181 スカイブルーの幻想とナチュラルピンクの魔法と私
くるるん、くるるん。
柔らかいスカイブルーの柔らかい生地がふわりと風を含んで舞い踊る。手のひらに吸い付くようなするりとした生地の胸元には、白いレースがたっぷりとあしらわれていて、とても上品なドレスだと思う。
「おお! ふわふわのふわふわって広がるね?」
「もう、アルさんったら……まだ、メイクもヘアセットもしなくちゃいけないし、せっかくのドレスが本番前に汚れちゃうわよ?」
「むむむっ! それは由々しき事態! しょうがない……モナリィの言うことを聞いておこう」
初めてのドレスに舞い上がる私を見て、モナリィがクスクス笑いながらメイク道具を鏡の前に並べていく。私は、鏡の前に置かれた椅子にちょこんと座り、鏡に映り込む自分の姿を見て、口角が上がっていく。
「しかし、アリオスさまもいいセンスしてるわね アルさんの瞳の色に合わせたドレス……活発なアルさんのイメージを損なうことなくフレアなラインを選ぶなんて、普段からは想像ができないわ……」
「うん……私、ドレスなんて持ってなかったから、師匠には本当に感謝だよ」
鏡越しに覗くモナリィが、私の肩にタオルをそっとかける。私は、生まれて初めてのお化粧に心躍らせる。
「とびっきり可愛くなって、アリオスさまを驚かせましょうね」
「うん!」
そして、私の瞳と同じ色をしたスカイブルーのドレスをもらった夜のことを思い出して、モナリィとクスクス笑うのだった。
領主様からの招待状は、どうやら晩餐会のお誘いだったらしい。ただ、高級なお料理と食べたこともないスイーツに目が眩んだ私に、お呼ばれにもドレスコードとなるものがあるなんて知るわけがない。
ギルドから一人で帰ってきたあの日の夜、大きな箱を抱えたアリオスが、私たちの夕飯が終わる頃に帰宅した。
「嬢ちゃんのだ……」
少し頬を赤らめながら渡された大きな箱をモナリィと一緒に開け、このスカイブルーのドレスが一着入っていた。そして、ドレスの傍にあった小さな箱には、スカイブルーと同じ色をした、私の足元に置いてあるエナメルの靴が入っていた。
「ジェシカに、嬢ちゃんがドレスを持っていないだろうって言われてな……とにかく、アレだ! Aランク昇格したお祝いだ、お祝い!」
「ぷっ……師匠……今更お祝いって……だけど、お姫様みたいなお洋服……私、生まれて初めて! 師匠……ありがとうございます!」
孤児として、奴隷として生きていた私に、ドレスを着る日が来るなんて、本当に思いもしなかった。
モナリィは、少し羨ましそうな瞳で、チラリとバートを見ていたので、今度はバートがモナリィのドレスを抱えて帰宅する日が来るのかもしれない。
ドレスなんて着たことがない私が、お化粧やヘアメイクもできるはずがなく、私専属のスタイリストとして、モナリィが名乗り出てくれた。
「仕上がりを楽しみにしていてくださいね」
モナリィから、そう告げられアリオスはリビングで私の準備が整うのを待っている。
「胸周りもウエストも、アルさんのサイズにピッタリね きっと靴だって間違いなくサイズが合ってるはずよ」
ハタハタと、柔らかいハケで私の顔に白粉を乗せながら、モナリィがアリオスのくれたドレスを絶賛する。お口を開けようとすると、「じっとしてて」とモナリィに釘を刺されるので、私はお人形のようにじっと瞳を閉じて、相槌を打つだけだ。
「アルさんのお肌の色とドレスのスカイブルーを映えさせるなら、ナチュラルなピンク系かしら? 少しお口を開けて……」
モナリィに言われるまま、雛鳥のように唇を開くと筆がスッと唇の上を撫でていく。ほんのり香るお化粧の匂いにジェシカの色っぽい仕草を思い出す。
耳元を掠めるモナリィの指先が、私の髪の毛を少しずつ掬い上げ、空気が触れるスースーするうなじから髪が結い上げられていくのを感じた。
「ずっと瞳を閉じてるけど、目は開けてもいいのよ?」
「えへへ……せっかくだから出来上がりを見たいもん だから、完成まで目を閉じて待ってるの」
「やだ……アルさん……嬉しいな 私の腕を信じてくれるの?」
初めて私にお洒落を教えてくれたのは、紛れもなくモナリィだ。合同演習の朝、私のボサボサの髪の毛を可愛らしく編み込みをしてくれたことは、今でも鮮明に覚えている。
「以前もこうやってモナリィは、私を可愛らしくしてくれたから……」
「アルさん……本当に大好き」
「私もモナリィが好き」
私の人生で二人目の親友。バートがモナリィを泣かせたり困らせたりしたら、私が「めっ」て怒ってあげようと心に誓ったのだった。
少しは落ち着いて待てよ…… byバート




