殴られ人形
「いい加減にしないか!」
痴漢に向かって振るっている手がパーからグー、そしてチョキになった瞬間、駆けつけた駅員と警察官に羽交い締めにされた。
わたしも警察に連行されたけど、痴漢の被害者だったことと「グー」で済んでいたということで、小一時間ほどで「厳重注意」で解放された。
にしても…
-ああいうのはもっと制裁を受けるべきだわ-
そんなことを考えながら歩いていたせいか、気づかないうちに裏道に入ってしまったようだ。
表通りに比べて暗い雰囲気の中、灯りを灯している店が一軒あった。
そこは雑貨屋のようだった。
そしてたくさんある商品の中で、少し異彩を放つ等身大の人形に目をひかれた。
わたしがその人形を見ていると、
「気になりますか?」
と、背後から声をかけられた。
声の方へ振り向くと、老人が一人立っていた。
店主だろうか、老人はニコニコと笑いながら
「それは『殴られ人形』です」
と言った。
「『殴られ人形』?」
わたしが聞くと、老人は
「ストレス解消に殴るための人形です。どれだけ殴っても、人形だから文句も言わない」
老人がそう言った。
さっきの件もあったせいで、つい勢いで「殴られ人形」を買ってしまった。
-ひとつだけご注意を。額についているカウンターが『0』になるまで殴ってはダメですよ-
老人はそう言って人形を包んでくれた。
とは言ってもさすがにそのまま持って帰れないので、タクシーを呼んで家まで帰ることになった。
家について早速、
「…まったく、思わぬ散財だわ」
ちょっとイラッとしたので早速人形を一発殴ると、額のカウンターの数字が減った。
それからというもの、ストレス解消に人形を殴り続けた。
カウンターは毎日リセットされるようで、どれだけ殴ってもカウンターがに0なることはなかった。
物言わぬ人形を殴るだけでストレスが解消できるのは、想像以上に気分がよかった。
そんなある日。
-カウンターが0になったらどうなるんだろう…-
そんな好奇心が頭をもたげ、カウンターが0になるまで殴ってみたくなった。
-まさか爆発しちゃうとかじゃないよね?-
そんなことを考えながら殴り続けて、額のカウンターが0になった瞬間…
人形が爆発した。
目を覚ますと、全身が何かに包まれているような感覚がして、身動きが取れなかった。
視界も悪く、目の前に小さな覗き穴のようなものしかない。
やがて遠くから
「それは『殴られ人形』です」
と言う声が聞こえ、覗き穴の先にはわたしと老人が立っていた…




