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第ニ話 明日

 聖女選出の間を出て、グリズリッドはすたすたと先を歩き始めてしまった。

 ついて行った方がいいだろうと、彼の背中を見つめながら歩く。


 背が高いから、当然足も長い。

 歩幅が全然違うので、小走りで追いかける。


「あの」


 背中に声をかけると、グリズリッドは無言で止まった。


「ありがとうございました」


 礼を言うと、グリズリッドは横顔が見える程度の角度で振り向く。


「……何の礼だ」


 落ち着いた声。

 放蕩王子はどこへやら。

 先ほどまでの華やかさが陰っている。


(こちらのほうが、幾分話しやすい)

 

 クロトは内心驚いたが、顔には出さずに答えた。


「殿下のおかげで、望みが叶いましたので」

「聖女を断り、魔導士を続けるのが望み……か」


 グリズリッドは遠い目をして呟き、また歩き始める。

 クロトは急いで走って追いかけた。


「前の聖女が亡くなって、半年――早いものだな。王都ではもう、次の話が出ている」


 まるで天気の話のような口調だった。


「聖女は替えがきく」


 でも、と彼は続ける。


「一人の人間なのに」


 その言葉に、指先が強張る。


「ちょっと二人とも、待ってくださ〜い」

 

 やけにのんびりした男性の声に呼び止められて、グリズリッドとクロトは振り向く。


「黒魔導士討伐の出発は明日なんですよ?」


 薄い橙色の髪をした騎士は追いつくなり口を尖らせて文句を言う。

 選出の間から出てきたところを見ると、この方は先ほどのやり取りを見ていたのだろう。


「彼はレイド。騎士団『蒼穹』の騎士団長だ」

「よろしくお願いします」

「いやいや、涼しい顔してよろしくじゃないんですよ。魔導士部隊を迎える準備なんてしてないんですから〜。馬とか、食料とか……」


「私一人、そんなに食べませんよ?」


 首を傾げると騎士団長レイドは目尻の垂れた鳶色の目を見開く。

 

「お一人なんですか? 最高位魔導士って部隊を持ってたりとかしないんですか?」

「最高位魔導士は一人で任務に向かいます」


 レイドは首を傾げる。

 

「へえ、ソロプレイなんですね? 急に明日出発で大丈夫です? 他のご予定とか……」


 気遣ってくれる様子のレイドに、クロトは頷く。


「他のものに行かせますので大丈夫です」

「そうですか。まあ、それは良かった、のか?」


 騎士団とは随分異質なのだろう。

 レイドは首を捻りながら、何か色々飲み込んだようだ。

 

「でも馬はどうしましょうか」

「俺の馬に乗せればいい」

「ええ? 殿下の?」

「問題ない」


 グリズリッドはクロトを視界に入れず、ぶっきらぼうに言い捨てた。

 先ほどと同じ人とは思えない変わりよう。

 軍人としての顔なのかも知れない。


「それでいいですか? 魔導士殿」


 申し訳なさそうにするレイドに、クロトは頷く。


「はい」

「話は終わりだな」


 それだけ言って、グリズリッドは去っていく。

 廊下に残されたクロトとレイドは、ゆっくり顔を見合わせた。


「はー、すみませんねえ。びっくりしたでしょう? 第二王子殿下は二面性がおありなんで」

「ああ、ええ、そうですね」

「クロンクヴィスト公爵令嬢――いや、魔導士殿は、社交界には顔を出さないって有名ですからねえ。殿下は社交界用のお顔を分けていらっしゃるんですよ」


 グリズリッドの姿が見えなくなってから、レイドは小さく息を吐いた。


「……お耳拝借」


 そふそふと耳朶に吐息をかけられ、再びクロトの肌が泡立つ。


「前の聖女――ナシェル様の件です」


 クロトは小さく息を呑んだ。


「あなたの代わりに亡くなった」


 素早く飛んで、レイドから距離を取り、いつでも攻撃魔導が放てるように構える。

 右手に小さく複数の火花が飛んだ。


 レイドはやだなあと笑いながら、降参とばかりに両手をあげてひらひらさせた。


「ナシェル様の死因をご存知ですか?」


 指先が無意識に握り込まれる。


「生きたまま心臓を抉られていたそうです。むごいことです、おかわいそうに」


 クロトはゆっくり息を吸った。


「……レイド様」

「様なんて、やめてください。クロンクヴィスト公爵令嬢」

「ではレイドさん。その話はここまでにしましょう」


 自分でも驚くほど、声は静かだった。

 レイドはにこりと目を細めて笑う。


「失礼、私たちもわからないことがたくさんありまして。何かご存知のことがあれば情報共有できるいただけると助かります」


 クロトは彼を睨む。

 飄々として抜け目のない狐が何かのような男だ。


「我々騎士団が黒魔導士討伐に行くのはこれで三度目なんです。殺された魔導士たちも見てきましたが、皆一様に心臓を抉られていました」


 前聖女ナシェルと同じように。

 クロトは一度目を閉じて、改めて開く。


「任務の準備を優先してください」

「情報共有する気はないってことですか。仕方ないですねえ」


 無邪気にも聞こえる声音でそう言うと、レイドは続ける。


「ちょっと付いてきていただけます? 別室で説明いたします」


 レイドが先に歩き出した廊下を、クロトはしばらく見つめていた。


 ナシェル。

 その名前を心の中でだけ、そっとなぞる。

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