202 御神体と参拝客と私
アリオスが、ゴクッと最後のコーヒーを飲み干したのを合図に私たちは立ち上がった。
「そうと決まれば、さっさと行くか」
アリオスもヴァンを右手に抱きかかえたまま立ち上がり、当然のように左手は私と手を繋ぐ。
「俺たちも行くんっすよね……」
「当然だろ? 最後まで付き合えや」
「……アリオスさまの子守りの噂の真相が、これだったなんて……」
バートもモナリィもなんだかどっと疲れた表情で立ち上がる。今日は、アリオスの従魔である毛むくじゃら(ガル)も私の従魔アーくん、そしてモナリィの従魔であるスピーダーパンサーのリオも一緒にお出かけだ。
「あれ……みなさん、お出かけですか?」
エルフ族で私たちチーム【白雪】のメンバーであるジュークが、仕事を終えてちょうど帰宅したのか玄関で出会した。事情の知らないジュークが「行ってらっしゃい」と言った瞬間、バートがジュークの肩を掴んだ。そして、モナリィが「逃がさないわよ」とジュークの腕に絡みつく。
「え? え? ええ?」
「ジューク……お前も【白雪】だ。付き合えや」
「そうよ、ジュークさん……私たち、仲間じゃない。一緒に行きましょう」
右と左をバートとモナリィに包囲されたジュークが、二人の顔を見比べる。
「ジューク! 今から、ヴァルハラ教会にみんなでお出かけするんだよ」
「ええ!?」
帰った瞬間、私たちに拉致されるように引きずられ、帰ってきた道を逆送還されるジュークは、ヴァンの正体を全く知らない、一番かわいそうな一人だった。
「ふふふーん、ふふふーん」
ヴァンが、アリオスの腕に抱かれ、覚えたてのエンジュの詩を歌う。私とアリオスは手を繋ぎ、アーくんは、フクロウの姿で私の肩に、ちょこんと座る。毛むくじゃらもリオもヴァンの歌声を聴きたいのか、私たちのそばで、尻尾を揺らしながら、ヴァンの歌声にリズムを合わせる。
そして、私たちの少し後ろを歩く困惑顔のジュークを挟んで、モナリィとバートが連なっている
「諦めろジューク。お前も、【白雪】のメンバーだろ?」
「ジュークさん……私たちだって、いまだにショックなんだから」
「いや……でも……」
どうやら、後ろの三人は被害者同盟を組んだらしい。そりゃ、ヴァンがヴァンパイアで、領主様だって言われても、今の愛くるしいぷにぷにほっぺの少年だと信じられないよね。
「ハァ……」
大きなため息を吐くジュークだけど、結局はエンジュのお歌を聞くために一緒についてきてくれるあたり、素直じゃないんだから。
「それにしても……ヴァルハラ教会への参拝客、異常に多くないっすか?」
バートが、すれ違うヴァルハラ教会から出てきた参拝客の多さに首を傾げる。
「…………」
バートの言葉に無言のアリオスが、私とヴァンをチラリと見た。
「アリオスさん……なんか心当たりあるんすか? そして、なんでアルを見たんですか?」
何、それ! 参拝客が増えたのは、私のせいじゃないもん!
「勘弁してください……アルさん」
「んな! ジューク! ヒドイ!」
何も聞いていないのに、ジュークが私だと断定してしまった。
「お姉ちゃんは、何も悪くないよ? 僕が、御神体をもう一個作ったのを並べただけだもん」
「ヴァン君……そうだよね、私何もしてないよね」
「……ってことだ」
私とヴァンが「ねー」っと仲良く同意し合っていたら、呆れたアリオスが、雑にまとめてしまった。
そして、バートとモナリィの足がピタリと止まる。「聴きたくなかった……」と顔面蒼白になったジュークが静かに呟いた。
「何、もう済んだことじゃ」
ヴァンが、赤い瞳を細めてにっこりと笑う。被害者同盟の三人組がポテポテと肩を落として私たちの後ろを再び歩き始めた。
そして、私たちチーム【白雪】一行は、エンジュが待つ、ヴァルハラ教会の中庭へと向かう。




