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千物語  作者: 松田 かおる


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13/15

先生のお仕事

「すみません! お待たせしました先生!」

喫茶店のドアをにぎやかに開けながら、男が息を切らせて店に飛び込んできた。


「先生」と呼ばれた男は読んでいた文庫本から目を外して、

「いやー、僕ならどうせヒマだから、全然大丈夫っすよ!」

と、なんとも軽い口調で答えた。

飛び込んできた男は、

「ホントすみません、前の先生との打ち合わせが長引いちゃって…」

そう言いながらテーブルについた。

「先生」が

「仕方ないっすよ、編集さんはそういう仕事ですもん」

全然気にしていない口調で返すと、編集は恐縮しながら、

「じゃあ、早速ですが打ち合わせを始めましょうか」

と、仕事口調に切り替えて言った。




「…でも、先生の作品ってすごいリアルですよねー」

打ち合わせがひと段落付いた頃、編集がふと口にした。

「そうかなー」

「先生」がそっけなく返すと、

「『まるでその場にいるようなリアルさだ』って、編集部でも評判ですよ」

編集は少し興奮したように答え、

「特にあれ」

編集はちょうどテレビのニュースで流れている「資産家宅強盗事件」に触れた。

「あー、あれねー。物騒だよねー」

「あの事件も先生の作品そのままの内容ですし、どっちが現実か判らなくなっちゃいますよね」

編集が感心しながら言うと、

「そりゃそうさ。だってあの犯人、俺だもん」

と、「先生」があっけらかんと言ってのけた。


「…へ?」

編集がその言葉に呆気に取られていると、

「そうでもないと、辻褄が合わないじゃない。事件の発生時期も、俺が作品を発表した時期と一致してるし」

と、今までと打って変わった真剣な口調と表情で「先生」は言った。

全く違う「先生」の雰囲気を感じ取った編集が、

「あの…先生?」

と、少し不安を含んだ口調で口を開いた。

「…なんてね!きっと僕の作品を読んだ模倣犯なんじゃないのー?」

と、いつもの口調に戻って「先生」が言うと、

「…あはは、冗談きついですよ先生」

編集がほっとした感じで応えた。

「まー、それだけ僕の作品が人気ってことなのかもしんないねー。あまりうれしくないかもだけど」

「先生」はにこにこ笑いながらそう言った。


「そんじゃ、次の作品の打ち合わせを進めましょーか」





「次の作品は『連続通り魔』、ね…」

打ち合わせを終えて編集が去った後のテーブル。

「先生」はそう呟くとコーヒーを飲み干して、テーブルを後にした。




「ニュースの時間です。先日発生した『連続通り魔事件』の続報ですが、いまだ有力な手掛かりは見つからず…」

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