第13話
話は4年以上前の……角田真理視点へ
場面は4月中頃のオフィス街、桜も散り青い葉が芽吹く街路樹が続く表通り
行きかうサラリーマンたちが帰宅するため、もしくは同僚や友人…恋人と一緒に夜を過ごすため街へ繰り出す姿が沢山うつる。
角田フーズの関連企業である「エッジ・パック」というコンビニに提供する冷凍食品を卸売りしてる企業が入ってるオフィスビルの前
スマホの画面を確認しながらビルの中から出て来たのは、
茶色いショートヘアをシュシュで纏めたスーツ姿の美女
角田真理
日本の食品界を牽引する大企業「角田フーズ」の創業一族である角田家の一人娘
いわゆる社長令嬢という立場の彼女は、父である社長と祖父である会長の意向で関連企業の子会社へと入社していた
エッジ・バックでの彼女の所属は総務部
彼女自身は出自の事で威張ったり他人を威圧したりするようなことは無かったが、やはり周囲で一緒に働く同僚や上司はそういう訳にはいかないのか、敬遠され常に周りから浮いていた。
それも彼女の背負う宿命だと半ば諦めていた。
学生時代も含め彼女に近づいて来るのは色んな意味での下心しかない人間ばかり
他人との関わりに”信頼”を持つことが出来ない彼女だったが、
今、彼女には家族以外に信頼を寄せてる人が”二人”いる
一人は学生時代から色々と相談にのってもらってる角田フーズの顧問弁護士、滝川花音さん
5歳年上で今年29歳となる花音は、今や法曹界で名の知れた才女だ
もう一人は……
『ひっ!こ、来ないで!』
その出会いは最悪だったとしか言えない彼……鳥居良彦
春先のまだ夜風の冷たい公園
会社から指示された講習会に参加した帰り、
講師の先生が横道に脱線した話で盛り上がり、予定を大幅にオーバーして講義が終了。
彼女は帰社を急ぐあまり近道となる夜の公園を通り抜けるようとしていた。
その時
急に視界が暗転し、口が何かで塞がれる。
訳も分からないまま強引に草むらに押し倒され、誰かが上に覆いかぶさる。
真理は混乱と恐怖から身体が委縮し悲鳴すら上げれない。
そんな真理などお構いなしに男性の手が真理のスーツを強引に引き千切り、シャツを乱暴に引き裂く
男の荒い息遣いが硬直し引き攣っている自分の頬にかかる
口に入れられた布のような物をなんとか吐き出し、恐怖に振るえる声で精一杯叫んだ
「た、助けてぇぇ―――!」
「ダメヨ、ココタスケナイ」
男は片言の日本語を口にし再び片手で真理の口を塞ぐと、シャツの中に手を突っ込み下着の上から真理の乳房を乱暴に揉みしだく
「ンン―――!!ン―――!」
不快感、恐怖、焦り……初めての事で正常な判断が出来ない真理は、それでも何とか逃げ出そうと必死で両足をバタつかせる
そんな時
身体の上に覆いかぶさっていた黒い影が急に視界から消えた
「え??」
あまりに突然の事で唖然とする真理……上体を起こし先ほどまで自分に覆いかぶさっていた影の方へ視線を向けた
少し遠くの街灯の明かりと月明かりに浮かび上がる男の顔
東南アジア系の中年男性は白目を剝き口から泡を吹き出しており、その首元は不自然な方向へ曲がっていた
――そして後頭部から流れる血が公園の地面へと広がっていく
唖然と男の姿を見つめる真理の顔の前に突然影が!?
反射的に身構え影の方へと視線を向けると月明かりの逆光に照らし出された人影がスッーと自分の方へと手を伸ばしていた。
「ひっ!こ、来ないで!」
真理の口から出た言葉に、手を伸ばしてきた影は驚いたように体を引いた…
後ずさる真理の視界に月明かりと街灯によって影だった男性の表情がくっきりと浮かび上がる
そこには自分の手をジッと見つめている男性の顔が
っ!?
そして急に眩しく照らし出された男性の顔が強い光によって眩んでしまい見えなくなる……
「動くな!!!」
手を差し伸べていた黒い影だった男性は、何故か手錠をかけられ警官によってパトカーへと連れて行かれる。
真理はその背中を見つめながらようやく状況が理解できた。
「あの人、私を助けてくれたんだ……」
救急隊の人には怪我がないことを伝え、女性警官には先ほどまでのことを覚えてる限り伝えた
「―――はい、その通りです、先ほど連行されていった男性…鳥居さんには暴漢に襲われていた所を助けて頂きました」
そう、私は間違えなくそう女性警官に伝えた
――伝えていた…はずなのに
彼、私を助けてくれた男性、鳥居良彦さんは今、殺人の容疑がかけられていると滝川さん伝手で聞いた
留置所へ何度も何度も面会の依頼をしたが、何故か理由も聞かされることなく却下される
困り果てていた私に滝川さんが手を差し伸べてくれた
それどころか事情を説明したら鳥居さんの弁護を引き受けてくれると言ってくれた
そして弁護士としての権利を使い鳥居さんとの面会を実現してくれた。
あの時はハッキリと分からなかった鳥居良彦さん、短く切りそろえた髪型は少し乱れていたが、その瞳には誠実な人の穏やかな光がただよっていた
「その節は、危ないところを助けて頂いてありがとうございました」
あぁ、ようやく言えた…ずっと心に引っかかっていた棘が抜けたように心が軽くなった
「えっと、君はもしかして……」
「はい!以前公園で暴漢に襲われてた所を鳥居様に助けていただいた……」
「角田真理と申します」
「あぁ、やはりあの時の!」
それからは定期的に鳥居様の元へ花音さんの付き添いという形で面会へとついていき
「――とくに、助けてという叫び声を聞きつけて…という、点は御本人である角田様に証言してもらえればかなり有利になるでしょう」
花音さんの手配で私が鳥居様の証人という形でお役に立てるという…
うれしい
それが素直な気持ち
あの時助けてもらったことを、この程度のことでお返しできるとは思えないけど
それでも、嬉しかった
―――ても、それもすぐ絶望に変わる




