1-24:▼聞か猿A
ーVの整備庫前ー
一台の真っ赤なバイクがアイドリング状態で停車している。
高圧縮の排気がビリビリと辺りの空気を揺らす。
1人のライダーがそれに跨りタンクの上に置いたヘルメットを抱え込むようにしながらSPをいじって何かを確認している様子が見える。
「サスはやっぱりもうあと少しってとこだけど、これが限界かなぁ…。吸排気はエキパイの中間をもう少しだけ広げて、1番と6番のECUセッティング調整で行けるな。うん、うん、決まってきた!さすが第七世代のGPエンジンね!最高っ!」
アッシュブロンドの長い髪をかきあげる端麗な女性。
何かに気がつくその女性の視線の先には直立不動のQがいる。
「あら、Qじゃない?どうしてこっちに来ちゃったのよ?」
「ご無沙汰しております、師匠!Vさんから話を聞きまして飛んで参りました!」
「あとで寄るつもりだったから、わざわざ来なくても良いのに。」
「いえ!知ったからにはそうは行きません!」
「…まぁ、手間が省けたから良いけど。」
その様子を入り口の影から見守るVとエル。
「あれれ、、、全然様子が違うじゃん…?!」
「Qのやつはな、Aに会うと分かると恐怖と尊敬と好意とが入り混じって、いつもあの有様になる…まぁ早ぇ話、プレッシャーが凄えんだとよ。何かの拍子に切り替わるんだが、反動で今度はあの感じになっちまうんだ…今回はバイクの音だったな。。。あぁ面倒くせぇ…」
「マジかーーっ… 意外だ…」
コソコソと話をする2人に気がつくA。
バイクを降りて近づいてくる。
「あら!エルじゃない?!久しぶりね!大きくなってもーっ!ますますお父さんに似てきたわ!これはやっぱり将来有望ね!」
腰をかがめてエルの顔を至近距離で食い入るように見る笑顔のA。
Qがそれを見て少しムッとなるのをみてエルが慌てて答える。
「エ、Aさん、久しぶり!バイク…凄いね!?完成したの?」
「あ!やっぱり、わかる??そうなのよ~!この前話してたエンジン組んだから旧環状走ってきたの!やんちゃ坊主っぷりが最高よ!でも、まぁあとちょっとってところね!」
「嬉しいのはわかるが、もっと手前からエンジン切ってこい。近所迷惑だ。」
「何よっ、別にいいじゃない!どうせ誰もいやしないでしょ!そもそもあなたの工場だってガンガンうるさいじゃない!そんなこと言うなら、Vがまずご近所様にあやまりなさいよ!エリア的にも問題ないじゃな…」
「わーかった、わかった!!!いずれにせよだ、そろそろエンジン切ってくれ!もう冷えただろ!」
「何よもう!切りゃいいんでしょ、切りゃ!ふん!」
そういうとAは踵を返してバイクのもとへと戻っていく。
「ぷっは!Aさん相変わらず論理派w」
「ったく何だってんだ。。。」
二人の会話をかき消すようにアクセルを一発煽りエンジンを停止するA。
ため息を一つ付いて未だ直立不動のQに声をかける。
「そうだ、Q。ちょっとあなたに聞きたいことがあったんだ。」
「はい!何なりと!!!」
「・・・。 今、あなたのところにDB303J前期型、Δ融合炉制御基板、あるわよね。」
「え!?」
「な!?」
驚くQと慌てるV。
「なんでオマエがそれを知ってんだ!」
Vが叫びながら二人の元へと駆け寄っていく。
その後ろ姿を見つめるエル。
「やっぱり、何かあるんだ。。。」
昨夜のスタンガンでの二人の様子に違和感を覚えていたエルがつぶやく。
Vとすれ違うように、そのまま真っすぐエルのいる整備庫の入口へと笑顔で向かうA。
「話はちょっと中でさせてもらおうかな!KEIのエスプレッソ余ってるかしら?」
立ち尽くすVとQ。
Aの笑顔がすれ違いざまに神妙になったことがエルの不安を更に募らせる。
空には厚い雲が湧き始めている。





