もう一度出会いたい
頭痛と吐き気で目が覚めて、空砲の音で我にかえる。
これで29回目。
前回は、乗馬クラブでリュック様と出会えた。
デートの約束は実行に移せないけど、毎回「はじめまして」と出逢えばいい。
そうしたら、2日目の早朝と3日目の早朝、一緒に過ごせるわ。
関係性を深めるのは、ループしているから無理だけど、ループの度に出会ってゆっくりと色々な事を聞いていけばいいわ。
実際に、エリーおば様と毎回『はじめまして』をしても飽きずに出会えるのは、こちらから振る話題によって、色々なお話が聞けるからだ。
時計台広場の少年たちを救う方法について、それはそれで考えていけばいい。
人助けも大切だけれど、でも、私の将来の嫁ぎ先を見つけるのも大切。
どっちも並行していけばいい。
人も自分も幸せになるなら、それが一番いい選択なはずだ。
エリーおば様に即位式のアフターパーティーに誘われるために、オペラの前に馬に乗って時計台広場まで行くとか、そんな無茶をしなければならなかったが、それももうやらなくて大丈夫。
だって、私は婚約者候補を見つけた。
このループ生活の中で、唯一と言っていいほどの希望だわ。
きっと私に運が向いてきたってことだと思う。
もしかしたら、ループ生活が終わるのが近いのかもしれないわ。
そんな事を考えているうちに、馬車はオペラ座に到着した。
馬車を降り、いつも通り入る前にエリーおば様と『はじめまして』をする。
私達が到着するまでの13時から14時まで、イステル氏は試行錯誤しているようだが、危険が伴っているとわかった以上、私に同行は求めてこない。
時計台広場管轄の警ら隊の詰所に行くには、私の乗馬の技術では往復するだけでも1時間以上かかってしまうだろうから、私とイステル氏で行くのは難しいというのも、同行を求めてこない理由の一つだろう。
いつものように幕間でイステル氏と挨拶をして、オペラが終わったらバックヤードツアーに参加をした。
オペラ座の後、エリーおば様の所でお茶をするのが定番なので、毎回、初めて招待頂いた演技をして、イステル氏と三人でお茶を楽しむ。
おば様のお話は興味深いから、今のところ結婚式のように飽き飽きしてはいない。
イステル氏も相槌を変えてくれるので、楽しく過ごせている。
ドラテオ公爵邸から戻る馬車の中で考える。
人助けを手伝わないといけないが、やっぱり、何よりも私の幸せも大切だ。
だから、今はできることをして、無理はしないておこう。
それよりも何よりも、今はラブラジュリ公爵子息ともう一度出会いたい。
これについてはどんな無理も頑張る。
その方法は一つしかない。
ダンフォード邸に戻り、すぐに両親の元に向かった。
「お父様、お母様、わたくし乗馬がしたいの。我が家が出資している乗馬クラブに明日の早朝から行きたいわ」
「運動嫌いなアビゲイルが乗馬をしたいって!それなら乗馬服を新調して、来週から通えばいい」
お父様は嬉しそうに言う。
「来週じゃダメなの。明日から行きたいのよ!」
「そう言われても、乗馬服がないから無理だわ」
お母様は、私のワガママが始まったと思って右往左往しだした。
「お母様の昔の乗馬服が衣装庫にあるでしょ?サイズはピッタリなはずだから、それを出して頂戴」
その言葉に家族と使用人全員が固まった。
「ビンテージ以外で、誰かが袖を通した服を着るなんて!」
「アビゲイルがそんな事いうとは!季節外れの嵐でも来るのかもしれない」
お父様とお母様は窓の外を見たし、執事は驚きでコーヒーカップを落としたが、幸いテーブルの上に落ちたので割れなかった。
「明日の朝いちで使えるようにしておいて頂戴。ブーツや手袋もお母様の物でいいわ」
この後のディナーの席で、お父様が、「何故急に乗馬をしたくなったんだ?」と聞いてきたが、適当に答える。
本当のことは言えないもの。
明日が楽しみでしかない私はディナーが終わると、皆の様子を無視して「明日は夜が明けるころ、起こしてちょうだい」と言って、サロンを後にした。
「アビゲイルが夜明けと共に起こしてくれって!」
「明日は台風が来るんじゃないのか?」
家族が大騒ぎしている声が廊下まで聞こえてきたが、気にしない。
明日は、リュック様と出会う日だ。
ウキウキして、念入りに自分磨きを行う。
全身をオイルマッサージをした後、フェイスパックをして美容に気を使う。
前回とは違い、綺麗にフルメイクをして出かけよう。
いつもよりも早く就寝につかないと、寝不足でクマなんてできたら最悪だわ。




