192 チョコミントの魔法とスカイブルーの絆と私
ベリーの酸味とチョコレート……高貴なる姫君のようなコントラストに私の心が跳ね上がる。アリオスの熱い視線を感じながら、チョコレートを纏った赤いアイスをお口に入れた。
あむ……
ああ、何ということでしょう。甘いアイスクリームをベリーの酸味が中和した瞬間、チョコレートの芳醇な香りと甘さがお口の中を追撃してくる……。
「はぅ……」
ベリーのアイスをくれたお貴族様が、胸を押さえて涙を流し始めた。
「アルちゃん……アリオスが、すごいことになってるけど?」
ジェシカに言われ、アリオスを見れば熱い視線を通り越して悪魔の大魔王が降臨してそうな恐ろしいお顔になっていた。
私の首筋の白い刻印がチリチリと熱く熱を帯び始める。どうやら、アリオスもアイスクリームを食べたいらしい。
ベリーを制覇した私は、私のドレスと同じ色をしたスカイブルーのアイスクリームを手に取った。
「そちらはミントのアイスクリームでございます」
「ありがたく頂きますね」
恍惚とした表情のお貴族様へ微笑むと、またしても胸を抑え俯いて震えだす。風邪でもひいてお熱が出たのかもしれない。
チョコレートを掬い上げ、ミントのアイスクリームへトロリと回しかける。スカイブルーのアイスクリームにチョコレートのベールが薄くかけられた。
銀のスプーンでチョコレートを割りアイスクリームと一緒にお口の中へと誘う。
ゴゴゴゴゴ……
地獄の底から聞こえてくるように地鳴りとともに、私の魔力が弾かれる。
パリン……
あぁ……溶けちゃった。
ミントの清涼感とアイスクリームの冷たさをもってしても背後のお熱には敵わなかったようで、私は給仕係を手招きしてミントのアイスクリームのおかわりを頂いた。
周りのお貴族様たちが、さっきまでは快楽の中蕩けるような表情をしていたのに、今は死の間際に直面したかのように恐怖で凍りついた絶望的なお顔をしていた。
「ふふふん」
私は、とろりとミントのアイスクリームにチョコレートをかける。
このミントとチョコレートの奏でるハーモニーはまさに黄金比! スイーツの王様と言っても過言ではない。この素晴らしい清涼感は、首筋の熱い熱を帯びた白の刻印さえも冷やしてくれる。
私は、銀のスプーンでチョコレートとミントアイスを掬った。そして、後ろを振り返り、フーフーと荒く鼻息を吹きかけるアリオスのお口へ、そのスプーンをそっと差し込んだ。
「えへへ……王子様、お味はどうですか?」
アリオスの熱い視線が、ミントのアイスクリームの清涼感を浴びて、熱が冷めていく。アリオスが、私の目を見つめたままそっと私の首筋に長い指をゆっくりと這わせる。
「……まいった……チョコミントに負けた!」
「えへへ……最高に冷たくて美味しいよね!」
私たちは、おでこをコツンと寄せ合って笑う。そして、再び時の針が同じ時を刻み出した。
「アリオス……其方、人間らしくなったな……」
「俺は……アンタと違って、元から人間だ……でも、最近は面白い日々を送ってる」
「そうか……お姉ちゃん! 僕ともお友達になってよ!」
領主様モードになったかと思えば、私には最後まで少年モードで対応するらしい。お友達ですか……。カナリア、モナリィに続いて、三人目?
「えへへ……私たち、お友達だね」
「え!? アルちゃん……領主様……だぞ?」
「あら……いいんじゃないかしら」
私の発言にメロンをポソリと落とすエルビスに、ジェシカがクスクスと笑った。
「フン……友達止まりだけどな」
「いや、アリオス……それはどうかわからんぞ」
どうやら、保護者三人の許可は降りたようだ。改めて、お友達よろしくと領主様と微笑み合う。
アリオスが、上を向いて大きく息を吸って「フゥ……」と吐いていく。
「師匠?」
なんからしくないアリオスが、私の目をじっと静かに見つめた。
ホールでは、音楽家たちによる演奏が始まった。
「……お姫様、俺と一曲踊ってくれませんか?」
アリオスが、右手をそっと出して私に腰を折る。その真剣な瞳に釣られて、差し出された右手にそっと左手を乗せた。
「王子様……私、踊れませんよ?」
もともと奴隷だった私に、ダンスなんて教養はない。だけど、なんとなくアリオスのお誘いは断ってはダメだと本能が察知する。
にっこりと意地悪な笑みを浮かべる王子様が、私の手を引き寄せる。
「……逃がさない」
私の耳元に唇を寄せ、甘くて切ない吐息と共に少し掠れた声で囁いた。
アリオスの左手が、そっと優しく腰に回される。
「俺に魔力を同調させろ……」
「術式……魔力固定……対象……アリオス」
「……それでいい」
私とアリオスの首筋に光る白と黒の刻印が、魔力を帯びて同調する。
ちゅっと頬に掠るアリオスの唇に、胸の鼓動がドクンと跳ねる。徐々に速くなる音楽のリズムに合わせて、アリオスと私の鼓動が重なり始めた。
アリオスが、ゆっくりと私を伴ってホールの中央へ誘った。私たちは見つめ合ったまま音楽の輪の中に入っていく。揺れるスカイブルーのドレスが風に舞って、アリオスと一緒にお花のように広がった。
視界の端にエルビスに抱っこされたままの領主様が、パチリとウィンクをする。三人目のお友達とエルビス、ジェシカに見守られながら、私は生まれて初めてのダンスをアリオスと踊った。
「あら……アルちゃん、眠っちゃったのね……」
俺の肩にもたれかかり、スースーと静かな寝息を立てるアルの肩をそっと抱き寄せる。
二人っきりになれないのは残念だが、俺にはアルと過ごす時間はいくらでもある。目の前でニヤニヤと笑う女狐と父親面の男を「フン」と鼻で笑ってあしらう。
「これからも、振り回されてやるよ……」
お腹いっぱいになった可愛い俺のお姫様のこめかみに、そっと唇を寄せた。
いつも応援いただきありがとうございます。
アルとアリオスの晩餐会、お楽しみいただけましたでしょうか?
これからもアルはアリオスを振り回していくでしょう。
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