最後の標的
「組織」の殺し屋として「標的」を始末し続けて、もうどのくらいになっただろうか。
「今まで食べたパンの枚数」じゃないが、正直いちいち覚えていなかった。
自分で言うのもなんだが、職業柄長持ちしてきた方だとは思っている。
おかげでいい加減に歳を重ね、初老と言われてもいいくらいにはなった。
そうなると体力や瞬発力にも衰えが出てくるが、そこは「知恵と工夫」で乗り切ってきた。
そんな中、ある標的の始末に少し手間取ってしまったことがあり、俺はそれを機会にこの稼業からの引退を考え始め、「組織」にそれを伝えた。
「組織」の連中も俺の言うことを聞き入れてくれ、「最後の仕事」とうことで一件の指示を俺に下した。
最後の「標的」は同じ「組織」の殺し屋。
最近売り出している若手のホープで、俺も知っているやつだった。
「最近『組織』に反抗的なので、始末してほしい」とのことなのだそうだ。
それを聞いて、俺は心の奥に引っかかるものがあった。
長年培った「カン」とで言うのだろうか、何か心の中でしっくりこない気分だったのだ。
だがこれは「組織」からの指示、断る理由もない。
俺はこの指示を受け、準備に取りかかった。
両肩に受けた銃弾の痛みに耐えながら、俺は狭い裏路地にいた。
俺とあいつじゃ腕の差が大きいことくらい、指示を受けた時から解っていた。
歳の差、体力、どう見ても俺の方が圧倒的に不利だった。
そんなことを考えていたら、
「よお、おっさん」
と、あいつがニヤニヤと笑いながら俺に声をかけた。
「おっさんみたいなのが俺を始末しにきたなんてな」
俺が何も返さないでいると、
「知ってるか、『組織』はおっさんを片付けたがってたんだぜ?」
あいつは俺の正面に立って話し始め、
「オレを始末できればそれでよし、おっさんがやられても結果オーライ。誰も損をしないってわけだ」
と続けた。
…やっぱりな…
俺の心の中の違和感が氷解した。
「じゃあ、これで終わりだな」
あいつが銃を俺に向けた。
それを見て俺は、
「…じゃあ、最後に一ついいモノ見せてやるよ」
そう言ってあいつの背後の方を顎をしゃくって指し示した。
あいつが振り向くと、ちょうどあいつの心臓の位置に赤い光点が灯っていた。
「俺が何も考えずにここまで逃げてきたと思ったか?」
あいつがその意味に気づく一瞬前に、リモコンのスイッチを押す。
あいつの胸が赤い光点から赤い染みに変わり、そしてあいつが苦し紛れに打った最後の弾が俺の胸に吸い込まれた。




