七夕前夜
コンコンコン。
「織姫、入るぞ」
「あ、おとーさん。どうしたのわざわざ?」
「どうしたの…って、明日は七夕じゃないか、準備しないでいいのか?」
「…うーん、今年はちょっといいかなぁ、って」
「なんで?一年に一回あいつに会える日じゃないか」
「それなのよね」
「どれ?」
「一年に一回って言ってもさ、もうかれこれ2500年以上にもなってくると、『そういう時もある』って話」
「だけど一年ぶりにあいつに会えるんだぞ」
「じゃあ、こう考えてみてよ」
「何?」
「地上人が結婚してから死ぬまでの間を、仮に50年とします」
「うむ」
「それをあたし達に当てはめると、大体地上人の一年に当たる期間で50回会ってることになります」
「計算が早いな」
「しょっちゅう考えてるからね。まぁそれはそれとして」
「うむ」
「週一回会ってる計算よ?だったら『今週はいいか…』って気分にもなるってこと」
「仮にも夫婦だぞ、そんなことあるか?」
「おとーさんはどうなのよ」
「ワシはそんなことはないぞ。いつだって一緒にいたいさ」
「で、本当のところは?」
「…まぁ、たまには?」
「でしょー?」
「お前はそれでいいとして、あいつはどうなんだ?あいつにも思うところがあるんじゃないか?」
「本人に直接聞いてみたら?」
「それもそうだな…」
たぷたぷたぷ。
プルルルル…
「もしもしワシだ、元気にしておるか?ところで明日なんだが、実は娘が『会わなくてもいい』って言っていてな…ふむふむ、そうか…わかった。じゃあ体には気を付けるんだぞ」
たぷ。
「どうだった?」
「お前と同じことを言ってたよ…」
「でしょー、そんなものなのよ」
「そこはやっぱり夫婦だな」
「それにいくら年に一度の風物詩だって言っても、デートを覗き見されるのもちょっと嫌なのよね」
「それはあるかもしれんな」
「最近は望遠鏡も高性能でしょ?見られたくないところも見られちゃってさ、下手したら全世界にSNSで拡散よ?大炎上よ?」
「それは困るな」
「こっちも気を付けてはいるけどさ、一応プライベートも欲しいし」
「ふむ…」
「だから、明日のデートはナシということで」
「二人の言い分は解ったが、地上人にはどう言い訳を付けるんだ?」
「雨とか曇りにしておけばいいんじゃない?おとーさん天帝なんだから、そのくらい楽勝でしょ?」
「そうだな、じゃあ、そうしておくか」
「ありがとー!それじゃあお願いね」
七夕の空が曇るとき、案外こんな理由があったりするのかもしれない。




