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千物語  作者: 松田 かおる


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20/22

殴られ人形

「いい加減にしないか!」

痴漢に向かって振るっている手がパーからグー、そしてチョキになった瞬間、駆けつけた駅員と警察官に羽交い締めにされた。




わたしも警察に連行されたけど、痴漢の被害者だったことと「グー」で済んでいたということで、小一時間ほどで「厳重注意」で解放された。

にしても…


-ああいうのはもっと制裁を受けるべきだわ-


そんなことを考えながら歩いていたせいか、気づかないうちに裏道に入ってしまったようだ。

表通りに比べて暗い雰囲気の中、灯りを灯している店が一軒あった。

そこは雑貨屋のようだった。

そしてたくさんある商品の中で、少し異彩を放つ等身大の人形に目をひかれた。

わたしがその人形を見ていると、

「気になりますか?」

と、背後から声をかけられた。

声の方へ振り向くと、老人が一人立っていた。

店主だろうか、老人はニコニコと笑いながら

「それは『殴られ人形』です」

と言った。

「『殴られ人形』?」

わたしが聞くと、老人は

「ストレス解消に殴るための人形です。どれだけ殴っても、人形だから文句も言わない」

老人がそう言った。


さっきの件もあったせいで、つい勢いで「殴られ人形」を買ってしまった。




-ひとつだけご注意を。額についているカウンターが『0』になるまで殴ってはダメですよ-


老人はそう言って人形を包んでくれた。

とは言ってもさすがにそのまま持って帰れないので、タクシーを呼んで家まで帰ることになった。


家について早速、

「…まったく、思わぬ散財だわ」

ちょっとイラッとしたので早速人形を一発殴ると、額のカウンターの数字が減った。




それからというもの、ストレス解消に人形を殴り続けた。

カウンターは毎日リセットされるようで、どれだけ殴ってもカウンターがに0なることはなかった。

物言わぬ人形を殴るだけでストレスが解消できるのは、想像以上に気分がよかった。


そんなある日。

-カウンターが0になったらどうなるんだろう…-

そんな好奇心が頭をもたげ、カウンターが0になるまで殴ってみたくなった。

-まさか爆発しちゃうとかじゃないよね?-

そんなことを考えながら殴り続けて、額のカウンターが0になった瞬間…


人形が爆発した。




目を覚ますと、全身が何かに包まれているような感覚がして、身動きが取れなかった。

視界も悪く、目の前に小さな覗き穴のようなものしかない。


やがて遠くから

「それは『殴られ人形』です」

と言う声が聞こえ、覗き穴の先にはわたしと老人が立っていた…

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