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千物語  作者: 松田 かおる


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そんなことないよ。

高校時代からの「マンガ友達」が、あるマンガ雑誌のコンテストで賞を取ったことを知ったのは、わたしがその雑誌を読んだ時だった。

その賞を受賞することは、デビューと同じ意味を持っている。

彼女がその賞に応募していたこと自体、まったく知らなかった。

わたしはすぐに、彼女へ電話をかけた。


「おめでとう!雑誌見たよ、すごいじゃん!」

「ありがとう!早速見てくれたんだ!」

「SNSで忙しそうにしてたけど、これだったんだ。でも水臭いじゃない、内緒にするなんて」

「それはごめんね。自信がなかったからさ」

とは言っているものの、言葉の端ばしからは彼女の自信が見え隠れしていた。


「あなたは応募しなかったの?色々描いてたじゃない」

彼女が聞いてくる。

「あははは、つい出しそびれちゃって」

わたしはそう答えた。

だけどこれは嘘。

わたしだってあちこちの雑誌の賞に応募していたし、今もしている。

それこそ彼女が受賞した雑誌の賞にも…


自信はあった。

…はずだった。

だけどその自信は一切、結果に結びついていない。


「にしても本当に努力が報われたね。いよいよデビューだもんね」

「いやー、弾みで授賞して、勢いでデビューする感じだし」

胸に小さなとげがチクリと刺さる。

「そんなことないよ。実力だよ」

「本当にそれこそそんなことないよ。仕事の片手間で描いた作品なんだし」


彼女のその言葉を聞いた瞬間、頭に血が上った。


何が片手間よ!

SNSとか見て大変そうなのは知ってたんだから!

それを「片手間」だなんて、ふざけないでよ!

じゃあ本気でこの有様なわたしは、片手間のあんた以下だっていうの!?


途中まで口に出かかって、それを飲み込んだ。

今や彼女は「プロ」なのだ。

もう簡単に「辛い」「きつい」などと周りに口にはできないのだ。

きっとこうでも言っていないと、プレッシャーに潰されてしまうのかもしれない。


「何言ってんの、そんなんでプロでやってけるの?」

軽口の隠し味に嫉妬をまぶして言う。

「…そうだね、プロだもんね、あまりうかつなことは言えないね」

彼女の本音と弱気が、一瞬垣間見えた気がした。




「掲載が決まったら教えて。雑誌買い占めるからさ」

「はは、ファン第一号だ、サインの練習しとかないと。じゃあね、ありがと」


見えないぎこちなさを残して、通話は終わった。

それと同時に、自分の筋違いの小さな嫉妬が、醜く恥ずかしいものに思えてきた。


今度彼女に会ったら、その時は素直に気持ちを伝えて彼女に謝ろう。

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