はじめましての繰り返し
2日目は、朝早く起きて、乗馬服に着替える。
寝不足感が否めないけど、もう大丈夫。
私はリュック様の事だけを考える。
1日目の夜に、馬の餌となる人参などを沢山準備するように両親にお願いした。
その理由は、31回目のループの時の情報だ。
ラブラジュリ公爵子息様は、自分の馬を厩舎に預けていると聞いたので、馬へのお土産。
いや、賄賂だ。
乗馬クラブに入り、職員から一通りの挨拶を受けた後、クリフに馬へのお土産を出してもらう。
お土産は、人参などなので、大きな木箱に入っているが、可愛らしい籠に入れた物を二つ手に持っておく。
そして、ラブラジュリ公爵子息がやってきて、私とすれ違う前に、
「はじめましてミスター。本日は馬のお土産を持ってきたんです。貴方様の馬にも是非」
と手渡しをする。
横にいるシモーヌは笑顔で、
「おはようございます。こちらのお嬢様からのプレゼントは大変素晴らしい物でございますよ」
とアシストしてくれるのだ。
プライバシーを守るために、私の事も、ラブラジュリ公爵子息の家名も明かさないのには驚いた。
呼びかける時は、家名で呼びかけて来るのに、利用客同士の仲のとりもちはしないのね。
「ありがとうレディ」
笑顔で受け取ると、私の横を通り過ぎていく。
私は、自分の乗る馬を見繕ってもらい、馬に餌を食べさせてから乗馬するのだ。
「乗馬の仕方も完璧で、馬の歩かせ方も完璧ですわね。ではもう少し上達したら走らせ方を学びましょう。初めて乗馬クラブに来たとは思えませんわ」
シモーヌの目は輝いている。
上手くて当然よ。
この乗り降りや馬の進め方をレクチャーしてくれたのはシモーヌだもの。
2日目と3日目に乗馬クラブに毎回来ているのよ。
何度もシモーヌに教えてもらっているから上手くて当然。
24回目の時、イステル氏に手伝ってもらって馬に乗った。
あの時は、馬から落ちないように鞍にグッと捕まって、無理矢理手綱を引いた。
昔お母様から教えてもらったからなんとかできたけど、怖いから前屈みになり、無理矢理乗っていたわ。
そんな事を考えながら、乗馬のレッスンを受け、ラブラジュリ公爵子息より早めにレッスンを終える。
そして優雅にお茶をするのだ。
そうすると、ラブラジュリ公爵子息が相席を求めて来る。
これが7時50分。
何度か「はじめまして」をしてわかった事だが、ラブラジュリ公爵子息は私の事を知っていた。
何らかのタイミングでルアーナ様を通じて知っていたのかしら?
私の事が好みのタイプだとか。
目の前の長いまつ毛で縁取られた榛色の瞳を見る。
「私の事は、リュックと呼んでください。それと、貴女様の事はアビーとお呼びしても?」
「もちろんですわ」
何度繰り返しても、この名前で呼ばれる瞬間が好き。
リュック様は2日目は9時、3日目は8時になると「帰らなければ」というので、今日はあと1時間ある。
「ご一緒にモーニングでもいかがですか?両親からは絶品だと聞いてまいりましたの」
「ええ。いいですね!今日みたいな晴れた日は、外で食べるのもいいんですよ。テラス席に移動しましょう」
そういうと、立ち上がり、私に右手を差し出してくれる。
掌を乗せ立ち上がると、次は腕を差し出してくれるのだ。
「失礼、いつも妹にこうやってエスコートしているもので。驚かせてしまいましたね」
親密な相手としか、腕を組んでのエスコートはしない。
パーティーのパートナーとか、兄妹とか。
友人関係だと、したりしなかったり。
親密だと誤解されたくない時はしない。
私はもちろん、笑顔で差し出された腕を取る。
多くの貴族女性憧れのリュック・ラブラジュリ様と腕を組んでエスコートされ、今から朝食を頂くのだ。
ちょっとムードがないのは、私が乗馬服だって事。
でもいいわ。
余計に親密って感じがする。
いつも私は、「あの席がいいわ」と言って、テラス真ん中の中の様子も外の様子も見渡せる席を指さす。
四人がけの丸テーブルに向かい合わせに座って朝食を食べるのだ。
でも毎回この席だから、今回はリュック様に席を選んでもらおうと指定しなかった。
「あの席が良いのではありませんか?ほら川が見えて、野原が見える」
リュック様が選んだのは、テラスの端で一番せり出した部分だった。
確かに景色が綺麗そう。
そこに向かい合わせに座る。
「アビーに婚約者はいるのですか?」
今までされなかった質問が始まった。
これまでは、私が席を決め、私が質問してきた。
しかし、今回は席を決めてもらったので、景色を眺めていて、質問が遅れたからだわ。
「いえ。おりませんわ。ダンフォード家は新興貴族ですから、由緒正しい格式ある家柄とは違いますわよ」
「そうですか。アビーほど美人だと、お誘いも多いでしょう?」
ええ、下級貴族か貧乏貴族から。
心の中で答える。
「いえ。全くありませんわ。私は婚約者も恋人もおりませんもの。リュック様ってお上手ですわね」
「それだけ、初めてあったアビーの魅力に引き込まれたんですよ」
「魅力だなんて」
その時朝食が運ばれてきて、給仕はテーブルに並べた後、ゆっくりと戻って行った。
「さあ食べましょう」
毎度の事だが、お互いに空腹なので少しの間無言で食べ進める。
本当に少しの間だけど、この間も親密みたいで好き。
「アビーはどのような男性が好みですか?」
「私を大切にしてくれる男性ならどなたでも」
爵位が同列以上で、お金持ちなのは当然の条件。
「リュック様はどんな人が好みですか?」
「社交的で馬が好きな人です。そうだな、アビーみたいな」
なんだか今日は会話がリードされている。
「婚約者がいないとおっしゃいましたが、それならば私も婚約者候補のリストに入れてくれませんか?」
こちらをじっと見る眼差しが素敵だわ。
「そんな!リストなんてありませんわ」
恥ずかしくて下を向いてしまう。
「では、候補者の第一番目は私ということですか?」
「そう…なりますね」
顔が真っ赤になって、声が上擦ってしまう。
「よかった!」
私の目をじっと見て、笑顔を見せた。
なんて素敵なのかしら。
「明日もまたここでお会いできますか?」
「もちろんですわ。ところで、いつからこの乗馬クラブに通ってますの?」
ここから、今日聞きたかった質問を投げかけていく。
そうして色々と聞いたところで時計を見た。もうすぐ9時だ。
「そろそろ行かなくては。今日は楽しかったですわ」
今、帰ると伝えると、馬車で送ってもらえる。
でも、9時をすぎるとリュック様は「もう帰らねば」と言って、ここでお別れすることになる。
どうせなら馬車まで見送ってほしいから、ここで話を切り上げた。
「私も行かなくては。馬車まで送りますよ」
エントランスに馬車が来るように係員に依頼をして戻ってくると、私の手を握った。
「さあ、エントランスまで送りましょう」
榛色の瞳がキラキラ光る。
「また明日もここにいますから、お会いできるのを楽しみにしていますよ」
「わたくしもですわ」
馬車に乗り込もうとした時、一瞬、私の手を引いて、ぎゅっと引き寄せてくれた。
「しばしのお別れです。また明日」
頭の上から聞こえてくる声が素敵だ。
私はまだ、腕を回すことまでは出来ずに、棒立ち状態だが、全身が心臓になったかのように鼓動音が激しい。
リュック様からはシトラスのパフュームの香りがする。
「ええ。また明日」
私はゆっくりと馬車に乗った。
なんて素敵なのかしら。
繰り返す3日間の中で、2日間を一緒に過ごせるって夢みたい。
二人でモーニングを食べたり、お茶をするのは、もはやデートよ。
飛躍しすぎだなんてそんな事ないはずだわ。
タイムループのせいで、毎回「はじめまして」から入るけど、こちらからの質問を変えると違う話題になる。
出会う度に違う質問を投げかけているから、同じ話を聞いたりする事はない。
だから、毎回新鮮な気持ちで出会ってデータをしているつもりだ。
一方的な見解だけど、私は気にしない。
このループを終わらせて先に進みたい気持ちもあるけれど、これはこれで満足している。




