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元Sランク冒険者は、新人!? 人生やり直し中の無自覚少女アル、お一人様満喫計画  作者: 枝豆子
第9章:最果ての街マローへの帰還!巡りあう想いと新たなる絆編

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191 スローモーションと冷たい誘惑と私

 もう、私は、蕩けてしまいそうです。



 お口の中に広がる芳醇なチョコレートと弾けるようなジューシーな果実の香りが熱い舌の上で絡み合う。



 一口食べるごとに私の身体が、うねうね、くねくねと喜びを感じて悶えてしまいます。



「アルちゃん……本当に美味しそうに食べるのね」

「えへへ……だって、本当に美味しいんだもん」



 ふと、ジェシカの手に持つデザートカップに視線が止まる。



「ジェシカさん……それは?」



 きょとんとする表情のジェシカが、自分の持つデザートカップに釘付けになった私の視線に気がつき、赤く艶っぽい唇の口角を上げた。



「これは……アイスクリームにチョコレートをかけたのよ」

「にゃあああああ! なんという贅沢な一品!」



 アイスクリーム……どこ、どこにあるの? チョコレートフォンデュの泉の周りにもどこにもありません! 



 私の熱い視線がホールを駆け巡り始めると、静まり返っていたお貴族様たちが動きはじめた。



 そして、給仕係から何かを受け取って、私の前で数人のお貴族様がひざまづいた。



「美しきお嬢様……お探し物はこちらですか?」

「いえ、私のものこそ、姫のご所望される一品かと存じます」



 私の背後では、未だに「ぬあぁ……」「ブェリィイー……」とスローモーションで罵り合う元王子様と元少年、そしてゆっくりと一つのメロンをお口に運ぼうとしているエルビスがいる。



「鬼の居ぬ間に……ってところかしらね?」



 鬼? オーガもこの会場にいるの? そんなのいたら、一斉排除だよね? キョロキョロと邪魔者を探すが、オーガの姿は、どこにもいない……。



「美しき姫よ……我が手をお取りください……」



 私を熱く潤んだ瞳で見上げるお貴族様。その手には、みながアイスクリームが盛られたデザートカップを持っていた。



「うふふ……バニラにベリーにミント……どれもチョコレートとの相性は抜群よ」



 ジェシカの言葉に私の喉がゴクンと上下する。お姫様として、私はどう受け止めれば良いのだろうか?



「えっと……ありがとう存じます?」



 そうだ! まずは、感謝の言葉を伝えよう。私は、とびっきりの笑顔を作って微笑んだ。



「はう……」



 一人のお貴族様が胸を抑え、悶える。カップが震え、落としそうになったため、急いでアイスの入ったデザートカップを両手で受け取った。



「みなさまのお心、すべて頂きますわ」



 ミントもベリーも逃さない! バニラを食べるまで、待ってて欲しいと心を込めてお伝えした。



「ああ……姫よ」

「……御意でございます」

「あらあら……アルちゃんも罪づくりね……」



 ん? 私は、何も悪いことしてませんよ。ジェシカの言葉に首を傾げるが、クスクスと笑みをこぼすだけでその答えを教えてくれなかった。




 バニラアイスを片手にチョコレートの泉から掬い上げた蕩けるチョコレートを真上からゆっくりと垂らしていく。まるで雪山の上に徐々に降り積もるチョコレート……アイスクリームの冷たさで溶けたチョコレートがゆっくりと固まっていく様は、芸術の極みだった。



 銀色のスプーンをそっとアイスのお山の頂に差し込めば、パキンと小さくチョコレートが割れる音が耳に届く。



「それでは、頂きますね」



 お口に入れる前に、お胸を抑えているお貴族様へ微笑みかければ、お顔を真っ赤にさせてコクコクと頷いた。



 それでは、実食!



 濃厚なバニラが舌の上で雪解けのようにあっという間に溶けていく……そしてその後、ビターなチョコレートの二重奏……。私の目にうっすらと涙が溜まっていく。



「私……今日、この日のために生まれてきたのかもしれない……」



 指先で目尻に溜まった涙を拭い、振り返れば跪いていたお貴族様たちだけでなく、遠巻きに私たちを見ていた招待客もが、熱い眼差しで私を見ていた。



 みんな、チョコレートフォンデュに興味があるのだろう。ジェシカの教えてくれた、アイスにかける新しい食べ方をもっと知りたいのかもしれない。



「みなさま……アイスクリーム、とても美味しゅうございます……」



 私の背後では、未だにスローモーションな動きをするアリオスたちがいる。彼らが、動き出す前に全てのアイスクリームの制覇を成し遂げなければと心に誓う。



 だって、エルビスにまたパクパク食べられたら、アイスクリームもなくなっちゃう。未だにゆっくりとプルプルしながら一切れのメロンをお口に運ぶエルビスを私は強敵と認定した。



「ギルマスは、そこでゆっくりメロンを食べてればいい!」

「アルちゃん……アリオスたちはいいの?」

「……うん、領主様と楽しそうに遊んでいるし、大丈夫!」

「そう?……あの顔は、「他の男にそんな顔を見せるな」って思ってると思うわよ」

「ん? ジェシカさん、何か言った?」



 チラリと視線を向ければ、アリオスが私を見つめ返してきた。私は、アリオスに向けてこれみよがしに、あむっとバニラアイスをお口に入れる。



「ぐぅぬぅぬぅ……」



 羨ましそうにアリオスが、ゆっくりと悶えている。




 そして、私はお貴族様たちから受け取ったベリー、ミントと色とりどりなアイスにチョコレートをかけて、アイスクリームの制覇を始めるのだった。


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