、嘘のように思えるほどに。




「……本当に、あったんだよな」




 トシノリは、ぽつりと呟く。




「空白の四世紀の真実」




「事実だ」




 ルルは、短く答えた。




 その声は、いつもと変わらない。




 だが――




 どこか、待っているようにも感じた。




「……なあ、ルル」




「何だい」




「もし、これをさ」




 一瞬、言葉に詰まる。




「全部、話したらどうなる」




 ルルは、わずかに目を細めた。




「世界が変わる可能性がある」




「……やっぱりな」




「だが」




 一拍。




「保証はない」




「え?」




「信じられないかもしれない」




「……ああ」




 トシノリは苦笑する。




「正直、俺でも信じきれてない」




「それが現実だ」




 ルルは静かに言う。




「観測した事実と、世界に共有される事実は、別物だ」




「……」




「つまり」




「話しても、変わらないかもしれないってことか」




「そうだ」




 トシノリは、しばらく黙り込む。




 頭の中に、いくつもの考えが巡る。




 真実を伝えるべきか。




 それとも――




「……危険、だよな」




 ぽつりと呟く。




「その通りだ」




 ルルは即答した。




「君はすでに“認識されている”」




 あの存在。




 こちらを見ていた、あれ。




「広めれば」




 ルルは続ける。




「干渉が強まる可能性がある」




「……」




「最悪の場合」




 一拍。




「君自身が、観測される対象になる」




 背筋が、冷える。




 トシノリは、ゆっくりと息を吐いた。




「……なあ、ルル」




「何だい」




「今までのさ」




 少しだけ笑う。




「本能寺も、龍馬も、邪馬台国も、義経も」




「……」




「全部、“答えを出さない”選択してきたよな」




「そうだ」




「でも今回は」




 顔を上げる。




「答え、出せるんだよな」




「出せる」




 ルルは、静かに頷いた。




「それが、この物語の終点だ」




 沈黙。




 長い、長い沈黙。




 やがて――




「……決めた」




 トシノリが、ゆっくりと口を開く。




「俺は」




 一歩、前に出る。




「残す」




 ルルの視線が、まっすぐ向けられる。




「……真実を?」




「いや」




 トシノリは、首を振った。




「そのままじゃない」




「……?」




「全部そのまま話しても」




「信じられないし、危ないだけだ」




 ルルは黙って聞いている。




「だから」




 トシノリは、静かに言った。




「“物語”として残す」




 その言葉が、空間に響く。




「……なるほど」




 ルルが、わずかに目を細めた。




「直接の記録ではなく、間接的な観測か」




「そういうこと」




 トシノリは頷く。




「事実をそのままじゃなくて」




「形を変えて残す」




「……」




「そうすれば」




 一拍。




「誰かが、考えるだろ」




 少しだけ笑う。




「これ、本当なのかって」




 ルルは、静かに息を吐いた。




「リスクを下げつつ、観測を拡散する方法だ」




「難しく言うなよ」




 トシノリは苦笑する。




「ただの小説だよ」




 その言葉に。




 ルルは、ほんのわずかに笑った。




「……いい選択だ」




「そうか?」




「君らしい」




 短い言葉。




 だが、確かな肯定だった。




 その時。




 空間の奥で、あの存在が揺らぐ。




 だが――




 近づいてはこない。




「……干渉が弱まっている」




 ルルが呟く。




「物語という形では、完全には認識されないらしい」




「……助かった」




 トシノリは、肩の力を抜いた。




「トシノリ」




「何だい」




「これで終わりだ」




「……ああ」




「君は、観測者としての役割を終えた」




 その言葉に。




 少しだけ、寂しさが混じる。




「……もう、行けないのか」




「必要があれば、また来ることになる」




「……そっか」




 トシノリは、小さく頷く。




 そして――




 前を見た。




「じゃあ、帰るか」




「そうだね」




 ルルが、静かに言った。




 白い空間が、ゆっくりと崩れていく。




 光が、広がる。




 音が、戻る。




 そして――




 現実へ。


 気づけば、部屋の中だった。




 見慣れた天井。




 いつもの空気。




「……戻ってきたな」




 トシノリは、ゆっくりと起き上がる。




 机の上には、ノート。




 ペン。




「……書くか」




 小さく呟く。




 そして、ペンを取る。




 最初の一行。




 少しだけ迷って――




 書き出した。




 




 ――炎が、揺れていた。


 その物語が、どこまで届くのか。




 誰が読むのか。




 それは、まだ分からない。




 だが――




 確かに、“観測”は始まった。


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