186 アリオスの挑戦状と自己主張するお腹の虫と私
ホール中から好奇な視線が私に集中する。ドキドキ、ワクワクといった好奇心からくる視線、私を値踏みするような眼差し、いちばん厄介なのは、姿は見えないが二階の最奥から魔力をのせて私に絡みつくように投げかけられた一つの視線。
私の隣で「次はアルの番だ」と意地悪く呟くアリオスをジッと睨む。
そうか、これは意地悪王子様のアリオスからの挑戦状だ。それならば、受けて立とうじゃないか! 私の学習能力を甘く見ないでよね!
覚悟を決めた私は、アリオスを見上げてにっこりと微笑んでみせた。そして、笑顔のまま私は正面を向いた。
脳裏に思い出すのは、先ほどお手本を見せてくれたジェシカの姿。凛とした姿勢で真っ直ぐに正面を向き、ドレスの裾を軽く持ち上げてエルビスに会釈をした美しいポーズ。ドレスの形は違えども、正解な挨拶には違いない!
私は、ピンと背筋を伸ばし、両手の指先でスカイブルーのドレスを軽く摘み上げる。左脚を軸にして右脚を少しクロスに下げた後、背中を伸ばしたままゆっくりと腰を折った。
「1、2、3、4、5」
しんと静まり返ったホール。全ての視線が、私に集まっているのが分かる。
腰を折ったポーズのまま、ゆっくりとカウントした私は、とびっきりの笑顔で頭を上げていく。真っ直ぐに姿勢を正し、摘み上げた指先のドレスを離せばふわりとドレスが落ちていった。
「ふふん! 私だってやるんだからね!」
隣で私を眩しそうに見つめるアリオスに胸を張って答え、アリオスの腕に自分から腕を絡み付かせた。
「わあああああああ!」
「きゃああああああああ!」
再び割れるような歓声と招待客が打ち鳴らす拍手の音にホール中が湧き上がる。割れるような歓声の中、アリオスが私の耳元へ唇を寄せ、吐息交じりに耳の奥へゾクリとする低い声で囁いた。
「上等だ! そのままずっと俺の隣にいろ」
「くぅ……くすぐったいなぁ……もう……師匠に言われなくっても、私はずっと師匠のそばにいるよ!」
アリオスと肩を寄せ合い、二人並んでもう一度お辞儀をする。そして、私たちが目指す場所は一つ。ホールの一番奥に並ぶ最高級のお料理やスイーツが並んだあの場所だ!
ぎゅるるるるるるる!
緊張がほぐれた私のお腹の虫が、アリオスに無言の催促をする。
「ブハッ! ククククク……色気より食い気か!」
「はう……うるさいし、師匠」
笑うアリオスは、私の歩調に合わせてゆっくりと歩き出す。目指せ、お料理! 待ってろ、私のお腹!
「主催者……領主の挨拶が終わるまでは、お預けだぞ?」
「ええ!? まだ、食べちゃダメなの?」
私たちは光のカーテンからゆっくり外れていく。取り敢えず、私たちのお披露目は終わりだ。
顔も知らないお貴族様や招待客が、私たちに声をかけてこようとするが、アリオスがひと睨みするだけで、人混みの中の道が開いていく。
「おお! 師匠、便利だ」
「面倒な挨拶はいらん!」
領主様の挨拶が終われば、すぐに美味しいお料理が食べられるようにベストポジションをキープする。
続いてファンファーレが鳴る中、エルビスとジェシカが会場へ入場、そしてその後も続々と招待客がホールへと集まってきた。
やっぱり、だれも抱っこされて入場するお嬢様はいませんでした。これからも私はアリオスに翻弄され続けるらしい。
「アリオス……テメエ、遊び過ぎだ!」
「フン!」
もっと叱ってください。私にはアリオスを制御できません。アリオスもエルビスのお小言を「知るか!」と鼻で笑う。
「だけど、とっても仲良しってみんなに伝わったわよ?」
「フン!」
ジェシカの言葉には、アリオスは嬉しそうにニヤリと口角を上げ満足そうだ。同じ「フン!」でも全然印象が違う。
「さあ、アルちゃん……領主様のお出ましよ」
ジェシカの囁きが終わるや否や、ホールに流れていた静かな演奏がピッタリと止んだ。そしてホールの照明が落とされた、すべての光がホールの壇上二階へと集中する。
ピリリと私に纏わりつく魔力を帯びた視線が強くなる。アリオスも私の異変を感じたのか、首元の黒く輝く刻印を手のひらで擦った。
「術式展開……」
「お、おい……アルちゃん」
私が術式を構築し始めたことにギョッとするエルビス。対照的に「へえ!」と面白がるアリオス。師匠からは、お許しが出たと判断しても良いということだ。
だって、うざいんだもん! これから美味しくお料理を食べるんだから、チクチク、ピリピリと纏わりつく魔力を排除したい!
「精神干渉無効! 魔力攻撃無効! 結界展開!」
「そうだ! それでいい!」
私を中心に安全領域が展開される。アリオスだけでなく、ついでにエルビスもジェシカにも気持ちよく晩餐会のお料理を堪能してもらうべく、私の結界で包み込む。
……パリン
私に攻撃を仕掛けていた魔力を弾く音が、私の耳だけに聞こえたのだった。
アリオスだけでなくアル、お前もか!
相変わらず、台風の目です
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