反抗する
2日目の恒例イベントである趣味じゃないドレスを着ないといけない憂鬱な結婚式は、イステル氏とのおしゃべりタイムだと思って楽しむことに決めていた。
でも、今回はイステル氏に対して怒っているので、あまり会いたくない。
本心をいうなら、怒っているというよりも、気まずいというか、頭にくるというか。
今の感情を言葉では言い表せないくらい複雑な感情が絡み合う。
昨日のアレはキスではなかった。
確実に触れもしない位置までしか近づいていない。
今までの事を振り返るに、イステル氏は本当に女性慣れしている。
女性の生活や扱い方も全て心得ている。
だからこそ、揶揄われただけなのは確かだ。
「お嬢様、準備が整いました」
侍女が鏡を持ってきてくれた。
もう鏡は見ない。
仕上がりを知っているから。
結婚式は私に与えられている両親からの数少ない義務だから、病気にでもならない限り欠席できないから行かなければならない。
でも、今回は式だけ出たら帰ろう。
ループを繰り返していると気がついた最初の頃は、乾杯の後に帰っていたんだけど、ここもとはイステル氏とお話をするために長い時間パーティーにいた。
今回一回くらいいいわよね、最低限の事をしたら帰ろう。
義務を果たせばいいはずだわ。
結婚式が始まる前に、新婦の父に早く帰る事を伝える。
理由は告げないが、大袈裟に足を庇うように歩いて見せて、結婚式が終わるのと同時に帰路に着く。
だからといってこんなに早くも帰れないからどこかに寄り道をしよう。
でも、このドレスで外は歩けない。
こんな量産品のデザインのドレスを着て歩けないわ。
どこかドレスショップに寄って、新しいドレスを買おう。
いつもはオートクチュールメーカーにしか出入りしていないけれど、今日は今すぐ纏うドレスが欲しい。
という事は、一点物のドレスショップだわ。
でも、そんなお店は知らない。
うーんと悩んで、数少ない友人のフローラ・パッセラ侯爵令嬢ところにいくことにした。
「時計台広場を通って、パッセラ侯爵邸に向かってちょうだい」
御者に指示を出す。
フローラと何も約束してはいないので、何の連絡もせずに押しかけるのはマナー違反だが、今思いついたのだから仕方ない。
この時間に時計台広場に行ったことはなかったが、寄ってみるといつもの少年がいたので、安心してクッキーを配る。
さっと配り終えて、すぐに次の目的地に向かった。
パッセラ家は、由緒正しいが、建国以来の貴族かと言われると、少し違う。
だから、エリーおば様の邸宅がある昔からの貴族が集まる貴族街にあるわけではない。
かと言って我が家のように新興貴族ばかりが住む貴族街でもない。
何故か、宝石商などが立ち並ぶ、高級街の中に建っているが、パッセラ侯爵家は宝石商や貴金属商とは無縁のワイナリーを営む貴族だ。
馬車の窓から外を見ると、オペラ座の裏側を通るところだった。
今日は公演がお休みなので、オペラ座の周りは静かだ。人気は無い。
しかし、誰もいないはずのオペラ座に数台の馬車が停まっている事に気がついた。
紋章も何もない馬車だ。
辻馬車かしら?
それにしては大きい。
興味が湧いて、じっと眺めていると、背が高く、作業用の帽子を深く被った男性が出てきた。
遠目からだからわからないが、マントを羽織り、こそこそとしているように見える。
怪しい人かしら?
そう思ったが、その後に同じような作業帽の男達が、大きな衣装箱を持って出てきた。
先頭の男性に指示されながら、次々に馬車に運び込んでいく。
荷物の搬入の業者だったのね。
休みの日にしか荷物の搬入ができないからだわ。
毎回見るバックヤードツアーではあんな衣装箱は見なかったけど、私達観客のツアーの後に搬出する荷物の準備に取り掛かるのでしょう。
公演が始まって間もないオペラなのに、あんなに沢山の衣装を交換するなんて大変ね。
もう何十回も見たオペラだが、前半部分を見た事がないから、もしもループが終わったら、初めから見てもいいのかもしれないわ。
そんな事を考えていると、御者がパッセラ侯爵邸への到着を告げた。
先触れも何も出していなかったのに、フローラは快く出迎えてくれた。




