ヨムサメ
要塞を一望できる山から気配を消して某は奇襲の隙を伺っていたが、破壊したはずの防御結界が修復され白く神聖な輝きを放つ結界も展開されている。
「ふむ、こちらの考えを見抜いていたか……こんな考え方が出来るのはライアとやらでござるな」
あの神聖な結界が真に発動すると某の力は半減してしまう。今回は諦めるのが吉であろう。光り輝く白いオーラを観測し身を翻す。
同時に某の脳裏には、これをやったであろう今朝の襲撃で見たライアという男の姿が浮かんでいた。
「あの男は淀みのない澄んだ目をしていたでごさるな。それに才能があるのに溺れずひたすらに努力したのがひと目で分かる立ち姿。昔の某に見せたいでござる」
すると某の魂の深層が揺れ動いたのを感じた。
「やはり魔族になり魔王様への忠誠を誓っても思うものはある」
魔王様は魔族を生み出される時、この世にある負の感情を元にして生み出す。そして魔族には自分を作った感情の中でも一番影響を受けた者の記憶を継承する。それは某も例外ではない。
「今なお某の魂が疼いている、確かに某の前世の人間である『俺』はライアに憧れそうですな」
某の前世?は人間だった。周りからは天才剣士と呼ばれていて、実際俺も天才だと思っていた。師匠の元で修行をし、いい仲間にも巡り会えた。新進気鋭のSランクパーティーとしてこれからも活躍していくはずだったが、でも運命は残酷だった。ある日いつも通り俺達はダンジョンの最下層へと赴きダンジョンボス狩りを行っていた。
ボスは今までで一番強くかなりの激戦だったが、何とか辛くも勝利を収めた。普通ならダンジョンが活動を停止し地上に戻れるはず、だがそうはならなかった。ダンジョントラップが作動し別の空間に飛ばされそこに居たのはSSランクの『シャドウザ』、人呼んで『死神』。
初めてのSSランクを見た俺達は恐怖したが、死に物狂いで運命に抗った。そして死の危機を前に全員の才能が更に加速し、皆のサポートがあり疲労困憊になりながらも遂に『死神』の核に刃を突き立てることに成功した。
『やった……勝った、勝ったよ!?』
『生き残れた……』
皆歓喜で地面に崩れ生き残った喜びを分かち合ったのだが、異変が起きる。何と『死神』が立ち上がったのだ。この魔物が『死神』と呼ばれる所以、それは核を破壊しただけでは死なず、殺すには奴の持つ鎌も破壊しなければならないこと。これが初見殺しとなって特に若く実力のある冒険者が死ぬ、だから『死神』。
俺達は自分達の才に胡座をかき情報収集を怠ってしまった、後のことは語るまでも無い――地獄だ。皆が俺の名前を叫びながら斬り裂かれていくのを見て俺の心も裂けた。俺がパーティーリーダーだった、皆と違って俺だけはちゃんとしておかなきゃならなかったのに……そのせいで全員を殺してしまった。直接皆を殺したのは奴だが、間接的には俺が大事な仲間を殺した、殺してしまった。
「だから才覚がありながらも奢らずに、一歩一歩進む人間に某の魂は憧れている」
心に少しの哀愁を感じたが、その後の黒い感情にそれは押しつぶされる。そしてその狂気に呼応するように、赤黒い刀『ムラマサ』が不気味に躍動する。
「だから!!あいつを殺せばこの魂が更なる絶望を呼び、某がまた強くなる!!さあ、絶望の運命を受け入れて死ぬといい!!若き才能よ!!!」




