08 不満の溜まる社会に人の心はゴブリンのように荒む
短編作品「逆にゴブリンがこっちの世界に転移してきたら」を分割したバージョンです。
内容は変わりありませんが、少し読みやすくなると思います。
(短編バージョン)https://ncode.syosetu.com/n6469ji/
「どうもー、ゴブリン退治チューバーのユウシャでーす」
ファンタジーゲームの主人公のような甲冑を纏った男は、ゴブリンを残酷に殺害する様子をネット動画に上げることで人気を博していた。
「こいつ等は、明日で死んじゃうゴブリンなので、最期はユウシャの手で葬りたいと思いまーす」
ネットのコメント欄は「やれー」「失業の怨み!」といった肯定意見と、「やめれ!」「自然に死なせてやれ」といった否定意見など、悲喜こもごもなコメントが流れてくる。
鎧の男はもったいぶるようにゴブリンを、剣の切っ先で弄ぶ。ゴブリンはと言うと、目隠しに全身拘束で、その様子は処刑上の罪人そのものだ。やがて、男の勢い良く振った剣が首を切り落とすと、動画は終了となった。
他にも「ゴブリンで試してみた」「ゴブリンに最期の思い出を作ってあげた」など、使用済みゴブリンをオモチャにするコンテンツは人気を博した。悪趣味と言われようが、人は時にそのような「禁忌」に触れてみたくなる側面を持っている。
どうやら、私にもそのような癖と言うか業というか、そういったものを持っていたようだ・・・。
会社を解雇された私は、求職活動の傍らで、こういったゴブリン虐めの動画を見ることが密かな楽しみになっていた。失業からの鬱憤から、ゴブリンを自分に居場所を与えない社会に見立てて楽しむということだ。
「そもそも政府は、政商のタケダの関連企業ばかり優遇して、失業者への対応が手薄過ぎるのだ」
私は誰に言うでもなく、天に向かって愚痴をこぼす。
そもそも、この国は完全雇用を実現している事になっているので、失業者対策に予算を組む必要が無い。実際に求人は豊富で、世間は相変わらず人手不足を嘆いている。だが、何故か私には仕事が見付からない。
「いっそ、私もゴブリン関連の動画で、一山当てることは出来ないだろうか・・・」
ふと頭をよぎるが、そもそもゴブリンを手に入れるツテが無い。ゴブリンはそこら中で目にすると言うのに、だ。それに、本当の目的が一山当てる事で無いのは、自分でも分かっていた。鬱憤を晴らしたいだけなのだ。
うっかり失業の愚痴をネットに書き込もうものなら、「人手不足なのに職探しとか、無能か?」「仕事は普通にある。贅沢言い過ぎ(笑)」「ゴブリン以下に人権を与えるなよ」と、即座に罵倒意見で埋め尽くされるので、うっかり発言も出来ない。
溜まりに溜まった鬱憤は、自分をこのような境遇に追い込んだゴブリンに、どうしても向いてしまう。こいつらを殴り殺したら、さぞ気分の良いものだろうと。
それを実際に行動に移している者も少なくないのは、この動画やニュースを見れば、自ずと知れてくる。毎日、ゴブリンのニュースを目にしない日は無いのだから。
「ゴブリンが現れてから、世の中がギスギスして来てるな」
※登場する人物はすべて架空の人物であり、特定の人間を揶揄するものではありません。




