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1-5 二人のはじまり


 一口一口大切に、夢中でケーキを食べ進める私に彼が話しかける。


 「味は。」


 「美味しいです。」


 「そうか。」


 すると、男はまた私の髪をぐしゃぐしゃっとかき混ぜた。

 誰かに、ただただ温もりを伝えるためだけに頭を撫でられたのはいつぶりだろうか。


 私が頭を撫でられるとき、それは大抵、相手の自己満足によるものだった。父親は、自分がいい父親であることを自分自身に納得させたいときに、私の頭を撫でる。祖父母は、私を誰かに自慢するときに、周囲に良い祖父母であることを示すべく頭を撫でる。


 無条件の慈しみを感じ、心の柔い部分がじんわり温かくなる。


 目に滲む涙を落とさないよう、ぱちぱち目を瞬かせながら、私はゆっくりケーキを食べ進めた。


 この時間が、ずっと続けばいいのに。


 テレビではヒーローが運転する車の助手席にヒロインが乗り込んだ。車の赤いテールランプが点灯し、家路へと二人は旅立つ。その赤が、最後にポツンと残されたいちごの赤と重なった。


 「いいぞ。」


 テレビから男へ視線を動かし、男を見上げる。男の太い首が膨らみ、発せられた言葉で空気が震えた。


 「ここにきてもいい。ソファーやテレビだって自由に使うといい。」


 そういうと男はこちらを向き、口角をキュッとあげた。首を傾げて、私の反応を待つ。その拍子、かきあげていた前髪が一房、男の目元に落ちてきて、その眼光を和らげた。


 なぜなのか、私は彼の動作の真似をした。目に力を入れて、ぎこちなく口角を上げる。

 私に居場所をくれようとしているこの人のことを、もっと知りたかったからだろうか。この人の感情を、思いを知りたくて、私は彼の真似をした。


 きっと私の表情はおもちゃのブリキのようにぎこちなかったのだろう。次の瞬間、男は声をあげて笑いだした。破顔して少し幼く見えるその表情に、少し開いた口から見える赤い舌に、白い犬歯に、私はぼけっと見惚れていた。


大人っぽいヒーローが少し幼く見える瞬間が好きです。

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