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千物語  作者: 松田 かおる


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することリスト

「あの、すみません」

仕事帰りにバーで飲んでいたら、突然声をかけられた。

声のした方を向くと、そこには人当たりの良さそうな顔をしたおじさんがいた。




「ナンパですか?だったらお断りですよ」

わたしがそう言うと、おじさんは

「あーいえいえ、そう言うのじゃないです。実はちょっと『お願い』がありまして…」

そう言いながら手に持った手帳を広げて、わたしの方に開いて見せた。

そこには

「死ぬまでにすることリスト」

と書いてあった。




「突然のことでびっくりされたと思いますが…」

おじさんはそう言いながら、わたしに話し続けてきた。

曰く、

・医者に「お前は死ぬ」と言われた

・だったら死ぬ前に「したいこと」を叶えよう

・そこで「することリスト」を作って、それを一つずつ実行している

とのこと。


「そこでこれです」

おじさんがそう言いながら見せてきたリストの中に

「素敵なお嬢さんとバーでお話をする」

という項目があった。

「そう言うわけで、少しの間でいいのでお話に付き合ってくれませんか?」

とおじさんは聞いてきた。

「素敵なお嬢さん」と言われて悪い気もしなかったので、わたしはその「お願い」を聞いてあげることにした。




それからおじさんとわたしは、色々な話をした。

おじさんの話は面白くて、時間を忘れてしまいそうだった。


そしてどのくらいの時間が過ぎただろうか、おじさんが

「…とても楽しい時間を過ごせました、ありがとうございます」

そう言って席を立った。

「帰るんですか?」

「ええ。こうしてお話ができて、とても満足しましたので」

そう言っておじさんは店の出口に向かった。

わたしはおじさんの背中に向かって、

「…あの、お元気で!」

そう声をかけた。

おじさんはこちらを振り向いてもう一度笑い、店から出て行った…




「…水を差すようで申し訳ありませんが」

バーテンダーさんがわたしに話しかけてきた。

「あの方、すごく健康ですよ」

「はあ!?」

わたしの驚いた様子にバーテンダーさんは

「ああして女性と話すきっかけを作っているんです」

と言った。

「だって『死ぬ』って…」

「『もうすぐ』とは言っていなかったのでは?」

…確かに。

「楽しそうでしたので声をかけられなくて…」

そう言って頭を下げたが、彼のせいじゃない。

勝手に思い込んだわたしのせいだ。

実際楽しかったし。


…でもなんだか釈然としない。

ということで、わたしの「心のすることリスト」の栄えある一番目に刻み込まれた。


・今度おじさんに会ったら叱り飛ばす

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