表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/114

第百十一話 合流 ー無人の城の案内人ー

「この城、誰もいなくない……?」


 サラの言葉に、レイドとフェイが頷く。


「数人小間使いがいましたが、何を聞いても同じことを繰り返すのみ——あとねえ、嗅いだことある匂いがしたんですよねえ」


 レイドは鳶色の瞳を細めた。


「匂い?」

「ええ、アンデッドの匂いです」


 フェイがレイドを見やる。


「あと、逆位相の力を感じました」

「てことは、黒魔導……いや、黒聖石の力ってわけね」


 城の奥へ進むにつれ、逆位相の力は濃くなる。


 廊下の先に人影が揺れた。

 黒い外套。

 暗色の長い髪。

 すらりと長身の女性だった。


 その人物は、こちらに気づくと軽く首を傾げる。


「……誰だい?」


 女の声のようにも、男の声のようにも聞こえた。

 次の瞬間、女性が視界から消えた。


「フェイ殿!」


 レイドの叫び。

 漆黒の刃がフェイに振り下ろされる。


「速……!」


 目を丸くしたフェイは瞬時に移動魔導の印を切って避けた。


「やっと、人間が出てきましたねえ」


 レイドは素早く六尺棍を握って構えると、フェイとサラを背後に庇う。


「おや、その制服……」


 銀に近い灰色の瞳がレイドを捉える。


「騎士団『蒼穹』じゃないか」


 レイドが目を細める。


「ご存知で?」

「もちろん」


 赤い唇が弧を描く。


「あたし、リズ様の愛人だから」

「……は?」


 三人の声が揃った。


「名前はハルヒ」


 ふふ、と肩を揺らす。


「夜のお相手専門さ」


 サラが眉をひそめ、フェイは無言で一歩下がり、レイドは盛大に吹き出した。


「ちなみに三番目」

「……増えた」

「それ、ほんとなわけ?」


 揶揄うようにハルヒは笑った。


「さあ?」


 天を仰ぐレイドに、ハルヒがしなだれかかる。


「あは、かわいいじゃない」


 ハルヒがレイドの腕に絡みつく。

 サラは無言でその手を払いのけた。


「触らないで」


 黄金の瞳でハルヒを睨んでから、サラ自身が一番驚いた顔をする。


「……あ、え?」


 ハルヒが目を細めた。


「あらあら」


 レイドが目を瞬き、サラは頬を赤らめる。

 

「それより、あんた……男?」

「んふ」


 ハルヒは妖艶に笑う。


「どっちでもいいだろ?」

「よくないわよ!」


 サラは思わず声を荒げてから、はっと口をつぐむ。


「……いや、そういう意味じゃなくて!」

「へえ?」


 ハルヒがにやりと笑う。


「嫉妬?」

「はぁ!? 違うし!」


 ハルヒは銀灰色の瞳でサラを見つめる。


「……その制服、最高位魔導士か」

「何で知ってるわけ?」


 サラは細くくびれた腰に手を当てる。


「情報屋だから」


 ハルヒはふっと笑った。


「ちょっと探し物しに来たんだ」


 レイドが六尺棍を構えたまま目を細める。


「何を探しているんです?」


 ハルヒはレイドをじっと見つめ、やがてゆっくりと赤い唇を吊り上げた。


「黒聖石——魔導士の心臓から作られた、呪われた石」


 ハルヒはレイドの心臓のあたりを人差し指で小突く。


「それの計画書を探してる」


 弧を描いた赤い唇が囁く。


「利害、一致してると思わないかい?」


「僕は嫌ですよ。こんな得体の知れない人」

「ふうん」


 ハルヒはフェイをじっと見つめ、ずいと距離を詰める。

 鼻と鼻がぶつかりそうな距離に、フェイは菫色の瞳を見開いて後ずさった。


「よく似てる」


 フェイは不機嫌そうに眉を顰める。

 誰と? など聞かなくてもわかった。


「この先にいるはずだよ」


 ハルヒは廊下の奥を指差す。

 その言葉に、フェイの脳裏にある人物の顔がよぎった。


「……イヴが?」


 フェイは菫の色の瞳を見開くと、真っ直ぐに駆け出す。


「ちょっと、天才君!」


 サラがその後を追う。


「……少々お聞きしたいのですが」

「なあに?」

「殿下の指示で動いてるんですよね?」

「……じゃなかったら?」


 レイドはにっこりと笑う。

 

「消します」


 ハルヒは一度笑顔を消し、そしてまたゆっくりと微笑んだ。


「そう、リズ様の指示だ」


 レイドはふっと息を吐き、六尺棍を肩に担ぎ直した。

 

「一旦信じますか――行きますよ、ハルヒさん」

「疑り深い〜!」


 二人が地を蹴り、サラとフェイの後を追う。

 長い廊下の突き当たり、開け放たれた大扉の先は夥しい量の魔力が渦巻く実験室だった。


「……イヴ」

 

 先に到着していたフェイの声が、微かに震えている。

 サラがその背中に追いつき、遅れてレイドとハルヒが室内に滑り込んだ。

 

 部屋の中央、禍々しい黒い石が埋め込まれた祭壇の前に、その少年はいた。

 腰まで長く伸ばした銀髪に、白い教会の法衣を纏った少年が振り返る。

 『蒼穹』の騎士や、最高位魔導士のサラには目もくれず、少年はただ一人、フェイだけを菫色の瞳で見つめて微笑む。


「遅かったね、兄さん」

「お前……何やって……」


 フェイは大股でイヴに近寄ると、両肩を掴んだ。


「ふざけるな! これのせいで何人の魔導士が死んだか知ってるのか!? お前は……お前はなんでここにいるんだよ? 何をさせられた? 一体、何をした!?」


 肩を強く揺さぶられたイヴは、薄く笑う。

 

「怒らないでよ兄さん。ユリクシス様は、僕を救ってくれたんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ