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第百十話 議会 ー深青の宣戦布告ー

副題何が良いかな


 王宮中央棟、円形議場には、貴族、教会、王国官僚――国の意思決定を担う者たちが、一堂に会していた。


「中級魔導士が何者かに心臓を抉られ、殺されるという事件が二年前から頻発していました」


 中心に立つ魔導士長クロトは、静かな声で淡々と述べる。


「死者は百三十六人。最初の被害者は、前聖女ナシェル・クレメント」


 議場がざわつく。

 クロトは続ける。


「当時、竜の討伐を最優先とした前魔導士長の判断に異論はありません。狙われたのが中級魔導士だったことから、優先順位が竜害より下がったことに対しては、魔導士側の責任があります」


 クロトは言葉を一度切る。

 そして、静かに口を開いた。


「ですが……百三十六人です」


 静かな声。

 けれど、重い。


「そして、黒魔導士討伐後、事件はぴたりと止まりました」


 ざわめきは、どんどん増していく。


「なぜ心臓を抉ったのか」


 クロトは議場を見渡す。


「その答えが――ここにあります」


 その瞬間。

 議場の空気が変わった。


「黒聖石作成のための計画書」


 クロトは机の上に、革紐で綴じられた文書を置く。

 乾いた静かな音が響き、議場の空気が凍りついた。


「そんなものが……」

「存在するはずが……」


 教会席から、掠れた声が漏れる。

 クロトは静かに頁を開いた。


「第一工程。魔導士の心臓摘出」


 ざわめきが止まる。


「第二工程。聖力の抽出」


 誰かが息を呑んだ。


「第三工程。黒聖石への定着」


 クロトは顔を上げる。


「……百三十六人」


 静かな声。


「殺された魔導士全員の心臓は、この計画に使われました」


 波を打ったように静まった議会は、再びざわめき始めた。


「ありえない」

「誰がそんな」

「捏造だ!」


 口々に放たれる言葉をクロトは静かに受ける。


「では、署名をご覧ください」


 最後の頁を開き、クロトは書類を側に寄ってきたグリズリッドに手渡す。

 受け取ったグリズリッドはつかつかと迷いなく歩き、父王の前で止まると、黙って署名を見せた。

 じっとそれを見つめていた王は、ふと視線を逸らす。

 

「確かに私の署名だ」


 どよめきが爆発する。


「だが、この内容は承認していない」


 王の群青の瞳が、グリズリッドを射抜く。

 

「私は黒聖石の研究は許可した。しかし、その作成方法の記述は見ていない」

 

 グリズリッドは王を見下ろしたまま、静かに一度目を閉じ、そして徐に背を向けて議会に振り返った。


「陛下がこのような非人道的計画をお許しになるはずがない」

 

 低い声が議場に響くと、ざわめいていた声は瞬時に静まり返った。

 グリズリッドはゆっくりと議場を見渡す。


「黒聖石研究は極秘事項だ。教会に通じ、魔力を扱え、王宮内部への影響力のある者」


 一つずつ、指を折る。


「これだけの条件を満たす人物が、何人いる?」


 教会席の空気だけが、目に見えて重くなる。


「まさか……」


 誰かが呟いた。


 グリズリッドは動かない。

 騒ぎをそのまま放置し、やがて低く言った。


「誰が陛下を欺いたのか」


 議場の視線をユリクシスへ向ける。


 視線を向けられたユリクシスは、微動だにしなかった。

 いつもと変わらぬ優雅な面持ちで、微笑を浮かべて。


「……そう怖い顔をしないでください、王太子殿下」


 穏やかな声で言う。

 まるで叱られた子供を宥めるような。


「私は逃げませんよ」


 視線を向けられても、ユリクシスは微笑んでいる。

 その姿に、グリズリッドの眉がわずかに寄った。


「……この計画書には続きがある」


 低い声。


「実行者の名前が、そこにあるはずだ」


 ユリクシスは答えない。

 ただ、静かに目を伏せる。


「見つかるのは、時間の問題です」


 グリズリッドの顔が苦しげに歪んだ。


「そう」


 その声は、驚くほど穏やかだった。


「手間をかけたね」


 ユリクシスに穏やかに微笑まれ、グリズリッドは目を細める。


「王太子に告げる。徹底的に調べよ」


 その背中に、父の声が刺さった。

 

「……仰せのままに」


 半分振り返り、グリズリッドは簡易的な礼を送る。




 議会から人が出た頃を見計らい、王はグリズリッドに近寄り声をかけた。


「見事だったな」


 グリズリッドは簡易的に一礼する。


「陛下のご判断を疑う者は、この国にはおりません」


 そこで一度言葉を切る。

 深い青の瞳が、真っ直ぐ父王を射抜いた。


「……ですが」


 やはり、愛想のいい笑みはない。

 あるのは、真剣のような鋭い顔だった。


「努々お忘れなきよう」


 射殺すような目をした息子は最後まで笑わない。


「私は、必ずあなたを暴きます」

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