20.覚醒と逃走!
目をハッと開けた。
気が付けば現実に引き戻されていた漆紀だったが、その右手には先程まで夢で握っていたはずの日本刀が在った。
(現実か!? てことは)
「まだ生きてんのかさっさと死ねえぇぇぇぇえええええええッ!」
勢いよく夜露死苦隊総長・高月が刀を振るう。
「やっべッ!」
咄嗟に右手にある日本刀を振り上げて受け止める。
勢いよく刀同士がぶつかって一瞬の火花を散らすが、漆紀が明らかに不利である。
漆紀はまだ起き上がっていないのだ。倒れたままで刀を受け止めている。
(このままじゃまた斬られる! くそ、さっきの奴……名前を教えなかったな。おい名無し、俺の心の声とか聞こえてんならなんとかしてくれ!)
そう必死に願った瞬間、漆紀の日本刀からは物理法則を無視して水が勢いよく噴き出した。
「な、なんだッ!?」
水が噴き出したことにも驚きであるが、その水圧によって高月の刀が押されつつあった。
「どけってんだよ!」
漆紀は水圧も利用して高月を跳ね除けて、瞬時に立ち上がる。
数歩後ろに退けられた高月は漆紀の姿を見て口を半開きにした。
「なんで……なんで傷が治ってやがるッ!? 確かに斬ったぞ!」
「俺だって知らねえよ……だがこっからはやり返させて貰うからなゾクがッ!」
漆紀は再び心の声を漏らした。
(聞こえてるか? 答えられるなら答えてくれ!)
するとどこに音源も無く、直接頭の中に声が響いた。
(聞こえてる。どうするつもり? あの親玉を斬るの?)
(やり返すっていったけど、殺しちゃだめだ。なんとかこの場をやり過ごせないか?)
(なら、近くの水場まで行って! そこまでは手助けするから、賊の囲いを抜けて!)
(わかった、信じるぞ)
漆紀は先程の夢が単なる妄想ではない事に安堵しつつも、心強い味方が出来た事に高揚を覚えた。
そして漆紀は高月に背を向けて水場へと走っていく。
「逃げんなてめぇッ! おいお前ら! 絶対逃がすなッ!」
そう言うと周りの暴走族どもがこぞってバイクで漆紀へと迫ってくる。
「なんとかしろッ!」
漆紀がそう叫ぶと、刀から途轍もない勢いで水が噴き出す。その強力な水圧が漆紀の身を一時的にだが宙へと飛び上がらせた。
「うぉぉぉおおおおあああああッ!」
バイクの集団を飛び越えた漆紀は、危なげなく着地に成功してそのまま水場へと走り込む。
(水場まで来たぞ。どうすんだ!?)
『飛び込んでッ!』
「クソ! ぁあああッ!」
勢いよく漆紀は水場に飛び込む。右手にある日本刀の刀身が水に触れると、渦を巻き始めて水場の水を搔き集める。濁流ように水をうねらせて竜の如き形を成す。
(これであいつらゾクをぶっ飛ばすのか?)
『いや違う』
竜の形を成した激流によって漆紀は地上から押し上げられて、追って来た暴走族を見下ろす程の高さまで上がる。
(高い高い高いって、落ちたら骨折れるっての!)
『この竜はただの見かけ倒し。兵法とは表面には見えないもの』
少女の声がそう言うと、竜は急降下して暴走族に衝突するかの如く接近するが、ぶち当たる瞬間に竜の形は一気に崩れて、霧散する。
激流がウォータースライダーのように絶妙な具合で衝撃を和らげて無事に着地した漆紀だったが、竜の形を成した激流の残りは全て霧散して、辺り一帯に濃霧が立ち込める。
『三寸先も見えねば、敵を捉える事など不可也。今が逃げ時』
(わかった、真っ直ぐの方向に走り抜けりゃ大丈夫そうだな!)
濃霧を利用して、必死に逃げる。途中で右往左往する暴走族と出くわすが、不意打ちがてら顔面をぶん殴って押し退けて逃げる。
(生きて帰れる! 逃げられるッ!!)
そうして霧を抜けるが、その先には高月がいた。
「なんで、あの霧で迷ってるんじゃ……」
「舎弟が先に行っただろ。俺が最後尾で来たらこのザマか。てめぇホントになんなんだよ」
「俺だって良くわかってねぇんだよ。でもお前、まだやる気なのかよ」
「俺はてめぇを殺すために来てんだよ、逃がせねえよ!」
(なんとかしろ)
漆紀が少女に心で言うと、再び刀身からは水が噴き出した。漆紀は刀身を振るって高月の顔面に勢いよく水をぶち当てて隙を生む。
そのまま漆紀は逃げ去る。高月がバイクで追ってくるが、何度も何度も水を刀から噴き出させて足止めして逃げ切る。
(おい、そろそろ普通に街中だぞ。刀出したままじゃ捕まるんだけど)
『分かった。元に戻ろう』
少女が同意するなり、刀は霧に覆われて跡形もなく消えた。
(お前、一体何者なんだよ? 名無き者って言ってたけど)
『私は名無き者。先程いた私の世界では真名以外は名乗れない。仮名しか知らぬ者は名乗れない。けれど、ここは外……仮名であれば……今なら名乗れる』
(仮名で構わない。教えてくれ、お前の呼び名)
少し間を置いて、彼女は先程よりも落ち着いた声で言った。
『ムラサメ、それが私の呼び名』




