30.イカれ野郎
廃墟での乱闘の末、漆紀達は一応の勝利を得た。漆紀と七海は勝てる自信があったが、介助はもっと苦労の末の勝利か最悪逃げるものかと思っていた為、猶更勝利に喜びを感じた。
「オレ達、暴走族相手に本当に勝ったのか? こいつら、起き上がって来ないけど死んでないよな?」
「ノビてるだけだ。顔踏みつけたのも多くて2回だし。それにまだ終わりじゃない、こっからだぞ太田」
漆紀は介助にそう言うと、未だに倒れたままの副長・佳樹に視線を向ける。佳樹は近付いて来る漆紀を睨む。佳樹の両手は介助が持って来た自転車のワイヤーロックでグルグル巻かれて施錠されていた。
「ワイヤーロックを手錠替わりにするってよく思いつくなぁ太田」
「親玉捕らえる場合に居るかなって思ってよ。それに、ワイヤーロックは武器にも出来るしな。頑丈だからぶん回して金属部分で殴る事も出来るし」
「おい、コレ外せよ! テメェらクソガキの癖によ! 何やってんか分かってんのか? お前らカタギの分際で何をやったのか、わかってんのか!?」
「俺は最初のあの時……スーパーでテメェとその仲間にリンチに遭った時、言ったよな? 二度と関わるなってよ。なのに、何度も襲って来て、その度に俺がやり返して、やり返す時も二度と関わるなって言ってんのに……いい加減にしろよ馬鹿どもが! 俺じゃなくて、実際に爆弾を作って配達を俺ん家に依頼した敵勢力の連中を襲えよ! おかしいだろ便利屋に過ぎねェ俺に拘るとか!」
「おかしくはねぇ! テメエが爆弾運んだ所為でウチのモンが3人死んだ! そんでテメェは俺のメンツを潰しやがった!」
「知らねえよそんなの! ふざけやがって……お前ら全員をボコボコにして二度と関わるなってわからせるまで終わらねえからな!!」
漆紀は佳樹の胸倉を掴んでそう叫ぶと、続いて切り出す。
「テメェ確か副長だったよな? お前なら他の仲間を……部隊ごとに呼び出せんだよな?」
「はぁ? 何考えてやがるクソガ」
全て言う前に漆紀は佳樹の腹に蹴りを入れて黙らせる。
「うわっ、ゲロ戦法といい容赦ねえな辰上」
介助は普段学校で見た事のない漆紀の姿を目にしてそう反応するが、七海はどこか嬉しそうに「やれやれー」とワザとらしくヤジを入れる。
「市内を巡回してる部隊を1つずつ呼び出して貰うぞ! 1部隊何人だ? 答えろ!!」
「ぐっ……10人か15人ぐらいで1部隊だ……っ!」
「よし、ケータイ持ってんだろ。貸せ、呼び出す」
「左ポケットだ」
大人しく佳樹が答えると、漆紀が佳樹のズボンの左ポケットを漁る。
「これか。よし、パスワードは?」
「設定してねぇ。指紋認証だ」
「クソ。なあ太田、ワイヤーロックの扱いわかんないから、お前がコイツの指紋を画面に合わせてくれないか? ワイヤーロックを解かずにコイツの指紋取ってくれ」
「良いぞ。ケータイ貸せ」
介助が漆紀から携帯電話を受け取ると、佳樹の後ろに回って佳樹の指を携帯電話の画面に当てる。
「おっ、解除されたな。んで、連絡先は……どれだ?」
介助が首を傾げると、漆紀は佳樹に問い詰める。
「部隊は全部でいくつあるんだ? 市内巡回してる連中は一体いくつある」
「……全部で8だ。便利屋、テメェにバイク壊された3番隊はそこでノびてる連中だ。今巡回してるのは1番、2番、それと4~8だ。まあ、そっからも戦力をこっちに割いてたわけだがよ……へへ」
「何笑ってんだお前」
「お前気付いてないのか便利屋? テメェ、たかだが便利屋に過ぎないだろ。オレらみてェに勢力に属してもねぇで……かといって学徒会でも、政府や警察連中でもねえ、本当にただのカタギに過ぎねえヤツがオレ達に勝つ? へへへっ……本当に気持ち悪ぃぐらいバカでイカれてんのはテメェじゃねえか便利屋ぁっ!!」
佳樹が煽りと恨みが混じった声色で怒号を上げると、漆紀がもう一度佳樹の腹に蹴りを入れる。
「ぐっ……てめぇ自覚がないのか? 本当にやべーのは、てめぇだよ……へへへっ、イカれ野郎。イカれ野郎。イカ」
「無駄口叩いてんじゃねえぞ!!」
佳樹の顔に思いっきり一発ビンタを入れて、漆紀はもう一度胸倉を掴んで問い質す。
「まずは8番隊からだ。お前のケータイの連絡先、どれが8番隊の番号だ?」
「八沢ってヤツの番号がそうだ。8番隊のリーダーは八沢だ」
「よし。太田、ケータイ俺に貸して」
介助から再び漆紀の手に携帯電話が渡ると、漆紀が佳樹に注意する。
「良いか副長。てめぇにはこれから8番隊にここへ来るよう話して貰う。だが、余計な事を言うなよ? ただ呼ぶだけだ。理由は、警備交代だの他勢力のカチコミだのって言い訳しろ。俺達の事を言うなよ?」
佳樹にそう言ってから漆紀は携帯電話の連絡帳内にある八沢という人物の電話番号を決定して通話を開始する。携帯電話を佳樹の耳元まで持って行き、漆紀は佳樹を睨む。
『もしもし、副長っすか?』
八沢なる人物が応答した。そして佳樹は口を開く。
「八沢、今からアジトに来れるか?」
『交代すか?』
「ああ。ちょっと面倒事があってな、8番隊全員こっちに来てくれ」
『おっけー、今すぐ向かうんで!』
そう言うと通話は途切れた。八沢率いる部隊はこちらのアジトにこれから戻って来るだろう。
「お前ら、本気か? 本当に全部の部隊相手に勝てると思ってるのか?」
佳樹は信じられない物を見る目で漆紀と七海、介助を見る。
「俺はまだまだ吐けるぜ。確かに手伝って貰ってるが、これは俺の戦いだ。てめぇら夜露死苦隊全員をボコボコにしねぇとわかって貰えないんだろ?」
「ま、この前の夜襲の怪我を考えればマトモに戦える人数は半分ぐらいじゃない? あとは戦えないか、怪我で弱ってるヤツしか居ないだろうし……そう考えるとアタシら結構な事やったんだなぁ」
不意に言った七海の言葉を聞き、佳樹は信じられないものを見る目を再び向ける。
「お、お前が……便利屋! お前、こんな女一人加わっただけでアレをやったのか!?」
「おい、今なんて言った? アタシをナメてるなコイツ……」
「やめろ下田。出来るだけ体力温存だ……」
「わかってるって! さーって、全部倒す頃には夜が明けるかな?」
「そもそも全部隊呼べるかわからないけど、俺達がこの馬鹿捕まえてる限りは優勢だろ。くれぐれも動くんじゃねえぞ副長」
「なあ辰上。オレが思うに、こいつ上の階のパイプにでも縛り直した方が良いんじゃないか?」
「だな。よし、移動するか。立てオラ! こっちに来い!」
漆紀が佳樹を無理矢理立ち上がらせると、三人で囲いつつ佳樹を2階へと連れた。




