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転生したら……蚊!!??なんでやぁぁぁ!!!  作者: Red/春日玲音


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2/5

転生したら蚊でした……

本日更新2話目です。

プロローグを読んでない方は、まずそちらから。

なんだ、この感じ?

暗闇から意識がゆっくり浮上してくる。体が妙に軽い。

いや、軽すぎる。自分の体重がほぼゼロなんじゃないかっていうレベルだ。


「ん……? 夢か?」


声を出そうとした瞬間――

ブゥゥゥゥン……

小さな羽音が、自分のすぐ近くで響いた。

……自分の羽音?


「……は?」


ゆっくり目を開ける……というか、開けたつもりになる。

視界が広すぎて酔いそうになる。複眼ってやつか、これ。

そこは見慣れない草むら……というか、草がジャングルみたいにデカい。

遠くで巨大な生き物の足が動いているのが見える。


「巨人の国かよ……?」


とにかく危険な生き物から離れようと体を動かした瞬間、……俺は浮いていた。


「……おい、飛んでるぞ俺?」


ふと、真下の水溜りに自分の姿が映った。


…………ウソだろ。


細長い黒い体。

冷たく光る複眼。

不気味に折れ曲がった六本の脚。

そして、苛立ったように震える羽。

そこに、田中一郎の面影はどこにもなかった。


「……俺、蚊になってる。」


数秒の沈黙の後、俺はようやく事態を理解した。


「あー、うん。夢じゃないとすれば……これはアレだな。お約束の、異世界転生ってヤツ?

『転生したら〜』シリーズだろ?最近ちょっと飽和気味だったけど……」


一瞬、テンションが上がった。

思えば、クソみたいな人生だった。

何の変哲もない家庭に生まれ、それほど不自由なく育ち、中学でイジメにあい、逃げるようにして遠くの高校に通い、就職して、サビ残上等のブラック企業で、働きアリのように働いて……

ラノベを読みながら、いつか俺も異世界に転生して……と妄想を抱いていた、ごく普通の人生……


「やった! 俺もついに勝ち組ルートきた——かと思ったら、なんで害虫ルートなんだよ!!」


マジかよ。

ドラゴンでもスライムでもいいのに、なんで蚊なんだ!

害虫…最弱…魔物でもないただの虫じゃねえか。


「……落ち着け、落ち着け。働きアリや働きバチじゃなかっただけマシだろ」

そう、転生して虫になってまで、働くなんて嫌だ。

ならまだ、蚊の方がマシ……マシか?


「落ち着け、落ち着け、俺。そう、転生ものなら、お約束のアレがあるはずだ。」


俺は念じた。


「ステータスオープン!」


視界の隅に、青白い半透明のウィンドウがポップアップした。


ヨシヨシ! これこれ!これだよ!

わかっているじゃないか、女神様!

……いや、女神様が転生させてくれたかどうかは知らないんだけどね?

でも、まぁ、女神様ってのはお約束だろ?


まだ希望は捨てちゃいけない。特典とかチートスキルとかあるはずだ!

そう思いながらステータスを見る。


【ステータス】

名前:イチロー(田中一郎)

種族:アカイエカ(オス)

レベル:1

HP:0.01

MP:0.01

体力:0.01

筋力:0.01

耐久:0.01

魔力:0.01

幸運:0.01

スピード:5

スキル:血を吸う Lv1


「……………………全部0.01って何だよ! 小数点以下かよ!!俺、今すぐ風で吹き飛ばされて死にそうじゃねえか!」


特にHP0.01はヤバすぎる。

一瞬何かが掠めただけでゲームオーバーになりかねない数値だ。

ただ一つ、スピードだけが堂々の「5」


「スピード5! 他のステータスの500倍じゃん! もしかして俺、スピードスター?」


あえてテンションを上げてみようとするが……、無理。

現実は厳しい。

500倍といっても、他の数値小数点以下だし、比較対象がないからわからないけど所詮5だしなぁ。

某古典ダンジョンRPGでも最低に近い数値。……もっとも、あのRPGのキャラクターのパラメータ上限は18か19だったから、まだ高い方なのかもしてれないが。

しかし、最近RPGなら、一桁の数値なんてNPCの雑魚にもいないんじゃないか?


そして、唯一のスキル。


「血を吸う」


…………。


「これスキルって言えるか!?『血を吸う』って、蚊が血を吸うのはデフォルトだろ!」


俺は小さくため息をついた。

蚊の体でため息をつくと、羽がプルプル震えることを知った。


「はぁ……ドラゴンとまでは言わないが、せめて吸血鬼とか、狼男とかに転生したかったわ。大体、蚊って寿命短くない? 確かオスは……1〜2週間くらいじゃなかったか?」


さらに追い打ちをかけるように、前世の知識が蘇る。

そういえば、血を吸うのはメスだけだ。


「……え、ひょっとしてTS転生?」


一瞬、憧れの女体化!などと淡い期待が浮かんだが、すぐに自分の股の間(?)を確認して現実を突きつけられた。


「……やっぱオスじゃん。ってか、蚊の雌になったからって何かいいことあるのか?」

……うん、冷静になろう。

今の俺は蚊。ただの害虫……うんOK。

なにがOKなのかはわからないが、少しだけ冷静になる。


「しかし、本来血を吸わないオスだから、『血を吸う』スキルが与えられたのかよ。つまり、俺は血を吸える特別なオス蚊ってこと?」


…………全然嬉しくねえ。

………まったく、特別感がわいてこねぇ。


それでも、俺は小さく羽を震わせた。



まずは自分の能力を知らなければ話にならない。

ひとしきり我が身を嘆いた後、俺がようやく辿り着いた結論はそれだった。

これが夢でないとするなら、蚊である現実を受け入れて、なんとか生き延びる方法を模索するしかない。

俺は草の葉の上にちょこんと止まり、小さく羽を震わせながら、再びステータス画面を開いた。


「まぁ、ステータスは……もういいとして。蚊である俺が、どこまで何ができるか? だよな」


最初に試したのは飛行能力。

移動の基本は飛ぶことだ。スピード5という数値に一縷の期待を込めて、思い切り羽を羽ばたかせてみた。


ブゥゥゥンッ!


……おお、飛べる飛べる。結構速いじゃないか!

と思ったのも束の間、ちょっとした風が吹いた瞬間――


「うわっ!? 待て待て待て――!」


体が紙飛行機のようにくるくる回りながら吹き飛ばされ、近くの草の茎に激突した。

複眼がぐるぐる回る。


「スピード5って……比較対象がないと意味わかんねえな。ただ、風に吹き飛ばされたときのほうが明らかに速かったぞ……」


小さな体には突風に感じられたが、周囲の草の揺れ具合から察するに、人間から見ればただのそよ風程度。

つまり、俺の身体はそよ風にすら翻弄される貧弱仕様であり、スピード5という数値は「そよ風より遅い」ことを意味しているらしい。


さらに高度を試してみたが、かなり高く飛んだつもりでも、人間の頭の上あたりが限界だった。大体2メートルに届かない程度か。

蚊のスケールからすれば大冒険だが、人間から見れば「ただの蚊が少し高く飛んだ」程度の話である。


……うん、比べれば比べるほど、これは無理ゲー、いやクソゲーだな。


次に六本の脚を器用に使って歩いてみたが……

カクン、カクン、カクン。


「これ、めっちゃ不細工な歩き方だな……ってか、歩く意味ねえよな」


移動するなら飛べばいい。まともに歩けない体で歩く必要などない。


さらに複眼の視界に慣れようとあちこち見回してみた結果……。


「……気持ち悪い。情報処理量が多すぎる……二日酔いどころの話じゃねえ……」


一通り試した後、俺は小さく肩を落とした。


「はぁ……チート能力とか期待した俺がバカだった。全部0.01とか、蚊のステータスとしては妥当なのかもしれないけどさ……」


やるせない気持ちを噛み締めていると、突然、腹の辺りがキリキリと疼き始めた。


「……空腹?」


蚊の体で空腹を感じるなんて新鮮すぎる。

しかしすぐに理解した。これは吸血本能だ。


「血を吸う……か。蚊なんだから、当然っちゃ当然か」


周囲を見回す。

草むらに人間の気配はない。虫も少ない。遠くに小さなアリが歩いている程度だ。

……まあ、今の俺から見ればそのアリですら十分にデカい存在だけどな。


「アリじゃ吸えねえよ……そもそも刺せるのか?」


フラフラと低空飛行をしながら、血の匂いを探してさまよった。

何度も風に煽られて地面に叩きつけられながら、なんとか森の出口の方へと向かう。


そしてそこで――


俺は、人間を見つけた。

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