表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/114

第九十七話 査察 ー真実の追求ー

 王都中央、白亜の大聖堂。


 夜明けの光を受けて、巨大な尖塔が空を裂くように伸びている。

 幾重にも重ねられた石のアーチ、精緻な彫刻、そして無数のステンドグラス。

 それらすべてが、この国における神の権威を象徴していた。


 だがその威容の前に、今、異質な一団が立っている。


 王家の紋章を掲げた騎士団『蒼穹』。

 先頭に立つのは、王太子グリズリッド。

 隣に、魔導士長であり、王太子妃であるクロト。

 その斜め後ろに騎士団長レイド。

 さらに後ろに黒いローブを纏った最高位魔導士フェイが続く。


 グリズリッドは一歩も退かず、その巨大な扉を見上げた。


「開けろ」


 短く命じる。

 重厚な扉の前に立つ神官たちが、わずかに顔を見合わせた。


「……本日は祈りの時間です。ご用件があるなら、正式な手続きを――」


 最後まで言わせない。

 グリズリッドは視線だけでそれを断ち切った。


「査察だ。扉を開けろ」


 声音は低く、静かだ。

 だが、拒否を許さない圧があった。


 神官の一人が息を呑む。


「教会は、王権とは独立した――」

「黙れ」


 言葉が、途中で凍りつく。

 グリズリッドはわずかに首を傾けた。


「お前たちに拒否権があると、いつから錯覚していた」


 凍てついた一言で、空気が完全に変わった。

 朝の冷気が、石畳の上を滑っていく。


「こちらも時間がない。いいから通せ」


 背後の騎士たちが一斉に一歩踏み出す。

 鎧の擦れる音が、やけに大きく響いた。


 神官たちは、明確に怯えた。


「……っ、開けなさい!」


 耐えきれず、年長の神官が叫ぶ。

 重い音を立てて、扉がゆっくりと内側へ開いた。


 白い光が、外へと溢れ出す。


「すご」


 フェイがぼそりと溢す。


「ね……私たちが新婚旅行を邪魔した怒りが、申し訳ないことに教会にぶつけられてますねえ」


 レイドが頷き、力無く微笑む。

 

 人が自然にひれ伏してしまう。

 容姿と声と口調と思考、全てが相まって織りなす圧倒的な威圧感。

 グリズリッドはレイドとフェイを一瞥し、何も言わずに前を向いた。


 聖堂内部は、異様な静けさに包まれていた。


 高い天井。

 柱の間を満たす柔らかな光。

 祈りを捧げる人々の姿。


 だが、そのすべてがどこか()()()()()()()


 足音が、石床に乾いた音を刻む。


 グリズリッドは迷いなく中央通路を進む。

 その背後に、騎士たちが続く。


 祈りの声が、ひとつ、またひとつと止まっていく。

 視線が集まる。


 ざわめきはない。

 ただ、息を潜める気配だけが広がる。


 奥へ。

 さらに奥へ。


 祭壇の手前で、ようやく足を止めた。


「教皇サーディスを呼べ」


 簡潔に告げる。

 神官の一人が、慌てて奥へと消えていった。


 しばしの沈黙が聖堂を支配する。

 その静寂は、祈りのものではない。

 嵐の前の、凪だ。



 やがて。

 音もなく、奥の扉が開いた。

 現れたのはひとりの男。


 白を基調とした法衣を纏った彼は、無駄のない所作で静かに近づいてくる。

 そして、すべてを見通すような、亜麻色の静かな眼差しでグリズリッドを真っ直ぐ見ていた。


 ――教皇サーディス。


 場の空気が、わずかに沈む。

 彼は数歩進み、グリズリッドの前で立ち止まった。


 距離は数歩。

 だが、その間には見えない境界線が引かれている。


「これは、また……」


 柔らかな声だった。

 だが、その奥にあるものは冷たい。


「随分と騒がしいご来訪ですね。王太子殿下」


 薄く微笑む。


「神の家に、剣を持ち込むとは」


 わずかに視線が騎士たちへ向く。


「礼を欠いてはいませんか?」


 グリズリッドは一歩も動かない。

 ただ、まっすぐにサーディスを見据えた。


「失礼」


 グリズリッドは、社交用の華やかな笑顔を向ける。

 だがそれはすぐに凍りつく。


「しかし礼を語る前に」


 一段声を落として、静かに言う。


「説明してもらおうか」


 空気が張り詰める。


「この国の人間を、何人、どこへ消した」


 完全な沈黙の末、教皇サーディスはほんの僅かに目を細めた。

 ――その問いの意味を、測るように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ