第3話
あの男性が死亡した――
死因は詳しくは教えて貰えなかったが、聞こえて来た話だと突き飛ばされた(警察の調書では殴り飛ばしたことになっているらしい)際に、運悪く後頭部付近に岩があり強くぶつけ、その衝撃で頭蓋骨骨折、脳出血により病院に搬送された後、死亡が確認されたらしい
警察及び検察側は正式に裁判所に、俺への「殺人容疑」での逮捕状を請求……
おれは晴れて、留置所の住人となった
事件から3日目……
「鳥居、面会だ」
映画やドラマでしか見た事のない鉄格子……警官が腰にさげた鍵の束から鍵をつまみ俺の入っている留置所の扉をあける
留置所の出入口は狭く腰を屈めないと出入り出来ない、俺は片手で上部の鉄格子を掴むと頭を下げ、猫のようにニュルっと留置所から頭を抜くと体を滑らすように外へと出た
ガチャ
そして手錠……
もうこの感覚にも慣れた
警官に後ろを歩かれ、俺は面会室と書かれた部屋のドアをあける
「良彦さん!!」
分厚い透明なアクリルの壁に両手をついて、悲壮な表情で俺の名を呼ぶ美しい女性……
だが、いつも丁寧にブラッシングされた黒髪も、薄化粧なのに黒く大きな瞳もいまは、荒れてしまいその眼の下にはクマが……
「鳥居面会時間は10分だ、小声でしゃべる事は禁止だ私にも聞こえる様に会話しろ!いいな」
警官は背後の机に座るとノートに向かってペンを走らせだした
俺は警官に頭を下げ、春香と透明な壁を隔てた向かいの席に座る
そして手毎にあるマイクのボタンを押し、マイクに向かって喋る
「春香、3日会わないだけなのに、もう何年も会って無かったような気にさせられるよ……」
「あぁ良彦さん!こんなに窶れて……うっう………」
春香は口元を押さえて嗚咽する
「心配するな、俺はなにも間違ったことはしてない……人助けをしたんだ、襲われていた女性を助けるために必死で行動したんだ……結果として女性を襲っていた男性が亡くなってしまったけど」
その言葉に嗚咽していた春香の肩がピクッと大きく震えた
「それより、麻由里の様子はどうだ?寂しがってないか?パパは?とかぐずってないか?」
俺の言葉に涙をぬぐいながらコクコクと頷く春香
「えぇ…だから今はウチの実家で一緒に面倒みてもらってる……」
「そうか、義父さんも義母にも迷惑かけるな…よろしく言っておいてくれ」
「あっそうだ、もし義父らが良いならウチに来てもらったらどうだ?なんなら俺の両親にも声をかけ―――」
「大丈夫!!!」
キィィンとスピーカーの音が割れるほどの大声を上げる春香
「お、おい…いったいどうした?何かあったのか?」
顔を青くし俯き気味の妻に対し極力笑顔でそう語り掛けるが――
「――自宅は……報道陣が……」
「なっ!?」
振り返り議事録をとっている警官を睨みつけるが警官は俺の方を振り返ることはなかった
「だ、大丈夫だ!必ず疑いは晴れる!それまで耐えてくれ!」
「えぇ…わかってる、私も麻由里も貴方の無実が証明されて胸を張って家に帰ってくるのを…待ってるから」
春香も大変なんだろうが、俺に心配をかけまいと誠意一杯の笑顔でそう答えてくれた
「あっそうだ、会社…俺の会社から何か言ってきてないか?」
「えぇ、貴方の後輩で部下だっていう池月さんって方が家に来られて『係長の無実が証明されるまで、俺たちが頑張るんで!』って…貴方本当に良い後輩に恵まれたのね」
「あぁ…今度もし池月が尋ねてきたら俺が感謝していたと…伝えておいてくれ」
「えぇ分かった、連絡先も教えてもらったから近々お礼に菓子折りでも持って行こうと思っていたの、その時にでも伝えておくわ」
「―――鳥居、そろそろ10分だぞ」
背後から警官が面会の終了を告げてきた
「それじゃな、麻由里のことくれぐれも頼んだ」
「えぇ貴方も身体に気を付けて……」
春香は面会室へのドアから出るまで何度も何度も振り返り俺に笑顔で手を振っていた…そして俺も
――この時はまだ自分の無実を信じて疑わなかった…だが、悪意の影は刻一刻と俺へと歩み寄って来ていた。




