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こんなはずじゃない!

2日目は、まだ少し暗いうちに起こしてもらい、髪を綺麗に結ってもらう。

「お嬢様に気になる男性ができたのではないかって、ご主人様と奥様がご心配していらっしゃいましたよ」

侍女が鏡越しに言った。


「ふふふ。内緒よ」

綺麗に結ってもらった髪に満足をして、馬車へと向かう。


今回は髪やメイクが乱れた時のために侍女を伴って行くことにした。

前回同様にクリフが受付で手続きを取ってくれたが、出てきた厩務員は金髪の50代くらいの女性だった。

「はじめてまして、ダンフォード侯爵令嬢様。私は、貴方様のお母様のレッスンを担当しておりましたシモーヌと申します」


誰が担当しようと同じだと思っていたが、今回は隣接するプライベートレッスン場に案内されてしまった。


早く来すぎたのか、乗馬クラブに他の利用者はまだ来ていない。

ラブラジュリ公爵家の馬車が到着したのは、私がプライベートレッスン場に移動する時だった。


プライベートレッスン場は、前回までの馬場とは少し離れている。


これでは私の事を認識してもらえないわ。

かと言って、私から声をかけることもできない。

でも、まだチャンスはあるはず。


どうにかしてラブラジュリ公爵子息と出会うためにはどうしたらいいのかと考えて、早々にレッスンを切り上げてもらえるようにお願いした。

そして、乗馬クラブの中を案内してもらえるようにお願いする。


これで、話しかけてもらえる瞬間があるかもしれないと考えた。

しかし、私の思っていた状況とは違い、何人もの職員がつきっきりで案内してくれる。

あまりにも仰々しすぎて、これでは誰も私に声をかけられないじゃない!


カフェスペースでお茶をお願いしたが、ラブラジュリ公爵子息は相席をお願いしてこなかった。

側には侍女と職員が控えており、なんでも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるからだ。

一人にしてちょうだい!と怒りたい気持ちが湧き上がってくる。


ここで、怒っては、明日に響く。

だって3日目も来るつもりだから。


「明日は、あちらの広い馬場でレッスンを受けたいわ。あまり特別扱いは好きじゃないの」


「左様でございますか。ダンフォード侯爵夫人から、なるべく特別扱いをと承っておりましたので、あまりにも仰々しすぎましたでしょうか?」


このシモーヌというお母様をレッスンしたという女性、正直すぎるわ。

もう少し濁して言うべきじゃない?

先ほどのお話をいろいろ聞いて、若い頃、お母様の側近も務めていたという事だし。

お母様は正直な人が好きだからわからなくもないけれど。


結局、ラブラジュリ公爵子息とすれ違うことすらなく、今日のレッスンは終了した。

もちろん、私はイライラを隠せない。


お屋敷に戻ると、お母様がニコニコ顔で迎えてくれた。

「お母様!何故、乗馬クラブで特別扱いを指示したのよ!」

「何故って。アビゲイルはいつも特別扱いを望むでしょ?皆と同じじゃ満足しないじゃない?」


「確かに今まではそうだったけど、今回はそれじゃ困るのよ」

「そうなの?」

お母様は眉を下げて、ちょっと拗ね気味だ。


「明日の早朝も行くけれど、もう特別扱いはダメですからね」

「アビゲイル、話口調も変わってしまって。少し砕けた話し方をするようになったわね。今までは気位の高い言葉遣いが好みだったのに」


一番会話をするのがイステル氏だからかしら。


「お母様ったら。私がいつも同じとは限らないわ」

少しイライラしたまま、結婚式に参列する準備に入った。

趣味の悪いドレスは、ループを繰り返しすぎて、もはや仮装させられると諦めの境地だ。


結婚式は変わり映えしなく、全く楽しくないが、

イステル氏とおしゃべりをするために行くのだから我慢しないといけない。


「今日はなんだかご機嫌ナナメですね、ダンフォード侯爵令嬢」

「そうよ。今回は前もって『乗馬クラブに行きたい』と言ったら、クラブで特別扱いを受けたのです」


「それのどこがいけないのですか?」

「プライベートレッスンに、仰々しい職員たちのおもてなしのせいで、ラブラジュリ公爵令息とお話できなかったんです」


「もしかして、いつも特別扱いを望んでいるから、初めて行った乗馬クラブでも特別扱いを受けたのですか?」

「そうよ!」

思わず頬を膨らませる。


そんな私を見てイステル氏はクスクスと笑った。


「明日も行くんですよね?乗馬クラブに」

「そうよ」

「明日こそ話せるといいですね」


3日目、乗馬クラブに向かう。

侍女を伴うと、お母様からの余計な事を伝える可能性があるから、今日は誰も連れて行かない。

昨日は、「お嬢様のお茶には砂糖は2杯、ミルクは少し入れてください。お疲れの時はそれを好まれます」と注文していた。

あれは恥ずかしかったわ。

砂糖2杯にミルクを入れるのは、小さな子供の飲み方よ。

外ではどんなに疲れていても、砂糖はいれない。

それが嗜みだもの。


前回と同じ時間に向かうと、ラブラジュリ公爵子息は馬を連れて馬場に向かっているところだった。


私は、昨日同様、シモーヌのレッスンを受ける。

レッスンが終わった後、ラブラジュリ公爵子息は私から少し離離れた席に座った。

しかし、しばらくするとこちらに向かって歩いてきた。


「恐れ入ります。レディ、乗馬の経験があまりないのですか?」

私の斜め向かいに立ち、少し会釈をするようにして話しかけてきた。


「ええ。そうですわ」

「こちらの乗馬クラブは本当におすすめしますよ。これからもいらっしゃる予定ですか?」


明日が来るならその予定だわ。

「ええ。もちろんですわ」


「ではこれから、同じクラブの会員になるのですね。申し遅れましたが、私はリュック・ラブラジュリ。以後お見知り置きを」


「まあ!ルアーナ様のお兄様ですわね。わたくしはアビゲイル・ダンフォードでございます」


「ダンフォード侯爵令嬢ですか。このクラブの出資者のダンフォード侯爵家のご令嬢ですね。だから、昨日はあんなに沢山の職員に囲まれていたわけだ」


「昨日の様子をご覧になっていらっしゃったのですね。あまりにも仰々しくて恥ずかしくて、誰かに見られているのではないかと小さくなっておりましたわ」


「その割には堂々としていましたよ」

ウインクして屈託なく笑う。

やっぱりかっこいい。

でも、自分からのアプローチ方法がわからなくてなんと話を繋げていいかわからない。


実際に心がときめく相手が目の前に来ると、強引に話を進めることなんてできないものなのね。


「あっ、もうこんな時間だ。帰らなければ。私はほぼこの時間に来ていますから、次回はレッスンのお手伝いをしますよ。その後、ご一緒にモーニングでもいかがですか?」


「ええ喜んで!」

「またお会いしましょう」

今回はファーストネームで読んでくださいとは言われなかったし、手の甲にキスも落としてくれなかったが、代わりにハンカチを差し出してくれた。


「耳の横に少し泥がついていますよ」

屈んで私の耳元で囁く。


恥ずかしい!

慌てて自分の胸ポケットのハンカチで耳をふく。


「ありがとうございます」

動揺した気持ちを隠して、優雅に差し出して頂いたハンカチをお返しする。


ラブラジュリ公爵子息は普通の姿勢に戻るとにっこり笑った。

「ではまたお会いしましょう」

「ええ!是非」

去っていく後ろ姿を見送った。

胸の鼓動が早すぎるわ。


時計を見ると8時だった。

私も戻らなければ。

3日目はラブラジュリ公爵子息は8時には帰らないといけないのね。

これは覚えておかなくては。

やっぱり2日目に出会わないと仲は進展しないのね。


もしかしたらタイムループって、私がより良い未来を選択するために起きているのかしら?

…そんなはずないか。

私は今日また殺される。

でも3日前にタイムループをして、またやり直せばいい。

俄然、やる気が湧いてきた。


考えてみると、タイムループをしていると認識しだした頃は、オペラ座の職員を怒鳴っては、無理矢理入場していた。

でも、改善策が見つかり、今はエリーおば様と出会ってオペラに簡単に入場できる。

当初の目的は他国の王子様と出会う事だったけど、今はイステル氏と情報交換するのが目的に変わった。


そうだ。すっかり忘れていたけど、私の目的はテレンス王国のセドリック王子と出会う事だった。

そもそも、本当にお忍びでオペラにいらしているのかしら?

これもガセネタだったのかもしれないわ。


今の私は、社交界で皆が憧れるエリーヌ・ドラテオ公爵未亡人と仲良くなること。

それから、リュック・ラブラジュリ公爵子息と恋人になる事が目標になった。


いつだったかイステル氏が言っていたわ「何度も決まった地点に戻ってやり直せる」って。

いつかこのループを終わらせることを目指しながら、リュック様とお近づきになる方法を模索することにした。


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