巻き戻し
♪ちゃららら〜ん!
突然そんなファンファーレが鳴ったと思ったら、
「おめでとうございます!あなたは『時間を巻き戻す力』を手に入れました!」
という声が聞こえて来た。
声がした方を見たけど、気配はあるのに姿はなく、天から声が聞こえて来ている感じだった。
「ということで、あなたは一度だけ『時間を巻き戻す』ことができます!大事に使ってね!」
声はそう一方的に喋ると、気配も一緒に消えてしまった。
「ちょっと待って!」
…と言ったところで目が覚めた。
「…夢?」
「夢の中の話だし」と、自分自身そのことを忘れてしまっていたある日のこと。
交差点で信号待ちをしていたら、
「待ちなさい!」
という悲鳴にも似た女性の声が後ろから聞こえて来た。
何ごとかと思って声のした方を振り返ると、小さな男の子が全力でこっちに向かって走って来た。
そして男の子はあっという間に僕の横をすり抜けて、交差点の方に走って行った。
信号は赤だったけど男の子は一切それに目もくれずに、横断歩道へ突き進んでいった。
「…止めなきゃ!」
そう思ってとっさに手を延ばしたけど、ほんの一瞬の差で手が届かずに男の子は横断歩道に入り、そこにダンプカーが走って来た…
-あと十秒早く手を延ばせていたら-
交差点の惨状を茫然と見ながらそう考えていると、
「カット!」
という声が響いたと思ったら、僕以外の世界がすべての動きを止めた。
それと同時に、
「十秒ね」
と、僕に声をかけてくる者がいた。
そこにはハンチング帽にサングラス、安っぽいメガホンを持った、昔の映画監督みたいな風貌をした男がいた。
「誰?」
僕が聞くと、その男は
「『監督』。あんた、リテイクしたいんだろ?」
と答え、
「はーい!十秒巻き戻し!」
そう高らかに言うと、僕の周りの世界がゆっくり逆再生を始めた。
「あんたの記憶と時間も巻き戻るからね。それじゃテイクツー、スタート!」
男がそう言うと、体が何かに引っ張られるような感覚を覚えて、意識が遠のいた。
「…止めなきゃ!」
そう思ってとっさに手を延ばすと、なんとかぎりぎり男の子の襟首を掴むことができた。
そしてそのまま男の子を横断歩道から引き戻したけど、その勢いで僕の体が入れ替わるように横断歩道に投げ出されてしまった。
「痛ててて…」
倒れた体を起こした僕の視界には、猛スピードで突っ込んでくるダンプカーが写っていた。
そしてダンプカーが僕に衝突するその瞬間、
「カット!」
と言う声が頭の中に響いた気がした…




