雲の上の人
「さぁ、今度こそ返事を聞かせてもらうわよ」
開口一番、あいつは言った。
「久しぶりに会って最初に言うのがそれ?」
僕がちょっと呆れた口調で言うと、あいつは
「そうよー、大事なことだもん」
真剣な表情で返して来た。
「で、どうなのよ?あたしとは付き合ってくれるの?くれないの?」
単刀直入に聞いてきたので、僕は
「…ごめん」
と単刀直入に返した。
あいつは一瞬僕をにらみつけるような顔をしたけど、
「だめかぁー」
とあっさり引き下がり、表情を柔らかくした。
「ごめんね」
僕はまた同じ言葉を返した。
「でもさー」
「うん」
「幼なじみで」
「うん」
「家が隣どうしで」
「うん」
「幼稚園から大学までずーっと一緒で」
「うん」
「家族ぐるみの付き合いなのに」
「うん」
「それでもだめなの?」
「うん…」
「もう。こんなぴったりくる相手なんて、そうそういないわよ」
あいつが言いたいことはよくわかる。
でも僕はそれを解った上で、
「…やっぱり君とは、住む世界が違うから…」
そう答えた。
あいつは
「そりゃあそうかもしれないけど、好きな人とはずっと一緒にいたいじゃない」
と、少し不満そうに返して来た。
「僕からすると君は『雲の上の人』だから…」
僕は素直な気持ちを伝える。
あいつはそれを聞いて、
「うーん…」
と唸って黙り込んでしまった。
「でも」
あいつが口を開いた。
「いつまでも待たせてると、君がおじいちゃんになっちゃうよ?」
「『ともに白髪の生えるまで』?」
僕が少し茶化した感じで応えると、
「失礼ね、こんなうら若きレディに向かって白髪だなんて」
あいつは少し怒ったふりをした。
二人顔を見合わせ、つい吹き出す。
こういう気軽な関係は、嘘偽りなくいいと思う。
でもやっぱり、あいつは「雲の上の人」なんだよな…
「…残念、そろそろ時間だわ」
あいつが言った。
「もう?」
僕が聞くとあいつは、
「先にあちこち顔出してきたからね。後回しになっちゃってごめんね」
少し申し訳なさそうに言った。
「いいよいいよ、君に会えただけでうれしかったよ」
僕が素直にそう返すと、あいつは
「次こそはいい返事聞かせてよね?」
少し名残惜しそうに言った。
「待たせるようで悪いけど、もうちょっと待っててよ」
僕がそう言うとあいつは、
「ま、期待しないで待ってるわ。じゃあ、またね」
微笑みながらそう言って、あっさりと帰って行った。
あいつが帰っていくのを見届けた僕は、
「…次はお盆かな」
そうつぶやいて彼女のお墓に背を向けて、家路についた。




