184 白と黒の刻印と刻まれる誓いと私
アリオスに両手を添えるだけで、自然と踏み出せた一歩。しっかりと私を支えてくれているという安心感からだろうか? 不安だった足元の震えもピタリと止まった。
「歩けた! この綺麗なスカイブルーの靴で歩けた!」
「そっか……」
私の満面の笑みに釣られて、アリオスも自然に笑みを浮かべる。そして、私の腕を自分の腕に絡ませるように誘導してアリオスが隣に立った。
「俺を支えに重心をかければ、大丈夫だからな」
「うん! うん!」
私の歩幅に合わせてアリオスが一歩前へ。私もアリオスと足を合わせて一歩前へ。アリオスと見つめ合い、「えへへ」と微笑む。足の動きに集中しなくても、アリオスがしっかりと支えてくれるから安心して前に歩ける。
「おーい 迎えの馬車が来たぞ」
リビングから私たちを呼ぶバートの声が聞こえた。
「師匠……美味しい料理、いっぱい食べれるね!」
「ブハッ……色気より食い気か……嬢ちゃん、しっかりご馳走になりにいくか!」
「うん!」
私は、ワクワクと心踊り続ける胸の鼓動を感じながら、アリオスと一緒に部屋を後にした。
「ギルマス?……ジェシカさん?」
お迎えに来た馬車の中にフォーマルな衣装に身を包んだエルビスとジェシカが座っていた。
「俺たちも招待されてるんだよ!」
「アルちゃん……そのドレスとってもよく似合ってるわ……ね、アリオス」
「えへへ……ジェシカさん、ありがとう! 師匠がプレゼントしてくれたんだよ」
アリオスの腕に絡ませた腕にぎゅっと力を込める。素敵なドレスを準備してくれたのはアリオスだ。アリオスを見つめると私以上に嬉しそうな笑みを浮かべる。私が、ドレスを気に入ったことが本当に嬉しいようだ。
アリオスにエスコートされ、馬車の中へと乗り込む。うん、私、お姫様みたいに歩けてる! アリオスと並んで座席に座り、自然と私たちの手が指先を絡めて繋ぎ合う。
正面の座席にエルビスとジェシカが座り、向かい合わせで私とアリオスが肩を寄せ合い座る。エルビスが、じっと私達を無言で睨むので、「えへへ」と笑って見せたがご機嫌はあまりよろしくないようだ。
「アルちゃん……なんでそんな男が良いんだ?」
「ギルマス! それは、俺に失礼だろう! 嬢ちゃん、あんな親父の言うことは、無視だ無視!」
「師匠は、ちゃんと王子様してくれたよ?」
私の言葉に「フフン」と鼻を鳴らして嬉しそうにするアリオスが、絡め合う手をぎゅっと握りしめる。力勝負か? 望むところだと、私もギュギュッと握り返して、アリオスの身体にもたれかかる。
「くそっ……ますます親密になりやがって……」
「あらあら……アルちゃんが離れて行くのが寂しいのね……本当に親子みたいね」
「うん! ギルマスは、私のマローでのお父さん!」
私の言葉にエルビスが少し耳まで頬を染めて、「そんなんじゃねえ」と少し照れたように呟いた。
「ちなみに、アルちゃん……ここ、どうしたの? すごくキラキラしてるんだけど?」
ジェシカが、自分の首筋をトントンと指先で差し示す。かつてアリオスが刻んだ真っ赤な歯型が鎮座していた場所だ。
「そう言えば……そこのクソ野郎がアルちゃんの首筋に噛み付いたんだったよなぁ……ポーションでも飲んで消したか?」
「……消してない」
消すのは簡単だけど、消したらまたムキになってアリオスが噛んじゃう……って思ったから、歯型は残している。
隣に座るアリオスも興味を持ったのか、顔を首筋に近づけてじっと観察してくる。鼻息が、吐息がくすぐったいです。
「ひゃう……!」
スッとアリオスに首筋を指先でなぞられ、思わず変な声が出た。いきなり触るのは反則だ! ジロリとアリオスを睨むとお皿のように目をまん丸にしたアリオス。何度も何度も指先が首筋を往復する。
「んん……くすぐったい!」
「アル……俺の痕が……白く煌めく刻印になってる……どうした?」
私の耳元で囁かれるアリオスの低い声が吐息と混ざりくすぐったい。今は、お姫様な私のため、身体を捩るくらいの抵抗しかできないけど、お家に帰ったら絶対にアーくんや毛むくじゃらと反撃してやる。
「くぅ……モナリィが……赤い痕目立つわよ……て言ったから……」
「……言ったから?」
「だ……だから……目立たないよう……ドレスに合わせて……私の魔力で……上書きした……の」
「……一生……残っても良いのか?」
アリオスのゴクリと唾を飲む音が聞こえる。……一生残る? モナリィにも、そんなこと言われたね。だけど、消したら絶対もっと噛みつくじゃん。
「……別に……構わない」
くすぐったくて、ハアハアと肩で呼吸をしながら、私は答えた。
ダン!
馬車の中に大きく響き渡る打撃音。目の前に座るエルビスが、馬車の側面を拳で殴った音だと壁に叩きつけたまま止まっているエルビスの拳を見て理解した。
「アリオス……馬車の中で……発情すんな」
「ああん……羨ましいからって……蹴られたいのか?」
エルビスとアリオスが、狭い馬車の中で睨み合う。指先の動きが止まって、私は胸に手を当ててようやく呼吸を整えることができた。
アリオスが、私を見て徐にスカイブルーのクロスタイを緩め、首元のボタンを外し私の前で首筋を晒した。
「師匠……せっかくオシャレしてるのに……」
「アル……ん……俺のここ!」
首筋に残る私が噛み付いた赤い歯型をアリオスが恥ずかしげもなく晒した。
意図がわからず首を傾げると、アリオスが私の手を取りアリオスに刻んだ歯型へと指先を誘導した。
「えっと……師匠?」
「俺の歯型も、アルと同じにしてくれ!」
「あら? アリオスも刻印を刻まれたいの?」
アリオスの反応にジェシカが真っ赤な口紅を引いた唇の口角をニッと上げる。
「当然だ!」
私を熱のこもった瞳で見つめるアリオス。どうやら、刻印をお揃いにして欲しいようだ。
「本当に、師匠はわがままだなぁ……後で怒らないでよ?」
「フン……上等だ! しっかり刻めよ!」
クスクスと笑いながら、私は指先に魔力を乗せる。どうせなら、アリオスに噛み付いた歯型を私の刻印と対にしたら面白いかもしれない。私が白なら、アリオスは?
「もう、一生消えないからね!」
アリオスの首筋に私と対になる黒く光る刻印を残してあげた。




