212 お留守番の従魔とヴァルハラと私
「リオ……今日もお留守番するの?」
『にゃうん……』
マザーの孤児院でジュジュとリズのヒーラー訓練の先生をかってでてくれたモナリィとその従魔であるスピーダーパンサーのリオとの毎朝のひとコマ。どうやら、リオは小さな子どもたちがいっぱいいる孤児院が苦手なようだ。
玄関先で今から孤児院へ向かうバートとモナリィが、お留守番すると意思を明確に表して腰をどっしりと落としてお見送りのポーズのリオを苦笑いでみている。
私とアリオスは、今日はヴァンと一緒にエンジュに会いにヴァルハラ教会へ向かう予定だ。バートとモナリィのお出かけタイミングと重なって、玄関先で出くわしてしまった。
「ふふふーん、ふふふーん」
アリオスの腕に中で、今日もぷにぷにほっぺのヴァンが、エンジュの歌を思い出しながら、鼻歌を奏でる。お耳の良いリオの三角のお耳が背後のヴァンの歌声を察知してピコピコと動いた。
『にゃうん』
ご機嫌に喉をゴロゴロ鳴らしながら立ち上がったリオが、モナリィから背を向けて私の足元へ近づいて大きな身体をスリスリと擦り寄せ、ちょこんと座って私をうるるんっと見上げてきた。
「おやおや? リオは、エンジュちゃんのお歌が聴きたいのかなぁ?」
『にゃうん!』
目の前に座って「一緒に連れて行って」と可愛らしいおねだりをするリオと視線を合わせるようにしゃがみ込み、首筋を両手でわしゃわしゃ撫でながら、今から孤児院へお出かけ予定のモナリィを見上げた。
「モナリィ、リオは私たちが預かるよ。リオだけで、お家でお留守番も可哀想だし」
「アルさん……お願いしてもいいかな? リオ……どうしても子どもたちに構われまくるのが苦手みたいだから……」
少し苦笑いをするモナリィ。どうやら孤児院で大勢の子どもたちに囲まれて、尻尾や身体を撫でくりまわされて、ご機嫌斜めになってしまったのだと教えてもらった。
「うむ……リオも我とともにエンジュの歌声で癒しを受けようぞ」
「クソ餓鬼! テメエは、いつも癒されまくってるだろうが!」
「そうだよね、ヴァン君、毎日パパに抱っこされて嬉しいもんね」
「お姉ちゃん……僕、パパよりママの抱っこがいい……」
「ああん!」
ほら、すぐにそんなことを言うから、またアリオスにほっぺを抓られた。
「アルさん……リオのことよろしくね」
「うん、みんなも一緒だから大丈夫だよ! モナリィも先生頑張って」
「先生」と言われ、モナリィの瞳が柔らかく細められた。ジュジュとリズへ魔術について教える立場になったモナリィ。その晴れやかな表情から、二人との関係性も順調に深まってきたのだろう。
リオを私たちに託すと、バートと仲良く微笑みあって、孤児院へと向かって行った。
そして、私たちは、この賑やかで最強に可愛いチーム【白雪】のもふもふ軍団たちと、ヴァルハラ教会へと向かった。
「ヴァン君、良かったね。マリアベルさんが許可をくれて」
「うん! エンジュお姉ちゃんも喜ぶから、いつでもどうぞって許してくれた」
ヴァンのおねだりから始まったヴァルハラ教会への訪問。毎度、毎度、教会の受付で許可を得てからエンジュに会いに通っていた。いつも連れ立ってエンジュに会いに来る私たちともふもふ軍団は、すっかり顔馴染みになった。
「エンジュも喜んでおりますので、いつでもお気軽にお越しください」
教会の責任者であるマリアベルが、私たちが都度都度受付で許可をもらっていることを考慮してくれたらしく、いつしか顔パスで受付に挨拶するだけで、中庭まで立ち入る許可を取り付けてくれたのだ。
そうなると、ヴァンも遠慮を隠さなくなり、週一回の訪問が、週二回になり、今では一日おきにヴァルハラ教会へ通っている。
自分が祀られている教会へ通う神様って、どうなんだろう? 私は、ヴァンの世界が広がっていく様をみて、この時は単純に嬉しく思っていた。
「こんにちは、アルお姉様、ヴァン君! アリオス様もいつもご苦労さまです。 リオちゃん、みんなも今日も私のお歌、聴きに来てくれたの?」
『にゃうん』
『わふっ』
『ホッホー』
私のことを天使だと歌うエンジュが、本物の天使のような笑顔で私たちを迎え入れてくれる。
最近では、リオがエンジュのお膝の上に顔を乗せて、エンジュに撫でられながら、歌を聴く。リオのお決まりのおねだりポーズである。女の子のリオは、アーくんや毛むくじゃらと違って、エンジュへの距離が一際近い。モナリィに伝えたら、「女の子だからね」と納得していたので、そうなんだろう。
「今日はね、新しいお歌ができたの。みんなに、一番に聴いて欲しくて……あの、良かったら聴いていただけますか?」
少しはにかみながら、照れくさそうに微笑んだエンジュ。新しい、お歌!? ぜひ聴きたい!
「えへへ……新しいお歌、とっても楽しみ」
「僕もいつものお歌も好きだけど、他のお歌も聴いてみたい! エンジュお姉ちゃん、歌ってよ!」
「うふふ、嬉しい……コホン、では!」
小さな咳払いをしたエンジュが、すうっと大きく肺に息を吸い込んだ。その瞬間、中庭の空気が一気に変わり出した。
「え!?」
歌う前からキラキラと降り注ぎ始めた精霊たちの祝福が金や銀の光のオーブとなってエンジュに届く。そして緩やかに私たちの頬を撫でる柔らかい風、まだ春になってもいないのにどこからか香るお花の香りが私たちを包み込んだ。




