31.ひとまずの勝利、終わらない戦い
武蔵村山市内にて。
「こいつらしつこいな」
辰上宗一は便利屋タツガミと文字の貼ってある自家用車で夜露死苦隊を引き付けつつ逃げ回っていた。
「待てコラクソジジイ!」
「命寄越せぇぇぇええええええッッ!」
「タツガミを殺れええええぇぇぇぇええええええええッ!」
信号無視とスピード違反は当たり前の夜露死苦隊の男達が魔改造バイクに乗って轟音を立てつつ追って来る。
殺気立った夜露死苦隊の表情は修羅の如きものである。便利屋タツガミと関わって以来、夜露死苦隊は不幸の連続である。
すでに総長の訃報は夜露死苦隊中に広がっており、警察に特攻をしかける案も出た。
しかしタツガミが関わった事で今までの事態の悪化が続いたと誰かが的外れな事を言ったが、これが波及し、そのまま行動へと変わってしまったのだ。
元の原因を辿ると、タツガミに爆弾を運ばせた者が悪いのだが、夜露死苦隊にとってはそんなものはどうでもよかったのだ。
一応の天敵を仕留めることで示しをつけて、上位組織である萩原組にも面目が立つ。夜露死苦隊を立て直す事を構成員の全員が優先したのだ。
(漆紀には悪いが、わざと事故を起こさせて大怪我負わせるなり死なせるなりぐらいした方が効果的なハズだ)
宗一は細かい路地を走って敵を誘い、曲がり角を一気にドリフトする。この程度には追手も簡単に対応して難なく曲がって追って来る。
(曲がり角で急なドリフトで振り切って追手を事故らせるのは無理か)
うまく事故に遭わせる事が出来ず、大勢の夜露死苦隊を引き付けたまま逃げ続ける。
しかし、唐突にも後方で大きな衝突音が聞こえてくる。
(なんだッ!?)
宗一の車に衝撃はない。追突されたワケではないならば一体何なのか。宗一は一瞬だけ後方を確認すると、派手な電飾を施した魔改造トラックが夜露死苦隊の集団を跳ね飛ばしたのだ。魔改造トラックのコンテナ部分には大きな文字で「翔出流殺威弾」と書かれていた。
(アレは他の暴走族か!? なんて偶然だ、夜露死苦隊と抗争中のゾクか!!)
「今だぶっ込めえええぇぇぇぇえええええッ! テメエら行けぇぇぇ!!」
魔改造トラックからは爆音のロックミュージックと共に男の怒号が響き渡る。
思わぬ横槍を入れたのは「翔出流殺威弾」と言う暴走族であった。
彼らは夜露死苦隊と抗争している敵対勢力の一つで黒沢組傘下の暴走族であった。恐らくは夜露死苦隊の総長が死んだと一早く情報を掴んで攻め込む好機と睨んだのだろう。もはや便利屋タツガミなど余所に、後方では夜露死苦隊と翔出流殺威弾の戦闘が始まっていた。
(嬉しい誤算だ! これで夜露死苦隊は更に壊れる)
そう思うと、宗一は走り去っていった。
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午前1時34分
廃墟にて
「はぁ……はぁ……やれ、何番隊って御大層なくせに……大した事、ねえな」
息を荒らげつつ、漆紀は床に倒れて悶絶したりノビている夜露死苦隊の8番隊構成員達を見下ろす。8番隊が来る前に倒した構成員達は床に倒れて悶えたりノビた末にそのまま眠ってしまっている。
「辰上、何回吐いた? アタシが見ただけでも今までで6回は吐いてんじゃん。どこにそんな胃液が……」
「あぁ……まだ、戦える。俺はまだ、やれる……まだ、なんにも終わってねえんだからな」
夜露死苦隊8番隊が廃墟に駆け付けると介助は2階で佳樹の見張りをしていた。漆紀と七海が物陰から8番隊に待ち伏せ攻撃を仕掛けて開戦した。。
七海は己の身軽さと持ち前の技術で平然と構成員達を一人一人倒したが、漆紀には七海と違って格闘技術はない。故に、吐瀉物を吹き散らしたり予備の水鉄砲で塩水を浴びせるなど小手先を駆使して戦うしかなかった。
結果としては8番隊に勝利、逃げない者は最終的に全員顔を踏みつけ、おまけに今度は金的まで一発当てた。戦意喪失して逃げ出した者も数人おり、そう言った者は二度と関わって来ないだろう。
「まだ終わりじゃねえ、次は7番隊を呼ぶ。まだイケるか下田?」
「アタシはへーきへーき! 元々運動部だし体力はあるからねー、こんなんまだまだ準備運動!」
「そうか。よし、じゃあ上で太田に話すか」
「じゃあアタシが言って来るよ。辰上はここで休んでな」
「良いのか? ありがとな、下田」
七海が2階に上がり、漆紀はしばし待った。5分程度で七海が降りて来ると親指と人差し指で円を作って「OK」のサインをする。
「よっしゃ、次は7番隊だな」
「あー、でもね。7番隊で最後だってさ。なんか他の部隊が翔出流殺威弾って暴走族と抗争になっちゃってこれ以上戦力割けないってさ」
「と、とんでる……なんだって?」
「翔出流殺威弾って暴走族! そいつらが街の方に出てる夜露死苦隊と抗争始めたってさ」
「そいつは……朗報じゃないか! これで更に夜露死苦隊が弱くなるしボロッボロになる」
「さて、ちょっと想定外だけど次でラストバトルだけど……本当にやれるの?」
「ああ。ここまで来たんだ、俺はやり切るよ。下田、本当にありがとな」
「良いって良いって! アタシはさ、こういう事やってみたかったんだ。漫画みたいなこと、やってみたかったんだ。好きでやってるから、気にしないで」
それでも漆紀は「すまねえ」と言うと、七海は「そこはありがとうで良いんだよ!」と返した。




