206 歌の地図と刻印と私
アーくんが、アークデーモンって思わず言っちゃった……。エンジュは、アーくんに伸ばしかけた手がピタリと止まる。私の肩の上では、アーくんがこの上なくもじもじしているし……。
「し、師匠……」
隣のアリオスを見上げると、「大バカ者!」と心のお声が聞こえてくる始末。
「えっと、えっとね、エンジュちゃん……アーくんは、私としっかり契約してるから……大丈夫! とっても優しい子だよ?」
もはや、フォローになっているかなっていないのかわからない言い訳をしてしまう。エンジュの視線が、アーくんから私へとゆっくり動いたのを見極めて、私は力強く「うんうん」と頷いて見せた。
「あの……お姉さま、ごめんなさい。突然のことで、びっくりしてしまって……」
「そりゃ、そうなるわよ。私だって、最初はびっくりしたから」
エンジュの言葉に、モナリィが援護射撃をしてくれた! やっぱり、私の大親友は頼りになる! モナリィ、大好き!
『ホッホー』
アーくんが、少し恥ずかしそうによちよちと私の肩で歩いてエンジュに少し近づき小さな頭を下げてじっとしている。エンジュが、その様子を見て、大きく見開いたお目目が少しずつ細められていった。
「アーくん……驚いてごめんね。私ともお友達になってくれますか?」
『ホッホー』
いつもより小さな声で、アーくんが鳴いた。エンジュが、そっと指先でアーくんの首筋をくすぐるとアーくんも自然にその指先へ身体を預けた。
モナリィへ感謝の想いを込めて振り返ると、全く役に立たなかった男連中二人が目に入る。バートが、胸を撫で下ろしている仕草が腹立たしい。後で、モナリィと一緒に「べっ」て舌を出してオヤツを横取りしてあげよう。ジュークもソワソワしているだけだったし、同罪だ。
さらに後ろに視線を送れば、扉の前で静かにたたずんでいるマリアベルが見えた。落ち着いた様子から、私のやらかし発言は聞こえていないようだ。結果よければ全てよし! 改めてお隣のアリオスを見上げれば「大バカ者」から「ばかタレ」へ心の声がグレードダウンしていたので、ニッカリと微笑んでみせた。
「エンジュお姉ちゃん……また、後でお歌聴かせてくれる?」
私たちは、自己紹介を終えた後中庭の噴水が見える東屋でピクニックタイムだ。アイテムボックスからヴァンからのお土産とそれに張り合うようにアーくんが腕によりをかけて作ったサンドイッチをテーブルに並べていく。
落ち着いたところで、小悪魔天使のヴァンのお歌のおねだりが炸裂した。その言葉にいち早く反応したのが、チーム【白雪】のもふもふ軍団たちだ。
毛むくじゃら(ガル)もリオもアーくんまでも、エンジュをつぶらな瞳でじっと見つめ背筋を伸ばす。
本当にうちの子たちは可愛らしい。
「はい、喜んで」
エンジュが、柔らかく微笑んで、席を立つ。すうっと息を吸い込めば待ってましたと精霊たちが小さな光のオーブとなってエンジュの周りに集まり始めた。
同じメロディに同じ歌詞。だけど歌う回数を重ねれば重ねるほど、胸がジンジンと熱くなる。この歌をどこか別の場所で聴いたとしても、私はきっと振り返ってしまう。そして、エンジュの姿を探してしまう。そんな思いが、溢れてくる。
まるで導きの地図のようなお歌だと、本能が感じてしまった。
オレンジ色の夕暮れが、私たちを柔らかく包む。アリオスの腕には、すやすやと眠りにつくヴァンの姿。何度も何度もエンジュにお歌をせがんで大興奮だったから、エネルギーを使い果たしたのかもしれない。
悠久の時を生きたヴァンパイアのヴァンを鷲掴みにするエンジュの歌声は、彼にとってどうしても必要なお歌だったのかもしれない。
「ヴァン君もみんなも喜んでいたね!」
「……ああ」
少し反応が遅れてアリオスが返事をくれる。ヴァンのために私とヴァンを繋ぐバイパスの役割をかって出てくれたアリオスも少し疲れているのだろう。
お尻フリフリ、尻尾ゆらゆら。前方にご機嫌よく歩くもふもふ軍団の後ろを私とアリオスは、手を繋いで歩く。
私は、この大好きな場所をずっと守っていきたいと思う。
アリオスにもこの思いを届けと願いを込めて、指先に力を込めて魔力を流す。アリオスも私に答えてくれる。視線をまっすぐに向けたまま、唇を引き締めてアリオスが私の手を強く握り返した。
首筋の白と黒の刻印が僅かに共鳴し始める。
うん、私たちは確かに繋がっている。
「えへへ」
アリオスを見上げて、私は微笑む。
今日もゆっくり、いい夢が見れそうです。




