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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子
第10章:神の名が揺れる街でーーヴァルハラ編

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205 歌心とときめきと私

「アルお姉さま!」



 弾けるような笑顔を見せ、エンジュがパタパタと駆け寄ってきた。毛むくじゃら(ガル)やリオ、そしてアーくんまでもが、「もっとお歌聴きたい!」みたいな表情をして、エンジュの動きに視線を動かしていくのが可愛らしい。



「エンジュちゃん! こんにちは! えへへ、みんなで会いに来ちゃった! びっくりした?」

「こんにちは! そしてみなさんもはじめまして……」



 少しはにかんだ笑顔がエンジュらしくて可愛らしい。もじもじとした姿と先ほどまで堂々とお歌を歌っていた姿のギャップが、同じ少女だとは信じられないくらいだ。



「エンジュちゃん! この前聴かせてもらった時より、もっとお歌が上手になってる!」

「うふふ……毎日、毎日、この場所で……アルお姉さまを思って歌ってるからかな?」

「え? 私を思って?」



 やだ! エンジュの言葉に今度は私の顔が熱を持つ。隣のアリオスを見上げれば、ニヤリと笑みを見せられ、視線を少し下げてヴァンを見れば、うんうんと頷いているし、いたたまれない。



「私、アルお姉さまとお会いしてから、歌の心が意味を持ちはじめたとか……よくわからないのだけど、心が、気持ちが溢れるような気がするようになったんです」

「うん……エンジュちゃんがいっぱい練習したからだよ」



 エンジュに両手で手を握られ、暖かな温もりが伝わってくる。ぽぽぽと頬に熱を持つのを感じながら、後ろを振り返れば、モナリィとバートが腕を組みながら、私たちをニヨニヨ見ているのが目に入った。こっちもか! ジュークだけは、胸の前で指を組んで去りゆく精霊シルフとウンディーネに感謝の祈りを捧げているし……。



「えっと、えっと……紹介するね!」



 雰囲気を変えたくて、私はエンジュにチーム【白雪】のメンバーを一人ずつ紹介していく。エンジュと握手を交わしながら、名前を名乗っていく。



「俺はバート。冒険者だけど錬金術師もしている。……歌、すごかった」

「私は、モナリィ。ヒーラーで、バートさんの妻です!」



 バートが頬を指先で掻きながら照れた表情を見せ、モナリィと見つめ合ったあと柔らかく微笑んだ。モナリィもバートと腕を組んで、仲良しさんをこれでもかとアピールする。



「よろしくお願いします」



 ぴょこんと一瞬跳ねてから、姿勢を正してお辞儀をするエンジュ。こうやってみるとやっぱり十歳の女の子だ。



「俺は……ジュークです。エルフ族で、精霊術が得意です。エンジュさんの歌声は、精霊たちの祝福を受けていました」



 今度は、エンジュのお顔が真っ赤になった。ジュークは、感情の機微が薄く見えるけど、ダイレクトに思ったことを言っちゃうタイプなんだよ。



「その……あの……嬉しいです」



 恥ずかしがるエンジュに、ジュークが優しく微笑みかけた。



『わふっ』

『にゃうん』

『ホッホー』



 さっきまで特等席を陣取っていたチーム【白雪】のもふもふ軍団が、仲間外れは寂しいと自己主張をする。私の足元に寄ってきて、身体を擦り付けながら、つぶらなお目目で見上げてきた。忘れてませんよ。うちの子たちは、やっぱり可愛い!



「この大きな黒毛のフェンリルみたいな男の子が、アリオス師匠の従魔の毛むくじゃら」

「……ガルだ」

『わふっ』

「ガルちゃん、はじめまして」



 エンジュがふわりと毛むくじゃらの前にしゃがんで視線を合わせると、毛むくじゃらが少し頭を下げる。これは、頭を撫でていいよのポーズだ。エンジュもわかったのか、そっと毛むくじゃらの頭を撫でた。



「次にレオパルド柄の女の子は、モナリィの従魔でリオだよ」

「うふふ、リオちゃんはじめまして」



 毛むくじゃらとは違い、リオは顎をのけぞらせ喉元をエンジュに見せた。これは、喉元を撫でてくださいポーズだ。クスクスと笑うエンジュが、リオの喉を優しく撫でれば、ゴロゴロと重低音が聞こえてきた。



 次は私だと私の肩に飛び乗ってきたのがアーくんだ。



「最後に私の肩に乗っているのが、私の従魔、アーくんだよ」

『ホッホー』

「はじめまして、アーくん」



 アーくんは、チラッとエンジュを見た後、なぜか私の髪の中にお顔を突っ込んだ。



「アーくん? ご挨拶は?」

『ホッホー』


 私の髪の毛の中で、『ホッホー』静かに鳴く。アーくん……一体どうしちゃったの?



「ブハッ! クソ悪魔! 柄にもなく恥ずかしがってんのか?」

「うむ……お姉ちゃん以外の女性にときめいたのが恥ずかしい……ってところじゃな」

『ホッホー!』



 アリオスとヴァンの指摘に、猛抗議をするアーくん。そっか、アーくんは、そんなこと考えてたんだ。ちょっと嬉しくて、可愛らしいアーくんの喉元を指先でそっと撫でると私を赤い瞳でアーくんが見つめてきた。



「アーくん……私、怒ってないよ。それだけ、エンジュちゃんのお歌が上手だったってことでしょ?」

『ホッホー……』



 アーくんは、コクリと頷き、私のくすぐる指先に身体を擦り付けて甘えてきた。



「改めて……アーくんはじめまして、歌を聴いてくれてありがとう」



 立ち上がったエンジュが、柔らかいトーンの声で、アーくんに挨拶をする。アーくんが一瞬私を見つめてから、エンジュの方へ正面を向いた。



『ホッホー』

「アークデーモンのアーくんです! よろしくね」

「え!?」

「あ!……言っちゃった」



 思わずついうっかりと……お口が滑っちゃいました。

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