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転生したら……蚊!!??なんでやぁぁぁ!!!  作者: Red/春日玲音


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7/8

王都でのスローライフ

王都の正門を、冒険者たちと一緒にくぐり抜けた瞬間、俺はそっとリアナの髪から離れた。


「じゃあな、世話になったぜ……」


三人を見送りながら、俺は街の喧騒の中へと溶け込んだ。

王都の街中は、想像以上に活気に満ちていた。

石畳の道を馬車がガラガラと通り、露店からは香辛料や焼きたてのパンの匂いが漂い、商人たちの威勢のいい掛け声が飛び交う。

空を飛べる蚊の俺にとっては、実に動きやすい空間だ。


「へぇ……これが王都か。思ったより広いな」


俺は街路をふわふわと漂いながら、好奇心に任せてあちこちを見回した。

露店の屋根に止まって果物屋を眺めたり、噴水の水面近くを飛んでみたり。

特に冒険者ギルドの建物は大きかったが、中に入るのはまた今度にしよう。


——しかし、すぐに思い知ることになった。


「ん? 入れねぇ……?」


宿屋の窓に近づこうとした瞬間、妙な違和感に包まれた。

なんだか翅が重くなり、近づくだけで頭がクラクラする。

慌てて距離を取ると、症状はすぐに引いた。


「……虫よけかよ!」


試しにいくつかの家屋や商店を回ってみたが、どこも似たようなものだった。

扉や窓の隙間には、魔力の込められた虫除けの魔道具や、ハーブを編み込んだ網が張られていて、蚊の俺には容易に侵入できないようになっている。


「マジかよ……! ファンタジー世界なのに、虫よけ対策がこんなにしっかりしてるなんて!」


街中を自由に飛べるのはいいが、家の中に入れないのでは意味がない。

血を吸うにしても、情報を集めるにしても、まずは屋内に入らなければ話にならないというのに。


「くそっ、女神様のやつ……蚊に転生させるなら、せめて虫よけ無効の加護の一つでも付けてくれよな!」


俺は街路の街灯に止まり、ため息をついた。

夕暮れの王都は美しいが、蚊にとっては意外と厳しい街だったらしい。


「……ま、いいか。神殿はまだ開いてるはずだ。まずはあそこに行ってみるとするか」


俺は再び羽を震わせ、街の中心部に向かって飛び立った。

街灯の明かりに照らされた石畳の上を、ちっぽけな影がゆらゆらと漂っていく。


街中をふわふわと漂いながら、神殿を目指して飛んでいると、路地裏で小さく座り込んでいる少女と目が合った……というか、俺が勝手に近づいた。

瘦せ細った体躯に、ぼろぼろの服。ろくに食事も取っていないのが一目でわかる。

俺は好奇心と、少しの罪悪感からそっと近づき、首筋に針を刺した。


……まずい。


血の味が薄く、どこか鉄臭い。栄養が足りていないのだろう。

同時に、鑑定を通じて流れ込んできた記憶の断片に、俺は少し胸が痛くなった。

親を失い、路地で一人、今日も何も食べられずに震えている……そんな悲惨な日々。


「……ったく、蚊の俺が人間に同情するなんてな」


俺は一旦針を抜き、もう一度刺し直した。

今度は吸うのではなく、亜空間から取り出した回復ポーションを、薄めて少しだけ流し込んだ。


「元気出せよ……少しでも、腹が膨れるといいな」


少女の体が小さく震えたが、意識は戻らない。

頰にわずかに血の気が戻ったのを見て、俺はそっと飛び去った。

蚊が人間の少女を助けるなんて、随分と滑稽な話だ。


さらに神殿近くの広場まで来ると、今度は白いシスター服を着た少女が目に入った。

幼い顔立ちながら、胸元がはち切れんばかりに豊満で、歩くたびにたゆんと揺れる。

年の頃は十四、五歳くらいか……?

俺は思わず(心の中で)泣きながら近づいた。


(うわぁぁ……こんな可愛くてエロいシスターとエッチしたかったよぉ……!蚊に生まれなかったら、絶対に口説きに行ってたのに……! くそっ、女神め!)


悔し涙を飲みながら、俺は彼女の白い首筋に針を刺した。

甘くて、ほのかに聖なる香りのする血だった。

とても美味しくて、つい長々と吸ってしまう。


その瞬間——


「……っ! 怪しい気配!?」


少女がぴくりと反応し、慌てた様子で聖魔法を唱え始めた。


「浄化の光よ、邪悪を——!」


周囲に淡い光が広がり、俺の翅が一瞬で熱くなった。


「うわぁぁっ!? 気づかれた!?」


蚊の俺が聖属性に弱いとは思わなかった……いや、俺のステータスじゃ、なんに対しても弱いんだけどね。

俺は全力で隠密行動を発動させ、死ぬ気でその場から逃げ出した。

背後から追ってくる浄化の光を振り切りながら、路地の暗がりへと必死に逃げ込む。


「はぁはぁ……危ねぇ……!シスター強すぎだろ! 胸がデカいだけじゃなかったのかよ!」


俺は暗い路地の壁にへばりつき、激しく翅を震わせながら息を整えた。

……美味しかったけど、二度と近づかない方が良さそうだ。

だけど、神殿に行くにはなぁ……



 路地裏の薄汚れた壁に寄りかかり、意識の朦朧とする中、エルシアはぼんやりとこれまでの道のりを思い返していた。

幼い頃から、正義感だけは人一倍強かった。

村で理不尽なことがあれば、誰よりも先に口を尖らせて抗議した。

しかし、幼い少女の言葉など、暴力の前には何の意味も持たなかった。

だから、エルシアは自分を強くしようと決めた。

村の自警団に混ざって剣を学び、長老の元で学問を吸収し、村のおばばから魔法の基礎を教わった。


懸命に努力した10歳の洗礼の儀の日——。

他の子供たちが次々と「ふさわしい職業」や「加護」「スキル」を与えられる中、エルシアだけは何も告げられなかった。

ただ、老司祭が困惑した顔でこう言っただけだ。


「王都に行って、神殿を訪ねなさい」


それがすべてだった。

田舎の小さな村に、そんな事情が理解できるはずもない。


「加護も職業も与えられなかった役立たず」「神様に見捨てられた子」——

そんな陰口が、瞬く間に村中に広がった。


それから三年。

居場所を失ったエルシアを、母親だけは変わらず愛してくれた。

なけなしの貯えを削り、「王都に行きなさい」と旅費を握らせてくれたのは、母の最後の優しさだった。

しかし、そのお金だけでは王都までは到底届かない。

途中の街で売るための肉を手に入れようと、エルシアは一人で森に入り、魔物を狩った。


——その剣が、初めて人の血を浴びるのは、それからすぐのことだった。


獲物を抱えて村に戻った瞬間、広がっていたのは地獄の光景だった。

家々が炎に包まれ、女たちが盗賊に組み敷かれ、悲鳴が木霊する。

盗賊の一人が母親を組み敷いているのを見て、エルシアは剣を抜き、叫びながら飛び込んでいた。


「離してッ!!」


最初の一撃で、母親を押さえつけていた盗賊の首を斜めに斬り飛ばした。

噴き出した鮮血が幼い顔を真っ赤に染める。


「お母さんっ!」


エルシアが駆け寄り、母親を抱き上げるが、母はすでにこと切れていた。


「この女ぁ!」


盗賊の短剣が彼女の肩を切り裂いたが、痛みなど感じなかった。

怒りと悲しみが、10歳の体を怪物じみた動きに変えていた。


「このクズどもがぁぁぁッ!」


エルシアが剣をふるう。

二撃目、三撃目。

剣が閃くたび、肉を裂き、骨を断つ音が響く。


盗賊の一人が槍を突き出してきたのを、身を捻ってかわし、返し技で喉を抉る。

もう一人が背後から襲いかかってきた瞬間、咄嗟に覚えたばかりの初級風魔法で吹き飛ばし、倒れた隙に胸を貫いた。

血しぶきが舞い、地面を赤く染めていく。


少女の小さな体は瞬く間に傷だらけになり、ぼろぼろの服は血と泥と煤で真っ黒になった。

それでもエルシアは止まらなかった。

母親の亡骸を抱きしめながら、最後の盗賊の頭を叩き斬った。


一刻後——。


村の広場に、血まみれの10歳の少女が立ち尽くしていた。

その足元には、七人の盗賊の死体が無残に転がっていた。


そんな姿を見て、村人たちから返ってきたのは、感謝や称賛の言葉ではなく、恐怖と非難の言葉だけだった。


「化け物」「盗賊を呼び寄せた」「報復が来る」……


恐怖に駆られた村人たちは、エルシアを捕らえて残党に差し出そうとした。

その瞬間、エルシアの心の中で何かが、静かに壊れた。


――――ここに、自分の居場所はない。


この村にいるのは、人の皮をかぶった獣……あの盗賊たちと変わらない……

エルシアは、母を失い、村を追われながらも、盗賊のアジトへと一人で向かった。

油断していた賊どもは、怒りに燃える少女に壊滅させられた。

しかし、その勝利はエルシアの心にぽっかりと空いた穴を埋めることはできなかった。


それから一年。

王都を目指して孤独な旅を続け、ついにこの街に辿り着いたとき——

エルシアは何も持っていなかった。

金もなく、力尽き、路地裏に倒れ込むのが精一杯だった。


「……お母さん」


乾いた唇から、かすかな声が漏れた。

もう、立つのも辛い。

空腹と疲労と、胸の奥に巣食う虚無感が、少女の意識をゆっくりと溶かしていった。

路地裏の冷たい石畳に倒れ込み、どれくらいの時間が経っただろうか。


「……ん?」


エルシアはゆっくりと目を開けた。

先ほどまで鉛のように重かった体が、嘘のように軽くなっている。

肩の傷も、腹の空腹感も、胸の奥に巣食っていた虚無感さえ、少し和らいだような気がした。


(……どうして?)


彼女は自分の体を見下ろした。

血の気が戻り、頰にもわずかに赤みが差している。

放置していたケガも治っている……まるで上質な回復魔法でもかけられたかのようだ。

しかし、周囲に人の気配はない。魔力の残滓も感じられない。


「……気のせい、かな」


そんなことを知る由もないエルシアは、ゆっくりと立ち上がった。

足取りはまだふらついているものの、さっきまでの死にかけの状態からは明らかに回復していた。


「お腹……空いた」


胃が激しく鳴る。

母親からもらった最後の想い出のお金は、もうほとんど残っていない。

このままでは本当に死んでしまう。


「……とりあえず、食べるためにお金を稼がないと」


エルシアはぼろぼろの服の埃を払い、決意を込めて拳を握った。

王都に来た目的は神殿を訪ねることだったが、今はそれどころではない。


まずは生き延びるために——。


彼女は路地裏から出て、石畳の道を歩き始めた。

目指すは冒険者ギルド。

登録すれば、すぐにでも依頼を受けられるはずだ。

たとえFランクからでも、魔物を狩れば金になる。

夕暮れの王都を、瘦せた少女が静かに、しかし確かな足取りで歩いていく。


エルシアが、見知らぬ「小さな恩人」と邂逅するのはそう遠い日ではないことも知らずに……

ヒロイン登場です!

プロローグに出ていたエルシアちゃんです。

一応Wヒロインの予定ですので、近いうちにもう一人のヒロインが……多分……おそらく……きっと……


ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

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