表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/89

第七十五話 報告 ー人工聖女ー

 次の日の夜に三人が戻った。


 クロトとグリズリッドは執務室で三人を待つ。

 灯りは最小限で、机の上には未処理の書類が積まれたままだ。



 重い扉が開く。

 フェイ、レイド、そしてサラ。


 三人とも無事だ。

 それだけで、まず安堵の息が溢れた。

 だが、三人とも顔がいつもより硬い。


「報告します」


 レイドの声が部屋に響く。


「教会管理下の魔導研究施設を確認しました」


 グリズリッドの指が、机を軽く叩く。


「なんで教会管理下だと判断した」

「戦闘した化け物の額に聖印があったからです」

「施設にかけられた魔法陣も教会のものと一致しました」


 レイドの説明を、フェイが補足する。


「証拠は」

「押収済みです」


 レイドは手に持っていた台帳を机の上に置く。

 分厚いそれは、どすんと鈍く重みのある音を立てた。


「……実験の成功例が記録されています」


 レイドの声が尻窄みに小さくなっていく。

 違和感を覚えつつ、クロトは台帳に手を伸ばした。


 

 ページをめくる指が止まる。

 そこに書かれていたのは、二人の名前。

 自分の名前と、ナシェルの名前。

 

 次に名前の下、ページの端の言葉に視線が移る。

 

「聖力、集束計画……。王命証人番号、第零号……」

 

 その言葉を指でなぞる様にゆっくりと口にする。

 

「これは……」


 隣で、グリズリッドの気配が変わる。


「……説明しろ」


 静かな低い声が命じる。

 呼応するようにフェイが口を開く。


「血統補助因子、A.S-αはおそらくアッサラートの略字です。

 つまり、アッサラートの血を魔力を持った人間に加えるという実験を施した被験者の中で、生き残ったのはクロト様――王太子妃殿下と前聖女ナシェル様だけだという記述かと」


 重い沈黙が執務室を支配する。


「なるほど……」


 クロトの呟く声に、部屋の中の全員が顔を上げる。

 自分の声が、思ったより冷静で安心した。


「私自身にその実験の記憶はないですね」


 さらりと紡がれた言葉。

 サラが息を呑み、フェイが愕然とした顔でクロトを見つめた。


「幼すぎる頃に行われたのか――それとも私の記憶は改ざんされているのか……」


 自分で言っておきながら、背筋に悪寒が走る。

 自分は、どこまで作られた存在であるのか。


「アッサラートの血は聖力を強く引きつける。ならばアッサラートの血を入れた人間なら、アッサラートでなくとも聖力を得られるのではないかと仮定したわけです」


 淡々と言葉が紡がれていく。


「そして、私とナシェルは聖女にさせられた……人工的に」


 わずかに顔を顰める。


「だとすれば、ナシェルより前の聖女たちは、アッサラートの娘たちだった可能性がありますね」


 クロトは、口元に手をやる。


「聖力収束計画……その計画の途中段階で私は聖女じゃなくなってしまいました」


 思考は止めない。

 それはある種の癖とも言える。


「そして、殿下に……王家に聖力は移って行った。ここは、明らかに誤算でしょうね」


 クロトは静かにグリズリッドを見る。


「これは教会の独断か。それとも国家規模の案件なのか……聖力をどこへ収束するつもりだったのか。殿下に危険が及ぶ可能性も含めて……」


 感情より先に、確認すべきことがある。


「調べる必要がありそうです」

「……一点、補足があります」


 フェイの声が割り込む。


「今回の術式ですが――聖石と同系統の構造です。ただし、位相が逆転しています」

「聖石の構造と……逆」


 クロトが目を細める。


「エッダの地下神殿のときにも、同じ報告を受けましたね」


 クロトの言葉にフェイは頷く。


「……誰かが、聖石の力を利用している可能性があるということか」


 グリズリッドの瞳が、ゆっくりとクロトを見る。


「まず、この記録が真実なら、大量の人間が殺されていることになる」


 深い青の中に静かな怒りがある。


「国家主導なら……これは政策だ。ならば責任の所在は王家にある」


 空気が張り詰める。


「その責任から目を逸らすつもりはない」


 クロトは彼の目をしばらく見つめて、頷いた。




「――ねえ、ちょっと!」


 鋭いサラの声が、空気を裂いた。


「これ、あんたのことよ」


 サラは赤く塗った爪の先で台帳を指差した。


「……理解しています。名前が書いてありますから」


 机を叩きそうな勢いで、こちらを見る。


「そうじゃない! あんた、なんで怒らないわけ?」


 クロトは、サラの燃えるような涙ぐんだ黄金の瞳を静かに見つめた。

 

「何でそんな風にいられるのかって聞いてんのよ!」


 クロトは立ち上がり、サラに歩み寄る。

 サラの黄金の瞳から涙が一筋流れた。


「……貴女が私の代わりに泣いてくれるから」


 一瞬、サラの瞳が揺れた。

 それを見たクロトは微笑む。


「私は、私のままでいられます」


 サラの肩が強張る。


「ありがとう。でもまだ感傷的になる段階ではありません」


 青い瞳は強い光を讃える。


「サラ、魔導研究所にもう一度行きます。付いてきてください」


 クロトは一度息を吸う。

 

「これは私個人の問題ではありません。王国の問題です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ