190 募る想いと愛の告白と私
次なる攻略対象をうっとりと熱い眼差しで見つめる私。お肉は制覇した。私のお腹の虫は、極上のスイーツだと訴えはじめる。
目指すは、琥珀色の光を反射して流れる、魅惑のチョコレート滝だ。
「うららららららら!」
「あばばばばばば!」
いまだ戯れあいを続けるアリオス(王子様)と領主様(少年)。とりあえず放置して、私は魅惑的なチョコレートの滝へと一歩踏み出した。
グラリ……
あ、私、今、お姫様のお靴のせいで、一歩も歩けないの忘れてた……。
バランスを崩した私。ダメだ、こんな細い踵だと踏ん張れない……。
「アル……俺を呼べって言っただろう」
少し焦るアリオスの声が耳元で囁かれ、ぐいっと逞しい腕が、私のお腹を支えた。そして、優雅に私を胸に抱き寄せ腰に手を回す。
「きゃああああああああ!」
「私も、あの腕に抱かれたい!」
黄色い悲鳴が私のお耳を攻撃する。アリオスもその喧騒に「うるせえな」とお顔を顰めた。
ドキドキと高鳴る私の鼓動。どうやら危機一髪を感じて早鐘を打ちつけているようだ。
「師匠……領主様は?」
「ああん……あそこだ」
アリオスが、尖った顎で指し示すは、呆然と青い顔をして立ち尽くすエルビスだ。そしてその胸には、超絶不機嫌なお顔をした少年姿の領主様が抱かれていた。
「男の胸に抱かれても嬉しくない……」
そう呟く領主様を見て、私は「ぶぶっ」と笑ってしまった。
アリオスが私の腰をしっかりと支えてくれるため、安定感は抜群だ! 私がじっとアリオスを見つめれば、アリオスが私の口元にお耳を寄せてくれた。
「王子様、チョコレート滝が、私たちを待っています」
「ククッ……姫の仰せの通りに……」
私たちがチョコレートの滝へ歩みを進めれば、黄色い悲鳴をあげていたお嬢様や潤んだ瞳で私たちを見つめるお貴族様たちが、ゆっくりと道を開けていく。
お礼の意を込めてヒラヒラと手を振れば、なぜだかみんなが胸を抑え悶えはじめた。隣で私の歩調に合わせて胸を張り歩くアリオスが、口角を上げ「フフン」と鼻を鳴らした。
「ええい! エルビス! 我らも行くぞ! 呆けてないで足を動かせ!」
「はっ!? 承知しました……」
「領主様……アルちゃん、面白いでしょう?」
「うむ……悪くない!」
エルビスは、どうやら領主様のお馬さんとしてチョコレートの滝を目指すようだ。領主様を抱っこしたエルビスとジェシカが並ぶ姿を見て、「お父さんとお母さんみたいだね」とアリオスに呟けば、「ブハッ」と再び王子様の仮面が剥がれてしまった。
コポコポと溶けたチョコレートが滝のように流れて、シャンデリアの光に照らされ美しく輝きを放っている。
「お姉ちゃん、チョコレートフォンデュっていうんだよ」
エルビスに抱っこされたままの領主様が、私の隣で呟いた。チョコレートフォンデュ……なんて甘美な言葉なんでしょう。流れるチョコレートの滝に泉が溢れることなく循環し、周りには色とりどりなフルーツやマシュマロが可愛らしく盛り付けされている。
「ジェシカ……ベリーを」
「ハイ……どうぞ」
お母さん役のジェシカが、領主様の右手にベリーを刺した銀のフォークをそっと握らせた。エルビスに抱っこされたまま、領主様はベリーをそっとキラキラと輝くチョコレートの滝を潜らせる。赤いベリーにチョコレートがコーティングされた。
エルビスに抱っこされた領主様が、魅惑のチョコレートに包まれたベリーが刺さった銀のフォークを私へと差し出した。
「お姉ちゃん! あーん……」
エルビスに抱っこされている為、私のお口の高さに丁度良い。私の唇がゆっくりと開き、甘く芳醇なチョコレートの香りがするベリーへと引き寄せられていく。
あむ……もぐ、もぐ、もぐ
「にゃ! し、師匠! 酷い! 酷すぎる!」
「ああ? 確かに甘酸っぱいな」
私の横からアリオスが顔を出して、目の前でバクッと私のベリーに齧り付いた!
「アリオス……貴様……またしても、邪魔をするか……」
「フォンデュには、ベリーじゃなくてバナナだ!」
アリオスが、白いプリっとした一口サイズのバナナを銀のフォークに刺して、チョコレートの滝に潜らせる。そしてまったりと白い実にチョコレートがほどよく纏ったバナナが、私の口元へ差し出された。
もぐ、もぐ、もぐ、もぐ……。
「この餓鬼! なんでテメエが食うんだよ!」
「ふむ……最高級なバナナだけあるな……悪くはない」
んな! んな! またしても、私のバナナが横取りされた! アリオスの手を領主様が自分に引き寄せ、私の目の前で、バクリとバナナを食べた。
「アルちゃん……私は、オランジェットが好きよ」
ジェシカが、自分で銀のフォークに柑橘系のフルーツを刺して、上品にお口を開けてチョコレートを纏ったオランジェットをパクッと食べた。
「俺は、メロンかな……」
エルビスまでも領主様を抱っこしたままみずみずしいメロンを銀のフォークでチョコレートの滝に潜らせパクパクと食べる。
皆が皆、自分の好きなスイーツをキラキラなチョコレートの滝に潜らせ食べはじめた。わ、私だけお預けですか!
「バナナだ!」
「いいや、酸味のあるベリーが一番だ!」
領主様も少年の仮面を脱ぎ捨てて、エルビスに抱っこされたままアリオスと罵り合う。腕の中で多少暴れられても筋骨隆々なエルビスは、我関せずとメロンをどんどん食べていく。
メロン……なくなっちゃう!
「術式展開……スロウ……倍の倍の倍! 対象アリオス、エルビス、領主様!」
バンと広がる私の魔力。対象三人の時間だけがゆっくりと時計の針を刻みはじめた。
「んなあ……」
「バァナァナァ……」
超絶スローモーションで動きはじめた三人をジェシカがクスクス笑いながら私に声をかけた。
「アルちゃん……エルビスもお仕置きなの?」
「だって……メロンがなくなっちゃうもん……」
私は、改めて銀のフォークを手に取った。そして、白くてモチモチしたマシュマロをプスッと刺した。
いざ行かん! チョコレートの滝へ!
真っ白なマシュマロをトプッとチョコレートの滝の中へ差し込んだ。指先へ伝わるチョコレートの流れ……。ああ、堪らない……。
そして、ゆっくりと自分の口へマシュマロを誘導する。
ずっと、会いたかったです。
心ゆくまで私はチョコレートの滝と戯れ続けました。




