211 祝福への揺らぎと光影と私
私が従属の印によって奴隷として囲われていた【白銀の翼】。魔力が限界突破したことで、自我を取り戻し私は全てをリセットする為に最果ての街マローへとやってきた。
だけど、ムガルによって再び捉えられた私をアリオスたちが助けにきてくれた。その時に、アーくんから教えてもらった毛むくじゃら(ガル)の出生の秘密。
「毛むくじゃら殿は、お父様が、ケルベロスで、お母様が、聖獣フェンリルという由緒あるお生まれなのです」
アーくんの私を静かに見つめる赤い瞳が、あの時の言葉を思い出させた。
「アーくんから……毛むくじゃらのお父さんがケルベロスで、お母さんがフェンリルだって聞いたことがあるの」
『わふっ!』
私の言葉に尻尾をふりふりしながら、毛むくじゃら(ガル)が明るく応える。
「そうだよ、お姉ちゃん。ガルは、僕の眷属たちの子どもなんだ」
あっさりと明かされる秘密にドキドキしてしまう。
「もしかして……お姉ちゃん、ケルベロスとフェンリルに会ってみたい?」
「ヴァン君! いいの!? 会わせてくれるの?」
「うん、お姉ちゃんなら、いいよ」
私とヴァンが盛り上がる中、アリオスだけは「ハァ……」と大きなため息を吐いた。
ヴァンが、短い腕を上げ、指先をパチンと鳴らそうとした瞬間、ギョッとしたアリオスが、慌ててヴァンの小さな拳を握り締め制止する。
「このクソ餓鬼……テメエ、もしかしてここに呼び出そうとしなかったか? ああん!」
「何じゃ……ただ、呼び出すだけじゃろう」
「バカヤロウ! いくら人気のない場所だからって、ほいほい呼び出していい代物じゃねえ!」
えっと……もしかして、私が会いたいって言ったから、ここに呼んでくれるつもりだったとか? さすがにそれは、マズイことくらい私でも分かる。
「ヴァン君! 私、我慢できるから! うん、神獣だよ! 私から会いに行くよ!」
「ああん! なに嬢ちゃんもとんでもないことを、さらりと言いやがる!」
「え!? ダメ?」
「ダメに決まってるだろう! ったく、どいつもこいつも……」
過保護なパパのせいで、ガッカリする私とヴァンを尻尾をふりふりしながら、毛むくじゃらが『わふっ』と優しく吠えた。どうやら、今日は毛むくじゃらもアリオスの味方らしい。
「……いずれ、俺が会わせてやる……だから、今は我慢しとけ」
アリオスが、ゆっくりと私のおでこに自分のおでこをピタリと寄せた。アリオスは、絶対に約束を違えない。守れない約束は、絶対にしない。眉間に皺がよって少し怖い見た目だけど、その優しさを私は知っている。
「えへへ……師匠、約束だよ」
「ああ、約束する」
「じゃあ、その時は、僕が案内してあげるね」
「……」
「アリオス、お主、なぜ我の頬を抓る」
無言でぷにぷにほっぺを抓られたヴァンが、赤い瞳でアリオスを睨みつける。なんだかくすぐったい二人の関係が見えて、少し嬉しくなったのは内緒にしておこう。
「ふふふーん、ふふふーん」
ご機嫌さんのヴァンが、エンジュが歌うメロディを鼻歌でなぞっていく。何度も何度もせがむ程、お気に入りになったエンジュの歌。
「ヴァン君、それはそうとして、エンジュちゃんも魔力に色を持ってるの?」
ヴァンは、ヴァンパイアだから、人や魔獣などの魔力の色が見えると言った。エンジュの歌声にこれほど惹かれるわけだから、どんな色をしているのか興味が湧き、軽い気持ちで尋ねた。
ヴァンの赤い瞳がゆらりと揺れる。そして、私たちを包む空気が一瞬に冷えた気がした。
「ヴァン君?」
「ん? えっとエンジュお姉ちゃんの魔力の色だったよね……祝福をもたらす金と銀の魔力だよ……だから、我は乞い願う……」
「ヴァン!」
アリオスが、少し大きな声を上げ、抱きかかえているヴァンを揺すぶった。その刺激にハッとしたヴァンが、大きく瞳を開いて自分自身の言葉に驚いた表情を見せた。
「アルお姉ちゃん……ごめんなさい。僕、怖くなかった?」
「ううん、怖くない……怖くないよ、ヴァン君」
アリオスの腕の中で少し震えるヴァンを私は抱きしめる。直接私の魔力を流せば、少しは安心してくれるかも……。「大丈夫、大丈夫」と繰り返しながらヴァンを優しく腕の中に包んだ。
コテンと私に身体を預けるヴァンを、アリオスも少し心配そうに覗き込む。私もアリオスと同じように、みんなを守れるようになりたい。そんな思いと決意が芽生え始めた気がした。




