185 SSSランクのエスコートと光のカーテンと私
「フン……悪くない」
私の手鏡を使って自分の首筋に輝く黒の刻印を眺めながら、指先でその存在を確認するアリオスが、嬉しそうに口角を上げる。
「チッ……俺たちは、何を見せられてんだ……」
「ギルマス……ヤキモチか? みっともない」
「アリオス……テメエ……クソッ!」
えっと……エルビスも、刻印を刻んで欲しい? なんだろう……マローの冒険者は、刻印を刻むのがトレンドなのだろうか?
アリオスは、首元のボタンを締め、改めてスカイブルーのクロスタイをつける。襟首から黒の刻印が少し見えるように襟の位置を調整してニンマリと笑った。
「嬢ちゃん……手鏡ありがとうな」
「どういたしまして?」
アイテムボックスに手鏡を片付けると、アリオスが自然に私の手を握り指先を絡め、私をぐいっと自分の方に引き寄せた。
チュッ……
頬にアリオスの唇が当てられ、吸い付くようなリップ音が耳の奥まで届く。
「……これで、俺はお前のものだ……」
「え!? え!? ええ!?」
混乱の極みにいると、ジェシカがクスクスと口元を指先で隠しながら上品に笑う。
「アリオスは、アルちゃんの最強のナイトってことよ」
「……最強じゃなくて……最恐だろう……」
「フンッ 僻むな! な、嬢ちゃん」
なんだろう……保護者の会で、何か暗黙の了解が交わされたようだ。アリオスの行為が、私の従魔であるアークデーモンのアーくんとの契約の瞬間を思い出させる。
「師匠……アーくんと一緒?」
「はあ!?」
「ブハッ……ざまぁねえな、アリオス! そうだ、アルちゃん、アーくんと同じだ! ずっとアルちゃんと一緒だ!」
「そっか……えへへ! 師匠、これからもよろしくね!」
私を信じられないものを見るように大きく目を開いたアリオス。大きく息を吸って、盛大なため息を吐いた。
「……嬢ちゃん、覚悟しておけよ」
「ふふん! 師匠も、覚悟しておいてね!」
「クッ! 上等だ!」
私たちは、おでこをコツンと寄せ合い、にっこりと笑った。アリオスの少し獰猛な笑顔が、首筋に刻まれた黒の刻印によく似合ってると感じた。
ガタン、ゴトンと車体を揺らしながら、私たちを乗せた馬車が煌びやかな門を通過していく。
馬車を引くお馬さんが静かに嘶くと同時に馬車の揺れが収まった。車窓から見えるのは、白く大きなお屋敷だ。
御者により馬車の扉が開かれた。まずは、エルビスが馬車から降りその手をジェシカに差し出す。
ジェシカが軽くエルビスの手に自分の手を重ね凛とした表情で前を向いたまま馬車を降りていく。そして、馬車から降りるとエルビスに会釈をしてエルビスの腕に自分の腕を絡めた。
ふむふむ……。ジェシカをお手本に、馬車から降りればいいんだね。目の前に綺麗なお手本があるとありがたい。
にやりと笑うアリオス。「よろしく、王子様」と私も笑みを返した。
「んにゃ!?」
アリオスが、私の腕を自分の肩に回したかと思った瞬間、膝裏にアリオスの腕が差し込まれ、背中に大きな手のひらを支えとしてぐいっと抱き上げられた。
私の腕が落ちないようにアリオスが私の腕を誘導すると、そのまま私の腕が自然とアリオスの首に巻きついた。「しがみついとけ!」と意地悪く耳元で囁くアリオスの低い声が私をゾクリとさせ、くすぐったい。呆れるエルビスを横目に、私はアリオスに抱っこされた状態で、馬車を降りた。
「おい! アリオス、おい!」
馬車を先に降りたエルビスが、アリオスに声をかけるが、「フフン」と鼻で笑い、私を抱き上げたままカツカツと足音を鳴らしながら真っ直ぐに歩いていく。
領主邸の従者たちが頭を下げてお出迎えしてくれる赤いカーペットの上を、アリオスは私を抱っこしたまま歩いていく。
皆の視線が集まる中、抱っこされた私はいたたまれない。
「師匠……私、歩けるよ?」
「……いいからしがみついとけ! 舌を噛むぞ」
どうしても、私を降ろすという選択肢は、アリオスの中にはないらしい。
お辞儀を忘れて私たちを凝視する従者、私たちが過ぎ去った後ヒソヒソ話をし始めるメイド達、他にも煌びやかなドレスや衣装に包まれた招待客達までもが私を抱っこして赤絨毯を闊歩するアリオスに視線を集める。
赤絨毯の先にある重厚な扉の前で、アリオスが踵を鳴らして立ち止まる。
「師匠……降ろしてくれる?」
私の問いかけに、アリオスが意地悪くにやりと口角を上げる。
「……いや、まだだ」
マジですか!? どこまで、私を翻弄して見世物にする気ですか? アリオスのお耳を引っ張ってみたが、「ハハハ」と上機嫌に笑うだけで、未だに私はアリオスに抱っこされたままだ。
「SSSランク冒険者のアリオス様と新人王にしてAランクに昇格されたアル様の入場です」
ファンファーレが鳴り響く中、目の前の重厚な扉が従者達によってギギギと押し開かれた。
会場からの眩しい光が私を抱っこしたままのアリオスに降り注ぐ。逆光に縁取られたアリオスのシルエットが、光のカーテンを割り、ゆっくりと歩みを進める
そして、招待客が集まるホールの中央に立つと、私をとても大切な壊れものを扱うように優しく抱き寄せ、みんなが注目する中アリオスの薄い唇が私の頬に押し付けられた。
「きゃああああああああああああ!」
耳がくわんくわんとなりそうなほどの淑女たちの悲鳴。私の方が、悲鳴を上げたいです!
そして、満足な表情をしたアリオスが、ようやく私を降ろしてくれたのだった。
どうしてだろう……どんどんラブコメになっていく。
はっ! 全ては、アリオスが元凶か!
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