結末
「……うお」
(どのくらい意識が飛んでいた)
体の火傷等のダメージは徐々にだがリンナの魔法によって治癒されており、しんどいし痛いが動ける。
直ぐに周囲に視線を奔らせる。すると爆傷を負いながらも起き上がったルーシルが見えた。ルーシルは大丈夫だろう。そしてヒロに視線を移すとしかもなんと信じられない事にヒロが血を吐きフラフラでありながらも立ち上がり聖剣を構える。
「俺も……まだやれ……る」
「馬鹿野郎!死ぬぞ!!引っ込んでろ!!!」
僕は怒号でヒロを止める。ヒロの腹からは血がしとどに流れ落ちており、しかも無理に剣を振るったことと至近距離の爆発で更に傷が開いている。リンナの加護があっても抑えきれてない、もう動く事も死につながる。
「……すまねえ」
「頼れよ、ヒロだけじゃない」
「ゴフ……それと多分片手の横薙ぎの時、剣の握りを変えてリーチを伸ばしてやがる……」
そう告げて膝から地面に崩れ落ちる。
「ありがとう、最高だよ」
ヒロの命を掛けて得た情報を感謝して受け取ったと同時期、自爆により吹き飛んでいたヨムサメも立ち上がった。だが自身の能力の爆破、ダメージは僕達より軽微だ。それに聖痕を刻んだ目が回復している。
僕達のダメージを見たヨムサメがポルカへと踏み込む。僕は足に全身の力を込めて砲弾のように弾けだす。
(足だけでは無理か、なら)
「第4節派生〈支配の言霊〉 『動くな』」
「!」
奴の体が凍ったかのように止まり慣性で前に転がる。その隙に僕は追いつき刀を振り上げる。
だが奴も超反応、崩れた体勢から直ぐに刀を受ける。そのまま刀を弾き、周りに展開した弾丸剣を僕に差し向けてくる。
「第2節〈物体支配〉」
この魔法は視認した物でないと支配できない。だが僕は透明の剣だろうと空間は極小だが歪む。それを察知し全ての剣を支配下に置いてみせる。
パシュン
「無駄な足掻き」
ポルカも弓を放ち迎撃するが、もう懐に入られる。これによりポルカは死亡、第3章はバッドエンドで終わる――終わらせない!
(僕なら出来る)
そのまま剣の支配を続行、意識がポルカに向いたその瞬間を狙い奴から剣の支配権を手中に収めた。
すぐさまそれを奴へと向け発射する。
「何だと!」
奴が全ての剣を捌き躱していく。だが横からポルカが回避先に弓で狙い撃ち。それにより奴の回避が制限される。
(このままでは深いのをもらう、なら無傷でと突破をあきらめよう。属性付与の影響に関しては、この剣達は某が作ったもの。被害は小さい)
奴が腹を括り完全な回避を諦め選択していくが、奴の予想と違うことが起きる。
赤い剣が奴の頬を斬り裂いた時、そこから急速に火が燃え広がる。
「なんと!?」
(どういう事だ!)
「隙あり!」
(僕は自身の魔力を混ぜ込めば、元の魔法主にも威力は十分に発揮される事を知っている。調べてよかったよ!)
急いで奴が頬を手で叩いて消火するも、その時には僕が両手での上段。
(奴は片手、押しきれる!)
ガーン!
「なっ!」
「体の使い方さえ意識すれば、片手でも止めれる」
(足と丹田に力を込め、下半身に重点的に魔力を流せば止めれる)
だが僕と奴は拮抗している。横からそこを狙いポルカが弓矢を射る。
(あの女の矢はオートで弾ける、無視だ。この男を先に斬り捨てる)
そして奴の周りに展開された一振りが、縦に並んだ3本の矢を切り払おうとするが刀が弾かれた。
「なっ!」
(どういう事だ!)
奴が急いで回避、だがそれは僕への隙。
(これは無理だな)
「ようやくだ!もらっとけ」
「ぐおぉ!!」
それは奴の胸をゴッソリと抉る。だが奴が執念をみせる、蹴りを放ち僕を間合いから引きがす。
「ちっ!」
「ふははは、これはどうする!」
奴はヒロの上空に剣の塊を展開、それを落下させる。
「くそ……」
この広範囲を避ける力はヒロにはもう残っていない。だが突如剣の雨が大きな結界に丸ごと閉じ込められた。
「圧縮」
そして結界が圧縮され爆散、ヒロに届く紙一重でルーシルが攻撃を防いだ。
「なっ!?」
その隙に僕は走り出し後ろから斬りかかる。
「!?……」
反応が少し遅れるも奴は極上の猛者、冷静に僕を見据える。
(お前ならこの斬撃も完璧にできるんだろう。なら)
自分の振るう剣すらも停滞したかのようにゆっくりに見える世界で、僕は奴の挙動を注視する。
フッ……
そして当たり前のように極限の見切りで左に躱し、流れるように僕の懐に入り刃を跳ね上げる。
(見えた!左)
それよりも早く僕は手首を直角に切り返し左への斬撃へと変える。
「なっ!?」
それは奴の予想外、それは奴の胸を斬り裂く。そのまま斬り合いへと雪崩込む。あまりの激しい剣戟の応酬、ポルカやルーシルは介入を辞め2人の距離が出来たところを突けるように集中力を更にカチ上げる。
(ああ、愉しい。やっぱり刀はいいな)
奴の拾刀流を捌き、躱しその技術を吸収していく。
そして奴が《《片手の》》横薙ぎを繰り出す。
(もう知ってるよ)
ヒロのおかけでネタは分かってる。体をずらして回避、そしてそのままカウンター、だが奴は守りも鉄壁。展開している剣を交差して受け、出来た隙に残った捌振りの剣による怒涛の斬撃。
(もうリズムは掴んだ!ここ)
二振り目を止めそれにより一瞬の空白が出来る。そこを逃さず横無き。
「むっ!」
(某との斬り合いで更なる成長をしている。成長速度が異次元)
(もはや僕自身が剣だと錯覚する程に扱える。呼吸するように振れる)
《《何故か剣の軌道が目に浮かび上がってる》》。まるで未来予知を得た気分だ。
カン!カン!
火花散り甲高い音の鳴る激しい斬り合い、だがついに勝利の天秤が動く。
「はっ!」
(このまま長引かせると此奴は成長して某が負ける。ならリスクを負ってでも次で両断する!)
奴が大振りに振りかぶる。しかもその隙を埋めるように他の剣を使って妨害してくるが、もう対応できる。その全てを弾きったと同時、奴の唐竹割りが落ちる。
(ここで決める!)
(やってみようかな)
「もらった!!」
「……」
フッ……
「……何だと」
僕は奴の極限の見切りを模倣した。
「ありがとう、また強くなれた」
強敵への感謝とほんの少しの哀愁を感じながら刃を跳ね上げた。
「ガハッ!?」
(《《俺》》は絶望をひっくり返せなかったが、彼は実現した。まさに理想の剣士だ、君と会えて良かった)
そして遂に剣豪ヨムサメが血を吹き出し力なく地面に崩れ落ちる。
「ふふふ、負けたか某が……天晴だ」
剣士としての性質なのだろう、敵であるはずの僕達に賛辞を送った。
(魂が解放されたのを感じる。次世代が油断も慢心もない堅実な道を歩いてるのも見れた。満足だ……)
「……お前にこれをやろう、使ってくれ」
不気味で不吉な赤黒い瘴気が霧散し、漆黒の刀身が美しい一振りの業物を手渡される。
(本来なら受け取るべきではない……でも彼と斬り合った時ほんの少し悲しみや未練を感じた。1人の剣士としての直感が、この思いを受け継ぐべきだと告げている)
「分かった、使わせてもらおう」
お互いが命を賭けた死闘の末、片方の死の間際に敵味方を超え通じ合うという奇妙な感覚が胸を満たす。
「ありがとう」
そう奴……彼が朗らかな笑顔で呟いた後、その体は灰となって消えた。




