1-4 孤独な二人
私が、食べていいのだろうか。
人から物をもらうな。タダより怖いものはない。そう教えられてきた。
不器用な生き方をしていると思う。小学生の頃、友達が飴やシールを交換しているのを横目に、私は孤独に耐えていた。中学生では、孤独がこの身に染みついた。
差し出すものがないから、受け取れない。気軽に誰かに物を強請れる子が、羨ましくなる。
きっとその子は、誰からも好かれている子。笑顔を向けるだけで、なんでももらえる子。
私はそういう子にはなれなかった。優しい同級生や先生はいたけれど、いつだって差し出すものがないから受け取れななかった。だって、私はなにも持っていないから、優しい人たちになにも差し出せないのが申し訳なくて。
私はこの人にケーキと水を買ってきた。けれどもそれは、ずっとこの部屋を使わせてもらっていた対価には見合わないと思う。お金だってこの人のものだ。
なにも差し出せていないのに、これからだって差し出せないのに、ケーキをもらっていいのだろうか。
それに、この人は知らない人だ。知らない人に物をもらうのは、いけないことだ。
唐突に私は怖くなった。もしこの人が悪い人だったら。私はどうなってしまうのだろう。どうしよう。
突然の非日常に怯えながらも少し高揚していた私の心が、唐突に萎んでいく。
ケーキを見つめたままじっと動かない私を横目に、男は水をごくごく飲んでいた。鋭い眼光はテレビに固定されている。どうやらヒロインはカーチェイスから逃げ切り、無事にヒーローと再会できたようだ。
「食わないのか。」
視線はそのままに、男は私に問いかけた。
「私かえらなきゃ。」
私の口から、とっさに言葉が発せられた。
その言葉が耳から入ってきた瞬間、私は悲しくなった。帰る場所なんてない。
私には、本当に、帰る場所がないのだ。
男はなんの反応も返さない。
精悍で、硬質なその横顔を見上げて、私の口からふと言葉が漏れ出てきた。
「この場所、またきてもいい?」
すがるような声、だったのかもしれない。
男の視線がこちらを向く。鷹のような眼光が私を射抜く。私のからっぽな心を見透かすかのように。
じっと私の目を見た後、男の薄い唇が震え、言葉を発した。
「ケーキ、まだ食ってないのか。食べろよ。」
そう言うと男は私の真っ黒な髪をぐしゃぐしゃに撫でて、ケーキの蓋を開けた。私はフォークを手に握らされる。その甘い香りに我慢できず、反射的に、ケーキの白い部分をすくい取って一口食べた。甘い。そして柔らかい。
ケーキを味わいながら、私は男をじっと見つめる。
男のこちらを見つめる瞳は、暗くて深くて、けれども温かい。孤独の体温、なのかもしれない。なぜだかわからないが、そう思った。




