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第三十話 密談① ー古代魔導士の末裔ー

 扉が閉まる音が無機質に響いた。

 フェイは扉を背に立ち、クロトをまっすぐ見つめた。


「……聖石をご覧になりましたよね?」


 クロトは頷く。


「聖石の力は三つあります。ひとつ、聖力を供給すること。ふたつ、聖力を増幅すること。そしてみっつ、聖力による鎮静・浄化です」


 指で、ひとつ、ふたつ、みっつ、と作りながら、フェイは淡々と説明していく。


「……アッサラートという一族をご存知でしょうか」


 一段低くなった声変わり途中の声。

 クロトはゆっくり瞬きした。


「古代魔導士の一族と言う認識でしたが、合っていますか?」

「ええ、そうです。僕はアッサラートの魔導士の末裔なんです」


 今の国王陛下が若い頃、このあたりの大陸を統一したときに王国に統合された少数民族アッサラート。

 古代魔導が一体どんなものなのか、などは謎に包まれた存在だ。

 

「聖石はもともと、アッサラート一族のものでした。しかし、王国と統合したとき、聖石は教会が管理することになった」


 フェイは一拍置いて、再び口を開く。

 

「聖石は本来、アッサラート一族にしか聖力を供給しません。アッサラート一族の人間は、聖石に直接接続し、その力を出力することができる者がいます」


 クロトは耳から入る情報を頭の中で整理していく。


「……本来アッサラートの人間しか使えない聖力を、王都の白魔導士たちが使えるのは、あなたたちを媒介にしているからというわけですか」


 クロトの言葉に、フェイは大きく頷く。

 そして、すこし目を逸らす。


「ただ――貴女は違いました。貴女は、僕たちを介さずに聖力を。しかも、聖石から離れた場所にいたのに」


 それを聞いたクロトは驚くわけでもなく、すこし考えてから口を開いた。


「それは……今回置いておきましょう。考えても答えが出そうにないので」


 冷静な言葉に内心驚きながら、フェイはまたひとつ頷いた。

 必要な情報だけを伝えなければならない。

 そんな圧力を感じた。


「聖力は……魔力に付着し、聖石は魔力を吸い上げます。歴代の聖女たちが亡くなっていったのは、聖石に魔力を吸われすぎたからです」


 需要と供給のバランスが崩れていくのだろうとクロトは解釈する。

 魔力の弱いものは底が尽きるのが早い。

 ナシェルがなぜ弱っていったのかは容易に想像がつく。

 

「身体に聖痕を受けた聖女たちは、聖石によりその聖力増幅の加護を受ける代わりに、自身の魔力を吸われます」


 ナシェルは、初級魔導士にも満たない魔力だった。

 クロトは軽く唇を噛む。

 

「本来魔力は心臓を通り体内を循環しますよね? 故に魔導士は心臓が弱いものが多いはずです。聖力は更に心臓に負担がかかる」


 話を聞けば聞くほど、何故ナシェルは聖女に選ばれたのかという疑問が膨らんだ。

 誰でもいいはずの聖女。

 それなのに聖女はみな一様に死んでいく。

 

「聖女たちの死因は様々です。心臓が耐えられないもの、肉体が耐えられないもの、魔力が枯渇しすぎて亡くなるもの――魔力が枯渇すれば、聖力も尽き、魂ごと燃え尽きる。様々ですが、そう長くは持たないんです」


 クロトは一拍置いてから口を開く。


「前聖女は、心臓を抉られて亡くなったと聞きました」

 

 フェイは考え込むように一度目をきつく閉じた。


「ナシェル様は――かなり弱られていました。ある日突然、花で溢れた自室で冷たくなって見つかったんです」


 クロトは目を細める。


「花……?」


 フェイは頷く。


「白い、百合で溢れていたそうです。ナシェル様が黒魔導士に殺されたと言う者もいますが……」


 言い淀むフェイに、クロトは首を傾げる。


「……僕は、魔導の術式が視えるんです。黒魔導の術式は絡まりやすく、わかりやすい」


 フェイは顔を顰める。


「ナシェル様の部屋からは、黒魔導の術式は視えませんでした」

「それはつまり……自害の可能性がある?」


 クロトの言葉に、フェイは弾かれるように顔を上げた。


「あ、あの……」


 話しにくそうにフェイはおずおずと口を開く。


「アッサラートに、古くから伝わる伝承があって……」


 言葉を選びながら、慎重にフェイは言葉を紡ぐ。


「死ぬ前に、嫉妬、憎悪、執着などの暗い感情を持つ魔導士に、闇は近寄り――心臓を捧げた者は黒魔導士として堕ち、輪廻転生の輪から、外れるという話です」

「心臓を……捧げる」


 フェイの話を聞き、クロトは茫然と眼前に浮かぶひとつの仮定を見つめた。


 夢に出てきたナシェルは、生前のナシェルとは違う雰囲気を醸し出していた。

 

 クロトは息を呑む。

 もしこの仮説が真実なら、黒魔導士の正体は……。

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