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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子
第10章:神の名が揺れる街でーーヴァルハラ編

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199 歌声と光と私

 星一つ輝くことができない暗闇の中

 一筋の風となり小さな光が足元を照らす

 光は、色と温もりを育み、全てを優しく包み込む

 姿を現すは銀髪の天使

 その笑みはどこまでも希望に満ちていた



 高く澄んだ声が、風にのせて歌の調べを私たちに届けてくれる。



「……へえ」



 アリオスが、口角を上げて歌の音色に耳を傾ける。今まで一度も聞いたことのない歌詞とメロディだけど、どんなに苦しくても真っ直ぐに歩いて行こう……そんな勇気を与えてくれる歌だった。



「ヴァン君……素敵なお歌だね。私もこのお歌好き」

「うん! 優しいお歌……お姉ちゃんみたいだね」



 それは、褒めすぎです。思わず、頬が熱を持って赤面してしまったじゃないか。やり場のない思いを「えい」とぷにぷにのヴァンのほっぺを突いて誤魔化した。によによと隣で笑みを浮かべるアリオスも少し憎たらしい。



 赤毛の少女が祈りを捧げるように歌う姿は、とても眩しくていつまでも聴いていたいと思わせた。マリアベルもこの優しい讃美歌をあの窓辺から毎日聴いているのだろう。


 少女の口から繰り返し紡がれる讃美歌を緑豊かな中庭で、私たちは静かに聴いていた。



 お歌に誘われるように小鳥たちが少女の周りへと集まってくる。きっといつもの光景なのだろうけど、とても幻想的で夢心地な気分になる。



 歌の終わりと共に、赤毛の少女がゆっくりとその瞳を開いていく。



 少女の視線が私たちを捉え、黒目がちの瞳が大きく見開かれた。少女の頬に赤みがさしていくのがわかる。



「黙って、お歌を聴いてごめんなさい」



 恥ずかしいよね、居た堪れないよね。だけど、とても素敵なお歌だったよ。




「お会い……お会いしたかったです……天使さま」



 黒目がちの瞳からポロポロと大粒の涙が溢れ出す。悲しいわけではない、溢れ出す想いが込められた涙だ。だけど……私は、天使じゃないよ?



「え? ええ? 天使さま?」

「ククッ……お前のことだ」

「お姉ちゃん……天使さま!」



 戸惑う私に、アリオスとヴァンが揃って私を天使だと認める発言をした。私には、背中にお羽は生えてません。『天使』だと言われるたび、胸の奥が少しだけ痛くて、少しだけ温かい。



 小鳥たちが、『ピピピッ』と感謝の囀りをしてから飛び立っていく。そして赤毛の少女はゆっくりと立ち上がった。



 私たちは、ゆっくりと少女の前へと足を運ぶ。私を見上げるように潤んだ黒目がちの瞳が、真っ直ぐに視線を向けてきた。



「はじめまして、天使さま……私の名前は、エンジュです」



 朗らかに少女が自分の名前を告げた。「名前だけは、覚えていた」……ジェシカの言葉を思い出す。『エンジュ』うんうん、とっても素敵なお名前だ。忘れなくて、よかったね。



「えへへ……私は、天使じゃないよ。ただの冒険者のアル」

「……アルお姉さま……アルお姉さま! 初めまして! お会いできて嬉しいです」



 にっこりと笑みを浮かべるエンジュは、自分の足でしっかりと大地に立っている。それが一番嬉しかった。



「エンジュ……僕は、ヴァン。こっちの怖いおじさんは、アリオスだよ」

「おい、コラ! 誰が、おじさんだ! お兄さんだろ!」



 『怖い』は、否定しなくてもいいんだ。そういえば、リズにも『おじちゃん』と呼ばれて、ショックを受けていたよね。



「俺はまだ28歳だぞ……おじちゃんって年齢じゃねえ」

「フン……まだまだ若造じゃな」



 少年姿のヴァンが、アリオスを「若造だ」と罵る。その言葉にエンジュが大きく瞳を開いて固まった。そして、プルプルと肩を小刻みに震わせ始め、大きな声をあげて笑い出した。



「あはははは……ヴァン君……君だって少年じゃない!」

「むむ! エンジュお姉ちゃん! 僕は、ただの少年じゃないよ!」



 アリオスの腕に抱っこされたまま、いくら勇ましく訴えても説得力はないよ。アリオスからグリグリ頭を撫でられている時点で、エンジュからはちびっこ認定されてるよ。



「エンジュちゃん……みんな、私の大事な仲間で、家族です」



 この愛おしい賑やかな関係は、きっとこの先も続いていく。何があっても、私が守りたい場所だ。



「エンジュお姉ちゃん……さっきのお歌、もう一度聴かせてよ」



 ヴァンが、エンジュにお歌が聴きたいとお願いをする。ヴァンは、歌の音色が聞こえてきたマリアベルの執務室でも、じっと耳を傾けるくらいエンジュの歌声を気に入っていた。



 エンジュは、一瞬瞳をぱちぱちと瞬かせた後、ゆっくりとヴァンの頭を撫でる。



「ヴァン君、いいよ。歌ってあげる」



 私たちは、エンジュを囲むように座った。すうっと息を吸い込んで、エンジュが透き通った声で、歌い出す。



「さっきより、もっと素敵なお歌だね」



 ヴァンが、そっと私の耳元で嬉しそうに囁いた。私は、そっとヴァンの柔らかな黒髪の頭を撫でた。ヴァンが、身体を揺らしながらエンジュの澄んだ歌声に溶け込んでいくようだ。



 ピピピ、チチチ、小鳥たちが囀りながら、再びエンジュの周りに集まってくる。



 光の輪の中に、エンジュ一人ではなく、今度は私たちも一緒に輪の中に入って、エンジュの歌声を静かに聴いた。



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