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下手な演技で騙されて欲しい

それからお屋敷に戻り、結婚式に参列する準備をした。

昨日、お願いしておいた量産品のドレスを馬車に積むように指示してから出かける。

今回はラナも一緒だ。


「いい?今日、あなたを連れてきたのは訳があるの。これから見聞きすることは絶対に他言してはダメよ」

そうラナに強く言って、結婚式場へと向かった。


「それから、貴女には汚れ役をお願いするわ。私に怒られても泣いたりしないでね」

私が何かをしでかすと気がついたようで、神妙な顔で「わかりました」と返事をした。


「私の茶番に付き合って頂戴。お願いよ」

「かしこまりました」

連絡窓を開けて、御者にも「今からの事は他言無用よ」と念を押す。


今回でループを終わらせるのだから、慎重にしなければ、皆の記憶に残ってしまう。

結婚式が行われる教会に到着して、馬車のドアが開いた。


「ダンフォード侯爵令嬢様、いらっしゃいませ」

受付の執事が出迎えてくれたので、侍女の肩につかまり、足を引きずるようにして馬車のドアの前に立ち、階段を降りようと足を動かす。


「痛い!痛いわ。ちょっとは私を気遣いなさいよ」

侍女に怒鳴りながら馬車を降りようとして、その場にしゃがみ込む。


「ごめんなさい。朝、乗馬で足を怪我したの。さっきまで平気だったのに足が痛み出したわ。せっかくの結婚式だから参列したいのだけれど、この足では」

「アビゲイルお嬢様、無理は禁物ですわ」

ラナが辿々しく演技に付き合ってくれる。


「ごめんなさい。やっぱり治療院へ行ってくるわ。治療してもらってから参列するので、式には間に合わないかもしれないけれど、パーティーには参加しますわ」

受付の執事は

「かしこまりました。両家にお伝えしますので、無理はなさらずに」

と言って、座席に座り直すために手を貸してくれた。

なんとか誤魔化せたわ。この下手な演技で騙されてくれたのか、それとも嘘を見抜いていたけれど指摘出来なかったのか。

まあどちらでもいいわ。


「どこかで着替えたいの。ただし、結婚式には戻るわ。だからこのドレスがシワにならないようにね」

「かしこまりました」

「どこかで着替えられないかしら?」


「そうおっしゃると思いまして、ドレスは昨日購入せずに予約だけしております。ドレスショップに向かいましょう」

「さすがだわ!気が効くわね」

ラナには特別手当を出さないと。


街の中規模なドレスショップへと向かう。

「街歩きに最適なドレスをお願い」

10分後、試着室から出て、鏡を見る。


私、すごく不満な顔をしている。

結局、ラナが予約してくれたドレスは着ない事になったのだ。

その代わり、違う格好で今、鏡の前に立っている。


尾行という目的を達成した後は、また結婚式に戻らないといけない。

そのためにはまた、元のドレスに着替え直さなければいけないし、目立たないように街歩きをするにはこのピンク色の髪も隠さなければいけない。

髪色ですぐにバレてしまうわ。

という事で、最終的にはドレスの上から着れる修道女の格好になった。


これなら修道服のベールで髪色はわからないし、高級ショップの周りを歩いても、貧民街を歩いても浮かないだろう。


街歩きをした事がないから、ラナにもついてきてもらうために、同じ格好をしてもらった。

「今からどうするんですか?」

「クロノの息子に、ラブラジュリ公爵令息を尾行するようにお願いしてあるから、私もこの目でどこに行くのか見たいわ。という事で、一緒に尾行したいの」


「今日じゃないとダメなんですか?」

「ええそうよ。分家の結婚式をドタキャンして、一体どこにいくつもりなのか、見たいじゃない?」


30分後、私たちはガイと合流し、リュック様の見える位置で清掃を始めた。

ぼーっと立っていては変だし、修道女に見えるように奉仕活動をしないといけない。そうラナに言われて掃除を始めたのだ。

掃除なんて生まれてこの方したことがないので、箒の使い方がわからない。

ラナの真似をしていればなんとかなるかしら?


驚いたのは、募金箱を持っていなくても、寄付を申し出てくれる庶民の多い事!


それよりも更に驚いたのは、リュック様は、オレンジの髪色をダークブラウンに染めて、庶民のスーツを着て、街中のオープンテラスの席で、昨日見た男性と話していたのだ。


それからすぐにカフェから出ると、おしゃれな格好の女性と合流した。

オートクチュールのショップの店員のような格好だ。

この二人、過去にも見た!

仲睦まじく雨の中を歩いていた二人だわ。


抱き合ってキスを交わした後、変装したリュック様は女性の腰に手を回して抱き寄せ、二人で馬車に乗った。


「アビゲイル様を口説いたくせに!なんたる輩だ!」

ガイは怒りながら馬で尾行を開始した。


私達も馬車に乗る。

どこへいくのかしら?

ついていくと、人通りの少ない路地の廃工場に入って行った。

流石についていくことは出来ない。


しばらく待っていると、数台の馬車が出てきた。

ガイはその後を追う。


「お嬢様、どうしますか?」

御者が聞いてきたので、悩んだ挙句、その馬車を尾行してもらう事にした。


「お嬢様、これってストーカー……」

「ラナ。言わないで。自分でも気づいているわ。でも、確かめなきゃいけないのよ」

「確かに、今朝、お嬢様を口説いている姿を遠巻きに見ておりました。その方がこんな変装をして街歩きをして、しかも女性とキスしているのを見たら、後をつけるしかありませんけど……」


「この私を口説いたのよ?ドレスを準備したのは、計画的な素行調査よ」

「お嬢様、それではまだ口説かれる前から調査を計画していたみたいじゃないですか」

「まあいいじゃない!細かいことは気にしないで」


不思議がるラナ達に有無を言わさないわ。

私はこの先の展開が最悪なものではありませんようにと祈りながら、前を走る馬車を眺めていると、オペラ座に到着した。

遠巻きに様子を伺う。

すると、作業帽子を被り、マントを羽織った男が馬車から降りてきた。

離れていてもリュック様だとわかる。


この光景、以前のループで見た。

複数の男達が衣装箱を持って降りてくるのだ。

心の中で未来を予言して見ると、やはりそうなった。

男達は衣装箱を持ってオペラ座に入っていく。


「中で何をするつもりなのかしら?」

私の独り言を聞いた我が家の執事であるクロノの息子、ガイが近くまで見に行ってくれた。


「奴らは何か揉めています。鍵が無くて、運び出せないと。揉める声は外まで聞こえました。何かを盗むつもりでしょうか?」

ガイは真剣な声で言う。


昨日、イステル氏が鍵を持って帰ってその後、武器を回収したからだわ。

薄らと感じていた不安が現実になった。

リュック様が武器商人だって事だ。


数人の男達が馬車に戻って工具箱を持ってまたオペラ座に向かっていった。

それから10分後、男たちが先ほど持って行った衣装箱とは違う色の衣装箱を持って出てきた。


「さっきとは違う箱だわ」

「男達が去った後、内部を見てきましょうか?」

「いいわ。ガイは尾行を続けて。私は昨日、バックヤードを全部見たの。だから私が見に行ってくるわ。違いを確認する」

「かしこまりました」

ガイが馬車を追って先に出発をした。


「それならお嬢様の警護を私がしますよ」

御者が名乗りをあげてくれたので、リュック様達の馬車がいなくなって、本当に誰もいないのかを確認してからラナと三人で通用口から中に入る。

鍵は開いていた。


誰もいないオペラ様はシンと静まり返っていて、すごく不気味だ。

私たちの歩く音が通路に響く。

まず、印のあった衣装部屋を確認するが、昨日と変わらない。

「衣装箱も同じだわ」


メインの控え室に入ってみるがやはり変わらない。

誰もいないのに、灯りがついているのが不思議だ。

「明るいということは、あの衣装箱を運び込む算段が整っていたのですね」

御者が言った。


次は舞台に出てみた。

あの床の印の近くを見てみたが、何ら変わりない。

「鍵を開けたはずよね」

それらしいものがないのだ。


諦めかけた時、ラナが気が付いた。

「お嬢様、この舞台セットの階段、なんだか汚れてますよ。木屑がついてます」

言われて初めてきがついた。

侍女は職業柄、汚れに敏感でよかった。

自分では気が付かないわ。


「私の知る限り、この階段はあくまでセットで、誰も使わないわ」

階段をくまなく調べると、上の方の板が無理やり外されており、そっとめくると中に衣装箱が入っていた。


「中身は何かしら?」

開けてみると、札束だった!

「怖いです!お嬢様。私たち見てはいけない物を見てしまいました」


武器の代金だわ。

「急いでここを離れましょう。私たちは結婚パーティーに戻らなきゃ」

修道女の服を脱ぐと、その下には朝と同じドレスを着ている。

この格好でパーティーに戻ることにした。

イステル氏に報告しなきゃ。


「お嬢様、包帯を巻いていませんとおかしいですわ」

馬車の中でラナが足首に包帯を巻いてくれる。

急いで結婚式に行くと、ちょうどイステル様を乗せた馬車が到着するところだった。


間に合ったわ!

「ダンフォード侯爵令嬢!お怪我にもかかわらず戻ってくださり感謝いたします」

ボイド伯爵が出迎えてくれた。

少しだけ罪悪感を感じだけど、それよりもイステル氏に先ほどまでの事を説明したい気持ちが先に立つ。


じっとイステル氏が降りてくるのを待ったが、制服組の海兵隊しか降りてこない。

どういう事かしら?


「ダンフォード侯爵令嬢?」

一人の制服を来た紳士に話しかけたられた。

「イステル君は、明後日の警備の会議から戻れなかったんだよ。なんでも不備が見つかったとかでね。伝言を預かっているよ『探し物が見つかった』と伝えて欲しいと」


「あの、それってどんな意味ですか?」

「さあ。私にはわからんよ」

「そうですか。ありがとうございました」

制服の紳士にお礼を言って帰る事にした。


イステル氏は武器を見つけたという事よね。じゃあ私が見たリュック様が運び出していた物ってなんなのかしら?

私はてっきり武器だとばかり……。

という事はリュック様は武器商人ではないのね。

よかった。


でも、庶民の恋人がいる事を知ってしまったし、武器の密売人ではないにしろ、何かしら後ろ暗い事をしているのは確かだ。


悩みながらも帰路につく。

クッキーを配る前に、貸し切った建物を見に行ったが、ここからは広場は見えない。

これで何人救えるのかわからないが、やるしかない。


時計台広場についてクッキーを配った。

その時に、避難所の建物を準備したことを伝えるが誰も聞いてはくれない。

でもできることはしたわ。


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