210 透明の光と過去の絆と私
年が明けたからといって、春はまだ先だ。ただでさえ人気のないこの場所は、肌寒い。アイテムボックスから毛布を一枚取り出した。倒木に腰を下ろした私たちは大きな毛布をブランケットがわりにして身体を寄せ合い、肩からかけて包まった。
「えへへ……ハクロ山の頂上を思い出すね」
「ああ……そうだな」
あの夜もこうしてアリオスと一枚の毛布の中で、暖をとった。あの時と違うのは、アリオスのお膝でちょこんと座るヴァンがいることだ。
「ハクロ山……アリオス、主が討伐したアイスドラゴンは、ギルドから我に献上されたぞ」
「フン……あの程度、俺の敵じゃなかった」
ああ、あのアイスドラゴンは、ヴァンが引き取ったんだ。さすがのジェシカもお土産だと渡されても手に余るよね。
「バレル盗賊団の壊滅も然り、次々と名前のあがるチーム【白雪】の存在。主と我の関係が在ればこそ、興味が湧くのも至極当然」
黒髪少年のぷにぷにほっぺのヴァンが、領主の顔をして語る。そして、私の顔を見上げると燃えるような赤い瞳が柔らかく細められた。
「だから、僕、アルお姉ちゃんと直接会って、お話したいと思ったんだよ」
領主トランバニアからの晩餐会の突然のご招待。そういうことだったんだ。初めて聞かされる晩餐会の招待状の理由を聞いて、「そっか」と呟くと私はヴァンの頭を優しく撫でた。
「お姉ちゃんの魔力は、あの時もとても綺麗で……僕は、僕の魔力と交われば、どうなるんだろうと思ったんだ。だから、あの時は……ごめんなさい」
「ん? えっと……あの時って、何かあったっけ?」
ヴァンからの突然の謝罪に首を傾げた。晩餐会の夜、私はアリオスからプレゼントされたスカイブルーのドレスで、お姫様になった。
少年ヴァンと出会って、美味しいお肉を食べた。そして、幸せなチョコレートフォンデュという至福のスイーツと出会って、最後はチョコミントというアイスの王様と運命的な出会いをした。最後は、王子様のアリオスとダンスをして、まるでお伽話のような夢の夜だった記憶しかないけど?
「あはははは……さすがアルお姉ちゃん! 覚えてないんだ僕が魔力で攻撃しちゃったこと」
「…………あったっけ?」
「うん! 僕が、みんなの前で挨拶した時だよ。お姉ちゃんは、魔力に『お腹が空きました!』って、魔力でメッセージまでくれたじゃん」
「ああ! あの纏わりつくような魔力! 思い出した、思い出した! ヴァン君、私ちっとも気にしてなかったのに、わざわざ謝ってくれるんだ。ヴァン君、とってもいい子! 私は大丈夫だよ」
私がヴァンをヨシヨシと撫でるので、隣のアリオスは、少し面白くないのか、無言でヴァンのほっぺをむぎゅっと指先で抓った。相変わらずのあまのじゃくなパパである。
「えへへ……綺麗な色って褒めてくれるけど、私の魔力って何色なの?」
「お姉ちゃんの魔力はね……何処までも透き通っていて、キラキラした透明な湖のように……お日様が反射する水面のような穏やかな無色かな」
「ちょ……ちょっと、恥ずかしい……褒めすぎです」
「ちなみに……アリオス、お主は、ドス黒い混沌の黒じゃ」
「ああん! このクソ餓鬼!」
お約束通りのアリオスの反応を見て、ケタケタと笑うぷにぷにほっぺのヴァン。柔らかいほっぺを何度抓られても全く堪えてない。
「お姉ちゃんとアリオスの魔力が交わっても、お姉ちゃんの魔力が全て優しく包み込んじゃう。……良かったのうアリオスよ……」
「チッ」
あーあ、照れちゃった。いくら見た目はぷにぷにほっぺの愛らしい少年姿であったとしても、中身は悠久の時を生きる優しいヴァンパイアだ。いくら、我儘大王なアリオスでも、大人しくなるしかない。
「じゃあ、ヴァン君の魔力は、何色なの?」
「うにゅ? 僕は……魔物だから闇色……かな?」
てへっと笑うヴァンが、なぜか切なくて物悲しくて……思わずアリオスの腕の中にいるヴァンをぎゅうっと抱きしめてしまった。
「お、お姉ちゃん……誤解しないでね? 僕だけじゃなく、そこにいるガルもアーくんも、そしてモナリィお姉ちゃんの従魔のリオだって、みんな同じ闇色なんだよ?」
「……そうだとしても……ヴァン君の闇色は、とっても深い闇に見えたから……」
ヴァンを抱きしめる私をアリオスが、ヴァンごとぎゅうっと抱きしめた。
「テメエらは、俺が丸ごと守ってやる……だから、笑っとけ」
「……パパが守ってくれるって! 良かったねママ!」
「……うん! ヴァン君、パパはとっても強いから、安心だね!」
「クッ……テメエら……タチ悪すぎだぞ」
大きなアリオスの腕に包まれて、私とヴァンは、クスクス笑う。不器用なお父さんは、とっても頼りになるお父さんでした。
「それで、師匠とヴァン君って、昔からの知り合いだったの?」
「う……と……嬢ちゃん……まあ、知り合いっちゃあ、知り合いだというか……」
急にモゴモゴとどもり出したアリオス。カッコつけだから、私に知られるのが恥ずかしいのだろうか? 私の中でむくむく湧き上がる好奇心を察知したのか、ヴァンがイタズラ少年のようににやりと笑う。
「えっとね、アリオスがこーんなちっちゃい時に、僕がガルをアリオスに合わせてあげたんだよ」
「俺は、そんな人形みたいなサイズだったことは一度もねえ!」
ヴァンは、少年の姿だから手の幅が短かった。だけど、ミニチュアサイズのアリオスを想像してしまって、思わず吹き出した。
「あはははは……師匠、そんな小さな頃からヴァン君と知り合いだったんだ」
「うるせぇ……ガルと俺が従魔契約したきっかけだっただけだ」
「ガルは、僕の眷属の間に生まれた子どもだったからね」
何気ない会話だったけど、思わずびっくりして、固まってしまった。楽しそうに、懐かしそうに笑うアリオスとヴァン。毛むくじゃらと並んで座っているアーくんをチラリと見る。
『ホッホー』
こくこくと頷くアーくんを見て、私はアーくんから教えてもらった毛むくじゃらのお父さんとお母さんについて、思い出していた。




