23.事態沈着、警察の取り調べ時間
漆紀と真紀は事務所の外の音を聞いていた。
「お兄ちゃん……今の発砲音って」
「ああ。猟銃じゃない……警官の拳銃だろうな」
そうして汚く低い悲鳴と恐声が事務所にも響いて来た。ふと漆紀と真紀は安心したものの、更なる発砲音に身が引き締まった。
続けざまに、決して長くない間を置いて何度も何度も発砲音が響き渡る。そうして人が倒れる静音が次々に聞こえてくる。
「お兄ちゃん、なんか変だよ! 本当に警察なのこれって……いくらなんでも撃ちすぎじゃない? これじゃ犯人死ぬんじゃ」
「なに心配してんだよ。あのままじゃ俺達が死んでたかもしれないんだぞ!」
次第に静かになり、発砲音は聞こえなくなった。すると、事務所の玄関のドアを叩く音が聞こえた。
「警察です! もう大丈夫です、開けてください!」
漆紀はハッと気づいてすぐさま返す。
「バリケード作っちゃったんで、ちょっと待っててください!」
「ならそのまま動かないで待っていて下さい! もうここは事件現場なんです、あとから行う検証の為にもそのままでいてください!」
警官の指示に従い、そのまま漆紀と真紀はひたすらに待ち続けた。
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時刻は午後9時程。
漆紀と真紀は警察署の一室に居た。
刑事が来るまで待っている二人だが、部屋には二人だけでなく見張りとして警官が一人立っていた。
漆紀は改めて警官を見る。
(こいつ……随分と疲れた表情してんな。それとも働き詰めなのか?)
警官は若いが、どうにも冷淡な印象を受けた。良い体格でまさしく警官といった姿ではあるが、顔の表情は薄っすらとしていて目は鋭い。
そんな風に思っていると、気づかぬ内に警官は二人の近くにいた。
そんな警官は漆紀と真紀の間に顔を近づけるなり。
「犯人は猟銃を持っていて、その取り巻きも凶器を持っている可能性があり、発砲しなければ命の危険があった。そのため全員射殺という結果になった。わかったね?」
唐突に言われたその言葉に漆紀と真紀は「え?」と驚くが、少しの間言葉を嚙み砕くと、その意味を理解して、何故か鳥肌が立った。
そして警官は二人の肩に手を置いて。
「わかったね? あれはパニックによって投降の期待可能性が無く、仕方なく発砲して、暴走族と思われる人物は計7名死亡した。いいね……いいね?」
それは、理解したかという疑問の念を押したのだが、それだけではなく警官は更に。
「いいね? いいねぇ……いいねぇぇ!」
「ちょっとなんなんですかお巡りさん!」
そう言って漆紀が警官の腕を振り払ったが。
「暴れないでください、凶器を持っていると〝想定〟しますよ?」
警官は薄気味悪い笑顔で漆紀にそう言うが、漆紀は気持ち悪さに耐えられずに言い放った。
「そんなに人を撃ち殺したいなら海外行ってヒットマンでもやればいいじゃねえか! なんなんだよあんた!?」
だがその瞬間、警官は漆紀に拳銃を向けた。
「威嚇射撃はない。発砲する」
「お前ッ!?」
「お兄ちゃんッ!」
警官は意図も容易く引き金を引いた。
だが弾など出ることはなかった。その理由は拳銃に弾が装填されてないからではない。
「これを良くみて下さい、ただのエアガンですよ。それに銃がベルトに繋がってませんよ。本物じゃないですよ。へへ、驚いたぁ? へへ、クソガキがよッ!」
およそ見た目と職業に反するクソガキムーブに漆紀と真紀は一瞬呆気に取られるが、すぐさま我に返るなり、漆紀と真紀は全く同じことを言った。
「「あんた精神状態おかしいよ」」
二人は続けざまに文句を言った。
「いきなり突っかかって来てなんなんですか! あんたクスリでもキメてんじゃねえのか? こんな状況でこんな悪ふざけとか退職案件だろ!」
漆紀がそう畳みかけると、真紀が追い打ちする。
「キチだよキチ! この人絶対おかしいよ! ネットである事無いこと掲示板に書き込んでやる!」
二人は怒って途轍もない事を言い放つが、そうこうしている内に刑事が到着し、部屋に入ってきた。
「失礼しますよ」
落ち着いた様子、というよりくたびれた様相の中年の男が刑事だった。
すぐさま漆紀は刑事に訴えかける。
「この警官、変なんです!」
このおじさん変なんです、みたいな語感で言ってしまって少し恥ずかしくなったが、刑事はため息を吐いて。
「おいおいまたか。葉月、お前また勤務中に誰もいないの良い事に悪ふざけしやがったな。今日はホシがナガモノ持ってたからって射殺したらしいじゃないか。しかも取り巻きの奴らと一緒に全員殺ったそうだな。どういうつもりだ?」
しれっと刑事が警官にそう聞くが、漆紀と真紀は心底驚くと同時に、自分たちの傍にいる警官がどれだけタガが外れた危険人物かと理解して縮み込む。
「絶好の機会ですよ、神田さん? これを機に警察は反社会勢力からナメられなくなる。撃つべき時にちゃんと撃つべきなんですよ。彼らの死は仕方ないですよ、撃たなければ本官の頭は今頃散弾でミンチになっておりますので!」
「はぁ……仕方ない。そうだな〝仕方なかった〟し期待可能性はない、だな?」
神田と呼ばれた刑事は葉月に対して眉を下げて睨みを効かせるが、どこか憂う様な目をしていた。
「葉月、被害者を曇らせんじゃねえよ馬鹿野郎! あとはオレが事を済ませるから、お前はとっとと事後処理に行け。てめぇが現場でやった対応なんだからな。それ相応の事は覚悟しろ」
「了解」
そう言うと葉月は曲がりなりにも警官であるからか、申し訳程度に敬礼をして部屋から立ち去った。
「すまないね。あんな奴でもキレ者なんだよ」
「えっと……神田さん? あのー、先程からのやり取り見てると、とても警察とは思えないんですが、普段からこんな感じで?」
漆紀が恐る恐る訪ねてみると、神田はため息を吐いて言った。
「まあ、警察同士じゃ無線連絡以外はかなり酷い言葉使いだったりするよ。よく警察官のパワハラとかニュースになるでしょ? そんなもんよ。まあそんな一面とは裏腹に、犯罪には本気で立ち向かうわけだが」
「やっぱり警察も一枚岩じゃないんですねぇ」
真紀は半ば呆れ気味でそう言うと、疲労もあってか下を向く。疲労により消沈したままの姿勢で真紀は神田に聞く。
「えっと、これからどうなるので?」
「二人は事情聴取。それぞれ別でね。わかったね? じゃあついて来て」
そう言われて二人は鈍い動きで立ち上がって、部屋を出た。




