07 討論番組 ゴブリンと社会の付き合い方
短編作品「逆にゴブリンがこっちの世界に転移してきたら」を分割したバージョンです。
内容は変わりありませんが、少し読みやすくなると思います。
(短編バージョン)https://ncode.syosetu.com/n6469ji/
二名の死者を出した「ゴブリン労働災害」は、タケダの耳を飛び越えて、瞬く間に世間に知れ渡った。
このスキャンダルに通常なら頭を抱え、絶望するところだが、タケダは違った。
タケダにとって、この事件こそゴブリンを社会に認めさせる最後のピースとして、理想的なものと考えていた。
テレビは衰退したと言われる昨今だが、頑固者の司会者タシロが進行する、識者や現役の若手政治家が意見を交わし合う討論番組は高い視聴率を誇っていた。
その日のテーマは「ゴブリン労働災害」。労働者の味方を嘯く野党議員キタジマ、ゴブリン利用肯定派の若手与党議員のミナミ、実業家のホリキタ、ユーチューバーのタカヒロ、芸人のケンちゃんとチャコちゃん。そして、ゴブリン研究者のエンドウと、ゴブリン利用の急先鋒である政治アドバイザーのタケダだ。
「それで、タケダさん?今回の事件について、そもそもゴブリンを労働力として推し進めた責任を感じていますか?」
司会者のタシロは、タケダにそう詰め寄る。
「まず、この事件について、しっかりと事実を検証することが重要です。既に200カ所でゴブリンを運用が開始されていますが、事故が発生したケースは、これが初めてなんですね・・・」
「死亡事故は、でしょ?ゴブリンの運用の際に事故になりかけたケースも、あるんですよ!」
タケダに噛みついたのは、野党議員のキタジマだった。
「でもさ~、キタジマさん。事故の会社って、みんな、ゴブリンを正しく運用してないってデータがあるわけっすよ!」
気の抜けた口調でキタジマに横槍を入れたのは、ズバズバと相手を噛みつく論破スタイルが人気の実業家、ホリキタだ。
「いいっすか?この工場では、本来なら2名で監視体制を取るべき運用手順を無視して、1人で3体のゴブリンを運用したわけっす。こんなの、自殺行為じゃないですか?100歩譲って責められるとしても、それは甘い審査でゴブリン貸与を許した、行政のミスですよ」
ホリキタの発言に乗る形で、理論で詰めるタカヒロ。
「だとしたら尚更、やはりゴブリンを労働力として使うべきではないでしょう!ミスが起きれば死亡事故が起きるわけです!国民の命を何だと考えてるんですか!!」
机をダンと叩くキタジマに、司会者は落ち着くよう宥める。
「確かにおっしゃる通りですが、昨今の労働者不足の問題を考えると、ある程度の命令を聞ける知能を持った生物を使役することは、労働市場にとっては魅力的な商品と言っても良いわけです。そこでタケダさん、この危険との両立をどうすべきか?」
タケダは落ち着き払った、悪く言えばいけしゃあしゃあと意見を述べる。
「先ほど、ホリキタさんが仰る通りで、正しく運用することを徹底することが、重要なんです?例えば包丁が良い例です。これを凶器として使われた例はいくらでもありますが、販売を禁止していますか?」
「なるほど、正しく使えば、事故は起きないと言うことですね」
「それは詭弁でしょう!包丁は自分から動いて傷付けることはしませんが、ゴブリンは意思があるでしょう!」
「だったら養蜂はどうですか?あれだって人を刺してきますよ?」
「あれは昆虫でしょう!?」
「ゴブリンも定義上は昆虫なのです!」
不毛な議論が続くが、この番組は「パフォーマンス」として、とても重要だった。ゴブリンの危険性を周知することと同時に、愛護すべき生物では無いと国民に徹底的に洗脳する必要があったからだ。
これまでの、それこそ古代から近代に至るまでに共通する労働問題は、全て「人権」に起因していると言って過言でない。その意味では、人類が同胞以外の生き物を使役するのは「機械」以来、初めてかもしれない。
番組の反響は上々だった。
世論は「ゴブリン災害は使用者の怠慢から来る自己責任」という声が高まり、むしろ人手不足業界から「もっとゴブリン使用許可の業種を増やすべき」との声が高まった。そこに発生するリスクは「自己責任」だ。
ここに、タケダは世論の地盤が固まったことを確信する。
タケダは国民の要望に応えるように、政府にゴブリン利用業種の拡大を提言する。更に「ゴブリン繁殖」の登録業者も拡大すると、国内にはゴブリンが瞬く間に拡大していく。
最も懸念された「ゴブリンの逃走と野生化」だが、これは全てのゴブリンの「去勢」と「自殺回路」を組み込む事で解決した。自殺回路とは、ゴブリンの寿命をこちらで決めて、その期日になると自動的に絶命させると言う、残酷なものだった。だが、ゴブリンは忌み嫌う生物と認識していた国民は、それを残酷とも非人道的とも思わなかった。
こうして、日本の労働力不足の問題は大きく改善した。逆に失業率が上がることを懸念されたが、そこは不思議な力が働いたのか、日本は相変わらず完全雇用を実現し、失業者は居ない事になっていた。
※登場する人物はすべて架空の人物であり、特定の人間を揶揄するものではありません。




