05 ゴブリンは『昆虫』?!
短編作品「逆にゴブリンがこっちの世界に転移してきたら」を分割したバージョンです。
内容は変わりありませんが、少し読みやすくなると思います。
(短編バージョン)https://ncode.syosetu.com/n6469ji/
この時、日本は未曾有の人手不足だった。経済発展している訳でもない状況で、少子高齢化による人口減少は、好景気のような人材獲得競争に発展することも無かった。
なにせ企業側の要求は「安い労働力」なのだ。値段が釣り上がっては、何の意味もない。
かと言って移民政策の推進も、暗礁に乗り上げていた。人間を輸入すると言って過言で無い発想だが、人権を持つ彼らを犬猫のように安易に使い捨てて、最後は殺処分という訳にもいかない。
結局、一時的に安い労働力を使い捨てても、それで景気回復すれば埋め合わせになるという甘い算段は、氷河期世代の失敗で十分という訳だ。
人権の無い人間を大量に労働市場に注入し、使い終わったら廃棄出来る、そんな夢のような存在こそ、今の日本には必要とされていた。
そういう視点で見れば、ゴブリンはまさにイノベーションだった。
名誉教授のタケダは、かつて大臣の経験もある経済のスペシャリストだ。日本の労働問題を憂う愛国の士であることは有名で、今でも総理のアドバイザーとして政界を動かす権勢を持っている。
機を見るに敏な彼は、このゴブリンの有用性を誰よりも早く気付いていた。これこそが労働問題解決の魔法の弾丸であると、確信していたのである。
そこで彼は、即座に行動に移す。
とにかくゴブリンに人権を与えてはいけないと、四方に働きかけた。もちろん愛護動物の対象も、だ。目的はあらゆる制約抜きに酷使できる労働力なのだから。
一応の大義名分として、ゴブリンは「昆虫」にカテゴライズされる事になった。
虫ならば愛護動物の対象にならず、また国民の心象としても、酷使する事への抵抗感を和らげる効果もあった。
タケダの尽力の結果、ゴブリンは労働力として社会に浸透するのに時間がかからなかった。
しかし、それは決して容易な道で無かったことも確かであった。
まず最初にゴブリンが派遣されたのは、工場だった。監視の目が届く、狭く閉鎖された職場など難しい条件を課した上で、業種を限定しての解禁であった。
ゴブリンは歯と爪を抜かれ、その上で枷を付けた厳重な調整を経て現場に入れられると、一体のゴブリンに二人の監視員が付けられる。怪しい挙動を見せた場合は即座に電気ショックを与え、ゴブリンの行動を制御する役割だ。
こうして現場に導入されたものの、非常に効率が悪く、予算も割に合わないものであったため、これを試そうと手を挙げる業者は数少なかった。
だが逆に言えば、少なからずもゴブリンを試してみたい業者が存在したとも言える。珍しいもの好きな者や、あまりに人手が足りず背に腹を変えられない業者などが、初期のゴブリン導入業者と言えるだろう。
※登場する人物はすべて架空の人物であり、特定の人間を揶揄するものではありません。




